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「昭和少年事件帳⑫」憧れのジェンマやイーストウッドとは真逆の事件!

(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。

 同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。

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 今回の話は、小学5年か6年の時に学校内で起こした事件です。

 この当時、うちの学校の男子達の間で流行ったのがパチンコです。

 パチンコといっても大人用の遊技ではなく、Y字型の本体上部2点にゴム紐を張り、手前に引いて伸ばしたゴムの反動で弾を飛ばす仕組みの玩具(?)です。

こんなヤツです。

 ゴム銃といった方が分かりやすいかも知れませんが、学校に持ち込んでいたのは駄菓子屋とかで売っていた本体がプラスチック製のモノでした。

 なんでこんなものが流行ったのか?

 恐らく、テレビの洋画ロードショーで西部劇が頻繁に放送されていたことも影響していると思います。

 「真昼の決闘」、「シェーン」、「荒野の七人」、「夕陽の用心棒」、「夕日のガンマン」、「荒野の1ドル銀貨」など数え上げたらキリがありません。

 中でも私はマカロニウエスタンが好きで、ジュリアーノ・ジェンマとかクリント・イーストウッドにあこがれていました。

 では、何でソレがパチンコなんだ?拳銃とパチンコでは形状が全く違うだろって思われるかも知れませんが、威力(弾のスピード)の面でいうと他のどんな拳銃系のおもちゃよりパチンコが数段上だったのです。

 なお、私たちがこの当時に弾として使用していたのは建築用の又釘です。
 コレを誰が思いついたのかは不明ですが、パチンコの弾としては完ぺきでした。

 ゴム紐の中央に又釘をはめ、U字型の足の部分をつまんで引っ張り狙いを定めるのですが、手がゴム紐に触れないのでブレが少なく命中率が高いのです。 

又釘を摘んで狙いを定めます。

 昼休みになると、校舎と校舎の間の日当たりが悪く目立たない中庭にパチンコを持って仲間が集まりました。

 全員で4、5人だったと思いますが、空き缶を立てて的あてをするのです。

 じっくり狙えば簡単に当たるのですが、私たちが競っていたのは早撃ちです。

 いかに素早くセットして缶を打ち抜くか・・打ち抜くといっても実際は缶に当てて倒すだけですけどね。

 西部劇の決闘なら相手と真正面で向き合いますが、そんな危ないマネはできないので、2人が横並びになり仲間の合図でパチンコに弾(又釘)をセットして缶を狙います。

合図待ちの2人です。

 相手より先に缶に当てれば勝利です。

 対戦相手を替えながら楽しく遊んでいたのですが、私の対戦の時に相手が放った弾が的を大き逸れて向かいの校舎のガラス窓にパチンと当たりました。

 「おいおい、どこ狙ってんだ・・」って、ひやかしていて・・目と口が止まりました。

 私だけではありません・・その場にいた全員が一瞬、息を飲んだのです。

 そして次の瞬間、「うぉ~すげ~!」っていう歓声があがりました。

 この時、一体何に興奮したのかといいますと・・当たった窓ガラスに小さな穴が空いていたのです。

 向かいにあった校舎は木造の古い平屋建てで廊下の窓は全て磨り(曇り)ガラスでした。

 これが普通の透明ガラスだったら又釘が当たっても跡も残らなかったでしょうし、逆にもう少し威力があればガラス全体にヒビが入るか粉々に砕けたと思うのですが、微妙な力加減と古い磨りガラスが奇跡を生んだのです。

 まるで西部劇でよくみる拳銃の弾の貫通跡のようでした。

磨りガラスにポツンと空いた穴

 実際は穴はとても小さかったし、又釘は貫通した訳ではなく手前に弾き落とされていたのですが、我々の心を鷲づかみするには十分でした。

 磨りガラスに空いたリアルな穴・・この状況を黙って見過ごすハズがありません。

 我先にパチンコを打ち始め、みるみるガラスは蜂の巣状態になり興奮もMAXです!

あっと言うまにハチの巣状態に・・

 その時、“コラー!!お前たち何やってるんだ~”・・まぁ~そりゃ~当然、そうなりますよねぇ~(苦笑)

 大きな怒鳴り声でハッ!と我に返りました。

 声の先は我々が打ち抜いたガラス窓から右に数枚分ずれた同じ校舎の窓です。

 開き放たれた窓に鬼の形相の年配の男の先生と、学校一優しいと評判の若い女の先生の厳しく冷たい目がありました。

窓から見ていた2人

 続けて、“お前達!そこを動くんじゃないぞ!”と、男の先生が一喝!
 校舎から出てつかつかと歩み寄ってきた先生は、“弱い者いじめして、人として恥ずかしくないのか!”

 えっ?? ヨワイモノ・・イジメ??
 磨りガラスって?弱い者だっけ?と、首をかしげたその時、遅れて出てきた女の先生の睨んだ目から涙がこぼれるのが見えました。
 
 で、次の瞬間に気付きました、あっ!そうだこの2人、特殊学級(現在の特別支援学級)の担任の先生だ・・

 そうです、私達が打ち抜いた磨りガラスの木造校舎に入っていたのは特殊学級のクラスだったのです。

 この状況を西部劇に例えるなら、寂れたマチの酒場(木造校舎)に年老いた保安官(男の先生)と踊り子のマドンナ(女の先生)がいた、といった状況です。

イメージ的にはこんな感じです。

 マドンナを守る正義のガンマンに憧れていた私でしたが・・どこからどう見ても・・マチを襲った、ならず者一味の一人です。

 ですが、ガラスに穴を空けたのは紛れもない事実だけど、弱い者いじめに関しては完全な濡れ衣です。

 我々が打ち抜いたのは教室ではなく廊下の窓ですし、パチンコで人を撃つつもりなんて全くありません。

 「ガラスに穴が空いたのが楽しかったので夢中になっただけです。」って訴えたのですが、興奮状態の保安官(男の先生)に理解されるはずがなく・・“そんな取って付けたような言い訳はどうでもいい!”と一刀両断です。

 保安官と言うよりは、お侍さん並みの鋭い切れ味でした(苦笑)

 更に“高学年にもなって、ガラスの向こうに人がいるかも知れないって想像できないハズがナイ!”って断言されると、もう次の言葉が出てきません。

 保安官(男の先生)の怒りは収まりそうもないし、マドンナ(女の先生)は終始軽蔑した目をしてるし、もうどうしようもないなと諦めかけていたとき、ようやくガンマン(担任の先生)の登場です。

 あ~助かったぁ~と思ったのですが、残念ながらガンマン(担任の先生)はならず者(我々)を救うどころか、我々と一蓮托生で保安官(男の先生)に怒られることとなりました。

 “一体、こども達にどんな指導をしてるんですか!”と保安官(男の先生)、それに平謝りのガンマン(担任の先生)が、頭を下げながらチラッとコチラ(ならず者達)に向けた目が怖い・・

先生・・目が怖いって

 ヤバイ教室に戻ったら、きっと、縛り首(倍返し)だ・・・ 

 それで、この後どうなったのかと言いますと・・まったく覚えていません(笑)

 まぁ普通に考えればパチンコの没収とガラス代の弁償ぐらいですが、パチンコの方はブーム末期なので痛くも痒くも無かったろうし、ガラス代の方も全員で割り勘すれば大した金額ではないので「ノートと鉛筆買うからお金ちょうだい~」って親に言って、旨く(?)捻出したんじゃないかと思います。

 でもコレが今の時代だったらどうなっていたんですかねぇ~?
 特別支援学級の先生2人と担任の先生だけの判断で処理できたとは思えません。

 職員会議の議題になるか?校長先生や教頭先生への報告は当然だと思いますし、ひいては教育委員会まで上げられたっておかしくありません。

 更にその教育委員会も隠蔽発覚を恐れて記者発表なんてしたらマスコミにとっては絶好のネタです。

 “○○小学校で悪質なイジメ発覚!”
 “白昼堂々、特別支援学級をゴム銃で襲撃!”
 “教育委員会はカウンセラーの派遣と一般児童の心のケアを決定!”
 “教育者としての自信を失った・・PTA緊急総会でうな垂れる校長!” 
 “「特集企画」真相究明!彼らの心の闇に迫る!”・・って具合ですかねぇ~

 いや~昭和で良かったぁ~、危なく冤罪に巻き込まれるところでした。
 でも冤罪どうこう言う前に・・自業自得だろって話ですけどね・・・ 

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