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「昭和少年事件帳⑥」天才バカボン実写版事件!


(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。

 同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。

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 毎年、秋晴れの心地よい時期を迎える度に思い出してしまう苦い事件があります。
 
 あれは、小学4年生の秋です。
 事件のあった日の前日、我が家に一台の車が納車されました。

 それまでウチには、オヤジが仕事で使う3人乗りの2トントラックとオフクロが主に乗っていた軽自動車があったのですが、そこに5人乗りのセダンタイプの乗用車が加わったのです。

 一人一人がゆったり座れる上にふんわりとしたシートはこれまでとは比べ物にならない乗り心地で、弟と妹を含む私達5人家族にとっては夢のような出来事でした。

 日曜日だったこの日は納車を記念して、紅葉狩りを兼ねた長距離ドライブに行くことになっていたのでテンションはマックスです。

 朝から私は一人で車にべったりと張り付いていました。

 “運転席には座るなよ!”って言われていたので助手席や後部座席を行ったり来たりしていたのですが、前席中央付近で何やら見慣れないちっちゃなドアノブ状のつまみ(?)を見つけました。

車のセンターコンソールの
ラジオと灰皿の間あたり

 何気なく引っ張ってみると、手応えもなくスポッと抜けてドキッとしました。

 まさか・・いきなり壊した訳じゃないよね?

 納車されて1日も経過していないのにコレはまずいと思い、引き抜いたモノを観察してみましたが、それが何なのかさっぱり分かりません。

 先端部分は金属が渦巻状になっており、触ってもヒンヤリとした感覚があるだけです。

引き抜いたツマミとその断面

 とりあえずに元に戻しておこうと引き抜いた穴に差し込んだのですが、今度は逆にちょっと深く入りすぎたような気がします。

 あれっ!こんな深い位置だったかな?と、疑問に思いながらも暫く様子を見ていたら・・

 数秒後に、カチンと音がしたと同時に少し手前に押し戻されて引き抜く前の位置に自動で止まったのです。

 これって一体なんなんだ??

 そこで、もう一回奥まで押し込んでみたのですが、今度は奥に留まることなく元の位置に戻されます。
 
 不思議でしょ!

 奥で一旦留まる時と留まることなく戻る時の違いがどこにあるのか?全く理解できなかったのです。
 
 が、ここまで聞けば昭和生まれの方ならもう既にお気づきだと思いますが、謎のつまみの正体、それはシガーライターだったのです・・
 
 これがこの事件の幕開けになるのですが、話を進めていきます前にシガーライターのこと、今の若い皆さんにはピンとこないかも知れませんので、簡単にご説明します。
 
 前席ダッシュボードの中央付近(運転席と助手席の間)に装備されているシガーソケットと呼ばれる穴があるのは存じでしょうか?

 この穴に装着して使用していたのがタバコ点火用のシガーライターです。
 
 近年は喫煙人口の減少により、シガーソケットを充電用電源として使用されている方が多いため、シガーライターも灰皿も純正装備している車は激減していますが、昭和時代の普通車には当たり前のように付属されていました。
 
 ですが、ウチの親はタバコを吸わなかった上に我が家のトラックと軽には装備されていなかったので私はその存在を知らなかったのです。

 しかも、つまみの表面に煙を吐いたタバコの絵(ユニバーサルデザイン)が入る前の古いタイプだったのでイメージすらできませんでした。
 
 では、話の続きです・・その後何度かシガーライターを押し込んでは戻る動作を繰り返しましたが、新たな発見はありません。

 そりゃ~そうですよね~、引き抜いてタバコに火を付ける道具なのですから差し込んだまま何回押したところで変化するハズがありません。

 ところが、このあと無意識のうちに信じられない行動にでます。

 今思い出してみてもその理由を説明しようがないのですが、シガライターの動きに飽きてきて油断していたのかも知れません。
 
 おもむろにシガーライターを引き抜き・・何のためらいもなく、それを自分の右頬にギュゥと押しつけたのです。

右頬に・・間髪入れずに

 次の瞬間、誰かに思いっきりバチ~ン!と平手打ちをされたような強い衝撃が走り、車内に焦げた匂いが充満しました!

 えっ!・・一瞬、何が起きたのか把握できなかったのですが、それが火傷の痛みだと気付くのに時間は掛かりませんでした。

 「熱~っツゥ!」

 慌てて、車から飛び出して洗面台に向かい、鏡に映った自分の顔を見て愕然としました。

 右頬の真ん中が10円玉サイズで真っ黒に焼け焦げていたのです。

唖然としました・・

 慌てて水で冷やしましたが、時すでに遅し・・万事休すです。
 
 そもそもどうして火傷したのかも分かっていないのですから非常に動揺しましたが、ここで騒いではいけません。

 先ずは一旦落ち着いて、この状況を分析してみることにしました。
 
① 最初に引き抜いたとき先端部分を指で触れたのに、あの時はなぜ熱くなかったのか?

A:きっと、穴に戻して押したり引いたりしているうちに熱くなったんだ・・
 
② では、火傷したことを親に話すべきか?

A:話したところで、今更、傷は消えない・・
 
③ 病院に行って治療するような怪我なのか?

A:指で触れるとちょっとヒリヒリはするけど、我慢できない痛みじゃない・・
 
 こうして導き出した答えが、「ドライブを楽しみにしている家族のためにも何も言わずに出発しよう!」です。
 
 家族のためにって、いうのが・・いかにも取って付けたようなヘリクツですけどね・・・(笑)

 その後は、ドライブに出発するまで真っ黒に焦げた頬をどうやって隠すかばかりを考えていました。

 何か貼り付けると余計に目立ちますので、さり気ない仕草で隠した方がいいだろうという結論に至り、鏡を見ながら自然な動きを探ります。

さりげなく?

 傷に左手を添えてみたり、同じ体勢が長く続くと不自然なので、逆の手に替えて頬杖をついてみたり・・

 こうした地道な努力(?)のかいもあり、親に気付かれることなく無事にドライブに出発しました。

 もちろん、選んだ席は運転席の後ろの窓側です。

 これで最終目的地までバレる心配はありません。

 ところが安心したことでワクワクが止まらなくなり、出発して暫くしたら火傷のことをすっかり忘れてしまいました。

 そのうち、助手席に座っていたオフクロが何か怪訝そうにコチラを見ています。

 『あんた顔に何か付いてない?』

 ギクッ!とっさに目が泳いだのを親が見逃すはずはありません・・

 『ちょっと!車止めて!』

 その後、問い詰められて全てを白状しました。
 
 さすがに驚いていましたが、『で、それって痛くないとね~?』

 「最初は痛かったけど今は何ともない・・」

 何で出発前に言わなかったのか怒られはしましたが、最終的には余りの馬鹿さ加減を笑われてドライブは続行となりました。

 でも、今にして思えば、これが自分の顔だったから笑い話で済んだのです。

 シガーライターを押しつけたのが、納車されたばかりの車のシートだったり、弟や妹の顔だったとしたら・・想像しただけでゾッとします(笑)

 そして、この火傷騒動は・・次の舞台を学校に移します・・・

 ドライブの翌日、当然のように月曜日が来て、そして当然のように登校しました。

 僅か1日半前の土曜半ドンの時と違うのは私の右頬が焦げていることだけです。
 
 あっ?またしても話の途中ですが、土曜半ドンが何のこと分からない方もいらっしゃいますよね?
 
 土曜半ドンとは、土曜日の午前中だけ授業や仕事を行うことを指したもので、週休二日制が導入される前の教育現場や役所では土曜の午後から日曜日までの1日半が休みだったのです。
 
 ちなみに、何で最後に「ドン」が付くのか気になって調べたところ、明治時代から太平洋戦争中にかけて、正午の合図に空砲を撃った地域があったことが由来だそうです。
 
 さすがに戦前生まれじゃないと知らない話で・・私も知りませんでした(笑)
 
 では、話を元に戻します・・

 私が教室の扉を開け中に入ると、周りがざわつき始めました。

頬を焦がした少年の登場で
ざわつく教室

 そりゃ~そうですよね、私だって同級生の一人が頬を焦がして登校してきたら驚きますもん。

 今だったら親からの虐待を疑われて児童相談所に通報されてもおかしくない話です(笑)

 せめて初日ぐらいは何か上から貼り付けてインパクトを和らげた方が良かったのかも知れませんが、傷はまったく痛くなかったし、水ぶくれが出来たりもしなかったので、直接触られたとしても全然平気でした。

 でも、これがかえってみんなの関心を集める結果になったのです。

 休み時間のたびにだれかしら私のそばに寄ってきて、頬を触っては“すご~い”って反応でした。

 やがてそれは、隣のクラスから同級生全体に広がり・・その後、上級生や下級生まで見に来る始末で、あっという間に私は超有名人(?)になっていたのです。

 まるでヒーローにでもなったような気分でしたが、これは大きな勘違いでした。

 2~3日もすると誰も関心を示さなくなり、“オイ!印鑑(はんこ)”とか”焼き印”くんとか、不名誉なあだ名で呼ばれるようになりました。

 そしてとどめを刺したのが、誰かがボソッと呟いた“バカボンみたいだな・・”の一言だったのです・・

 私の傷は、一週間ほどで色が薄くなり、黒こげから三重丸に変化していました。

絵に描いたような傷でした。

 まさに、見た目といい、やらかした行為といい当時の人気アニメ「天才バカボン」を地で行くバカボンというあだ名がぴったりだったのです。

 なお、私がこの事件を起こした時、隣のクラスの同級生が私と同じようにシガーライターで火傷する事件がありました。
 
 前後がはっきりしませんし、お互いその情報があれば同じ過ちはしなかったと思うので偶然ですけど同じ日か1日違いではないかと思います。
 
 ただし、彼が火傷したのは左手のてのひらでした・・そうです、右手で抜き取ったライターを逆側の左のてのひらに押し付けたのです。
 
 やった行為自体は一緒ですが、違っていたのは火傷の位置だけです。

 そして、彼の傷は2週間ほどで完治し、跡形もなく消えました。
 
 では、私の方はどうだったのか?

 この事件の最後の舞台は、中学校入学式当日の教室です。

 式も無事に終わり、教室でクラス全員と担任の先生の顔合わせが始まりました。

 私達の担任は、20代後半の独身女性で体育の先生でした。

 スポーツウーマンだけにスタイルもよく綺麗な先生ですが、男勝りって表現がぴったりの人です。

 生徒の名前が一人ずつ読み上げられ、先生が顔と名前を確認していきます。

 やがて私の番がやってきました。

 元気よく返事して立ち上がった私の顔を先生がしげしげと見つめています。

私の顔を不思議そうに
見つめる先生

 “ねぇ~キミの顔の傷・・それって一体何なの?”

 顔の傷?・・まったく想定していなかった質問に何の話なのか直ぐにはピンと来ません。

 すると、前の席のヤツが“あ~こいつ、小学3、4年生の頃に車のシガーライターを自分の顔に押しつけて火傷したんすよ~”

 一瞬笑いを堪えようとした先生でしたが、プゥ~!我慢できず豪快に笑い出しました。

 そして目に涙を浮かべ発した言葉が・・“うそ~ そんなマンガみたいな話ってホントにあるの~”

爆笑中の先生と私

 私を含め、教室中大爆笑です。(隣のクラスの先生が何事か気になって覗きに来たぐらいです。)

 あの火傷から既に2年半が経過していましたので、当の本人は勿論、小学校時代の同級生も私の傷に何の違和感も興味もなくなっていたのですが、初めて見る人には強烈な印象を与えたようです。

 では、この傷いつまであったのかと言いますと、高校1年生の途中までです。

 その後、ニキビができはじめ傷跡が見分けにくくなり、ニキビそのものが完治したときは一緒に無くなっていました。

 つまり、私は多感な少年時代から思春期時代の大半を「バカボン顔」で過ごしたことになります。

 その締まりのない顔のお陰(?)でグレたりすることもなく、伸び伸びと育ちました・・そう、これでいいのだ・・・

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