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【文字のみ】髭XXツアー12/3名古屋公演殴り書き

※ネタバレ感想です、ご注意下さい。

今回のツアーは開催地チョイスが近年にしては珍しく、関西で2公演と5年ぶりの福岡が含まれた。関西では京都大阪はどちらか片方の方が多い。広島在住の筆者は大概、関西1公演行けるのが精々であった。

絶好のチャンスを逃せるはずもなく、ツアースタートの京都から福岡、大阪、ついでに翌日だった名古屋もチケットを確保。絵を描いてレポもどきを作成するが、4公演観た事で全ての曲がしっかりと頭に残っていた。絵で全ては書き残せないためここに残す。

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12月頭の土曜を大阪で迎えた髭は翌日日曜日、名古屋クアトロでツアー4公演目が始まった。
1曲目は新アルバムから【Birthday】アルバムでも1曲目を担うこの曲のコーラスは、生で聞くとまさに鳥肌が立つような感覚を覚える。雄大な自然のように、朝日が差し込むような始まりを感じさせる演奏に期待感がグングンと高まる。音源も素晴らしいが、ライブハウスでの鳴りはまた一層雄大である。
そして焦るなと言わんばかりの「はじまったばかり、今夜」というフレーズ。それでもタカタカタカと早まっていくドラムに否応でも気持ちが走る、走らずにはいられない!
今夜きっと最高になる、そう確信させてくれる一曲目だ。

そのまま二曲目へーー と、始まる繋ぎの演奏。これがなんとも、なんとも格好良いのだ!
どこかプレイリンボを思い出させるギターフレーズはエンジン音のように、(一緒に来い!)と言わんばかりに煽ってくる。ディ、アイ、ワイ、須藤が一文字ずつ叫べばつられて拳があがる。エィチ、アイーーーーー
須藤が掻き鳴らすのは、あのフレーズ。


今回のライブは、髭の楽曲におけるイントロのギターフレーズの強さを感じさせた。何度だって聴き込んだ「あのフレーズ」がどの曲にもある。正味5秒のその音がこんなにもたまらないなんて!

「浮気なフロア」と、フロアの具合を確かめるような少しの間、からの転調!まだ二曲目とは思えないほどひとつになるフロアの熱気。拳を振り上げて叫ぶディ、アイ、ワイーーー 彼らに待ち侘びたことが伝わるだろうか?きっと伝わると思う。この瞬間をフロアは皆んな待っていた、きっと同じ気持ちだと思わせてくれる一体感だった。

曲がおわると、須藤だけがギターを掻き鳴らすターン。鳴らしては止め、鳴らしては止め。フゥー!と湧く観客の反応で遊ぶように、ふざけるように、でもどこか憎めない(ねぇねぇ、わかってるでしょ!)という邪気のなさ。ぐわんぐわんと大きく動き身体中で表現しながら、何度目かのやりとりのあとーーー


いわゆるキラーフレーズ。ヒット曲の立て続けにフロアの熱が天井知らずで昇っていく。日中ただでさえ暖かかったこの日、逆上せそうなほどの熱気が立ち込めた。この熱気は間違いなくフロアが作ったものだった。
踊る、というよりは最早ブン殴るかのように全身で暴れている須藤の姿にこちらの興奮も高まり、踊らずにはいられない。最前で勝手な踊りして悪いなとは思うが許してほしい、今夜のダンスクイーンの座は頂くわと言わんばかりに踊りまくれば、彼らはパフォーマンスで応えてくれる。演者とのダンスバトル勃発である。

上がりすぎた熱をクールダウンさせるかのようにMCを挟み、毎度お馴染み新陳代謝ランクA を持つ須藤は汗まみれ。最早汗と呼んでいいのか、そこだけシャワー置いてる?とイジリたくなるほどの濡れ鼠っぷり。水も滴るロックンローラーである。

ここまでの4公演目全て観ているが、確実に毎晩興奮とベストアクトの最高潮を更新している。福岡公演では5年ぶりの福岡だったこともあり、ツアーは続いていき、大阪名古屋では福岡の夜以上のものにしてくるーーそしてその夜以上のものを、またこの福岡に来てやってみせるよとMCで語っていた。
須藤のMCは基本、誠実な気持ちで語られる夢物語であり、それを真実か嘘つきかで断罪するのは野暮である。根拠もない言葉を、でも本当にそうなりそうだと思わせてしまうのが須藤自身の魅力であり、それを髭というバンドの実力が支えている。そう思っている。
この夜が最高だと言う数々のリップサービスも、筆者はそう受け止めてきたのだ。

地方公演より都市公演が仕上がりが良いのはオーディエンスが勝手に仕上がっているため当然としても、福岡も相当よかったのである。いつもと違う客層、男性のゴツめの声援。アンコールで叫ばれた「もっとやれよォ!」、待ち侘びた九州のファンたちの熱気でこちらも汗だくで躍ったのだから。
だが今、大阪名古屋と上回っていく熱気を目の当たりにしている。じわじわと現実味を浴びる、最高をこれからもずっと更新していくつもりの話。もしかして、もしかしてーーーこれからの髭を語ったあの話は。

これは猛省すべき事態だ、と自戒した。1番好きだ特別なバンドだと言いながら、その実どこか目を伏せてはいなかっただろうか。軽薄に語られる未来の話を、夢物語でもそれでいいと。
信じられない。この夢物語、どうやら本当のようなのだ。

「次の曲が新曲でも昔の曲でもーーうごっ、けっ!」
須藤の言葉は文章にすると魅力が逃げてしまうことを今実感している。支離滅裂だったとしてもその場の空気すべてを味方につけて丸く収めてしまう男である。チャーミングなジェスチャーをきっかけに演奏が始まる。

軽快なリズムで動け、動いていたいと歌うこの曲に踊らされているうちに、【UGOKE】から【ドーナツに死す】へと移行する。京都福岡までは化けの皮はがしましょうだったが、ドーナツに死すに入れ替わっていた。そして次の曲のイントロに差し掛かるタイミングで須藤がビシっと敬礼してみせる。始まる曲は陽気なナンバー、【ブラッディ・マリー、気をつけろ!】である。
フロアを陽気にひとつにしてみせたところでMCを挟む。一呼吸挟み、ここからようやく新曲の流れに入るようだ。新アルバムは緩やかな曲も多いが、ここまで踊りに踊って期待に応えたところで新曲たちに浸れる良い流れに感じた。

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立て続けのヒットナンバーは15年以上前の曲であるが、今ツアーは新アルバムXXの冠を被ったものである。バンド20周年ということもあり新旧織り交ぜた盛りだくさんのセットリスト、新曲たちとの緩急も見所のひとつ。
先日地上波放送でも演奏された【無人島】は当然、ライブハウスの箱で聞いた方が断然良い。トランスしていくような浮遊感を味わえるのは生音ならではで、ブッ飛ぶパンチ力だけが髭の武器ではないことを示している。続く【兎】【This is 諸行無常】と独特の曲だらけのこのアルバム曲を立て続けに並べていく。This is 諸行無常はライブで聴くと妙に踊れるというのは発見だった。手を上げてオノレのリズムで踊った方が楽しいのでオススメだ。


どっぷりとハマった、抜けがたい沼のような世界観を味わった後は更にMCを挟み、【もっとすげーすげー】へと続く。頭のフレーズが印象的な髭の楽曲はライブの爆発力がとんでもなく高い。SNSが主流の昨今の楽曲は冒頭何秒で掴めるかがキモだと聴くけれど、髭のアップテンポ曲はSNS向きなのではないだろうか。TikTokとかやったらどうだろうーーーと、話が逸れた。

セットリストは【もっとすげーすげー】【ボニー&クライド】【ダーティーな世界(Put your head)】と続いていく。
ダーティーな世界は個人的にはどうしてか好きでなかったのだが、ここにきてやっと楽しみ方を理解した。そしてどうやら演者そっちのけで踊るのが正解のようである。今セットリストでは大好きな二曲の後にあるため流れで踊っていたのだが、この曲で身体を全力で揺らす事で湧き上がる多幸感たるや!
フーリガンがリズムなんか気にするかよと好きに踊っていたことで感じた、なんともいえないフロアの一体感。渦の一部になったかのような心地は、全力で踊らなければ味わえない心地だ。髭のライブは沢山観たつもりでも、まだまだ発見がある。

まだまだ終わらせないぞと言わんばかりに、次はベースのフレーズで始まり、絡んでいくギターが堪らない【髭は赤、ベートーヴェンは黒】と更に躍らせる曲が続く。いつだって髭のライブが1番踊れると思っているが、過去最高に踊り続けた自覚がある。


MCを挟み【パンデミック】。今頃の髭の曲の歌詞は曖昧さを分断せず、そのまま生かした印象がある。勧善懲悪、断ずることは心地よい。手軽に心地よさだけ求めがちなことを時々チクリと自覚する昨今で、曖昧さを持ち続けられるかどうかは豊かさの秤でもあるーーー筆者自身はその豊かさは自信がないけれど、最近の髭の曲を手放さないことでなんとか無くしてしまわないようにしているところがある。どこかそんな気がしている。

そして【青い透明】前述の通り今ツアーは4公演観ているので4回聴いているが、3公演目の大阪でイントロが流れた瞬間ハッとした。
映画の終盤で、差し込まれる主題歌みたいだ。
アルバムを聴いた時、それなりの感覚でいい曲じゃんと思っていたわりに刺さっては居なかったのだが、ようやくここで筆者自身が楽曲に[追いついた]らしい。
ゆっくりと始まるイントロ、暗いライブハウスに、煙で揺れてにじむ控えめなライティング。
唸るギターの音は、すべてが洗い流されていくかのようだ。
大阪で合わせたチャンネルで、名古屋公演ではようやっとこの楽曲と向き合える機会になったのだと思う。[追いついていく]感覚は得難い体験だった。

筆者の感性は鋭いとは言えず、あまり玄人向けのものを理解するのは難しいのだが、音源を聴いただけでは感性にそう刺さっていなかった新曲たちもライブを重ねるたびに聴こえ方がーーおそらくは「こちら側の捉え方が」変化すること。見える景色が違ってくることを、このツアーで4公演続けて観たことで体感できた。理解できたことが何より嬉しい。この錆びた感性にもまだ伸びしろはあるようだ。

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この日、頭からのアツさにやられたのか、おしゃべり上手のフロントマンこと須藤をはじめ、人たらしの宮川、フォローの斉藤のトーク上手3名が、なんと称すべきかーーそう、トークがフワッフワしていた。稀に見るへたくそさ加減である。おしゃべり上手が揃う髭は、誰かが[なんかいい感じに抑える]のが常だが、この日は3人ともふんわり仕上げであった。その珍しさも相まってなんとも言えないおもしろ空間が出来上がっており、ふわんとした笑いの中でギター斉藤が次の曲の入りを任されることとなった。

外タレの曲紹介のような口調で入ったのは新曲、【彼、どんな顔して鎮座しておられるんでしょうね。】続けて【黒にそめろ】と再び大暴れターン。
【ギルティーは罪な奴】は楽しくて、どうしてか泣きたくなってしまう。あまりの多幸感に変な気分だ。この曲ではコテイスイがトラメガで煽り、フロアが踊り倒す間に須藤宮川斉藤のフロント3人がくっついて仲良くキャッキャしており大変可愛らしかった。シンプルに幸せだけの空間がそこにあったのを、視界の端で捕らえていた。


【テキーラ!テキーラ!】の流れに入るリズムをドラムの勇兄やんが叩けば、ライブも終盤の合図だ。ひとつになろうと語りかけ、今にも届きそうなほど手をぐんと伸ばす須藤。唯一無二の声でシャウトし、フロアの全てをひとつにする須藤はまるでーー

まるで、何に喩えられるだろう。崇拝対象足り得ることは間違いないが、神と呼ぶにはチャーミングすぎる。救世主にしては刹那的だし、アイドルより奔放であり、この瞬間なによりも純粋に愛してるよと言い放つ。
何度だって行ってきたお馴染みのこの曲の、このやりとりを毎回奇跡のように仕上げてしまう。軽やかにモニターに飛び乗り、縦横無尽にステージを飛び跳ねる姿を、このライブを盛り上げた、とだけ評するのはあまりにも勿体無いのではないかとさえ思わせる。そんなパフォーマンスだった。

何かに喩えるのは辞めだ。何かではない。神でも救いでもないが、これが須藤寿、そして髭なのだ。
目の前の奇跡のような銀色の光の中で、落ちる汗と影が彼が今を生きるただの人間であることを示していた。

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何にも代え難い幸福感を味わった後は、最後の曲だという【アイタイシタイ】ここにきてようやく君たちの顔をちゃんと見れるように、向けるようになってきたと語る姿からはぽつぽつと汗が流れ落ちる。そのままお喋りの延長のような軽やかな歌声で紡がれる歌詞は、MCの言葉を受けてから聴くと強い意志のように輝いていく。
「歪な形になった」で自身を両手で指差す姿は、とっておきの笑顔だった。
きっとその歪さで正解なのだと思う。

少しの間を経て、缶ビールを片手に再登場した彼らのアンコールは、近年行われた再現ライブで復活して以来何度もセットリストに組み込まれた【それではみなさん良い旅を!】
京都福岡では【白い薔薇が白い薔薇であるように】だったが、ここもセットリストが変化している。印象的なイントロを作らせたら髭の才覚は随一だ。本編に負けず劣らずの熱量を取り戻したフロアを何処へ連れていくのか、次の曲への高まる期待を受け止めるのはーーー【虹】だ。
楽器の音で観客の声など聞こえないが、フロアが喜びで震えているのがわかる。勢いよく両の手を突き出した須藤の缶ビールの中身が、大きな弧を描いて飛んだ。
あの虹の向こう側まで連れていくよと約束してくれるこの曲で、めいっぱい手を伸ばすフロアの手の渦を、モニターの上でしゃがみ込んで頬杖をつきながら須藤は見つめていた。ライブ中だというのに、まったりと満足そうに微笑んでいる。まるで美しいものを愛でるようだった。

福岡、大阪、Wアンコールが続いていた。期待はあったが、お決まりの流れになんてして欲しくは無かった。Wアンコールは一夜の軌跡の結果であって欲しいからこそ、力の限り大きな拍手と声援で呼び込むことにした。まだこの熱は治らないことを示さなければ。

そうして鳴り止まない拍手にステージ奥の影が揺れ、現れるその人に大きな拍手が起きるーーーーー現れたのはお馴染みのローディーの姿。ドッと笑いが起きるズッコケたフロアに、気持ち急いで髭が現れる。実に楽しそうに笑っていた。
もう一度現れた髭はもう一曲だけ、と言って更に演奏を始めた。【闇をひとつまみ】だ。

今ツアーでは5年ぶりに福岡公演が行われた。当日鳴り止まない拍手にWアンコールを決定した彼らは、フロアからリクエストを呼びかけ、準備もない中で演奏し慣れた【ハートのキング】を演奏した。
その時は叶わなかったが、リクエストの声の中にこの闇をひとつまみがあったことを思い出す。何度も叫んでいた、聞きたかっただろう。一期一会がライブの醍醐味であるからこそ、あの時の女性に少しの想いを馳せる。

「今夜は本当にありがとう、また」「風邪ひかないでね」と声をかけて去っていく、これで本当の最後になる後ろ姿に崩れ落ちそうになった。ゆっくりと明るくなるフロアの端から、観客の会話音が取り戻されていく。魔法が溶けていくような、夢のような一夜の終わりは優しさに満ちている。

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それにしてもこのツアーは本当にキラーチューンの欲張りセット全部乗せである。チケット確保した時は新アルバムXXがメインになると思っていたが、まさかここまで躍らせるツアーになっているとは思わなかったのだ。蓋を開けてみれば新曲アルバム収録曲全てをやりつつ同数、さらにそれ以上の数人気曲をやるという懐の深さ。バンドとしての体力がなければ成し得ない事である。改めてバンド20周年の揺るぎない強みを感じたライブだった。

ライブ会場でしか会うことのない友達と興奮を分かち合う。ドリンクチケットを交換してビールで完売するその頃にはもう、虹の向こうを見に、また彼らのライブに足を運ぶだろうと確信していた。きっとまたライブの一瞬だけ虹の向こうへ連れて行ってくれるだろう。その先に何があるのか、いつか確かめてみたいと思いながら。



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