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『庭仕事』メルヘンを探すひととき

 今年の夏は異常に暑い日が続き、かと思えば雨が降り続き気温がえらく下がったりと気候に翻弄されてばかり。それでいてまったく情けないことであるが、身辺に起こった様々なイヤな出来事が重く心ににのしかかり、気持ちが荒んでしまい貴重な休日を怠惰に過ごしてしまうことが多かった。そして日に日に庭の雑草どもは、グータラで覇気のない家主を嘲笑うかのごとくグングン成長していき、庭は荒れ放題。窓から庭を眺めると、丈高く青々と生い茂った雑草がふてぶてしく感じられ、苛立ちを抑えきれなくなる。
「ああ、なんとかせねばなあ…」と溜息をついてばかりもいられない、とワークマンへ出掛け野良作業のための衣類を揃え、更に思い切って電動草刈り機を購入。さあ、やるぞ~!と勇んで庭に出るが、雑草共の量の凄さに圧倒されて、情けないグータラ男の気合をいともたやすく跳ね除けてしまうのであった…。

先日、古本屋で一冊の本に出会った。ヘルマンヘッセ著『庭仕事の愉しみ』である。まだボクが20代前半の頃に書店でよく見かけた記憶がある。当時のボクの年齢からすると庭仕事なんてのは全く興味の対象外であって勿論手にとってみることもなかったが、あれから20年以上経過し、いまや庭の手入れに艱難辛苦しているに僕とっては大変興味惹かれるタイトル。ヘルマンヘッセにとっての庭仕事って一体?こうなればヘッセ先生から庭仕事の極意を伝授していただこう!と思い購入した。

この本は、ヘッセの数ある著作の中から、庭や自然との関わりについて書かれたものを集めたアンソロジーであり、庭仕事の楽しみ方を指南するようなハウツーものではない。しかしそれらの文章は、たかだか庭の草刈りにウンザリしている僕にとっても、大きな示唆を与えてくれる。
庭の草花、樹木への深い愛情が溢れ、自然と戯れることが、なんとも上等な、大人の日常の正しい時間の過ごし方になり得ると確信させられるのである。

さあ、想像力を働かせて庭に出てみよう。

屋外で飼育しているメダカの水槽に、毎晩やってくるカエルたち。睡蓮の葉に乗りたたずむ者、下半身を水につけ壁にへばりついている者…。4歳になる娘が言う『カエルさん、メダカさんのプールに遊びに来ているね。』そのわきに植えた『おきな草』の綿毛も風に舞い、水面に落ちる。小さな生き物、幼児の純粋な想像力。風と植物の緩やかな戯れ。我が家の庭の限られたスペースが、なんとも上等なメルヘンの空間になり得るのではないか。

 ああこの贅沢な楽しみ、こんな素晴らしい遊びの空間を、どうして無駄にすることなどできようか。

ヘッセのような美しい詩を書けなくとも、ヘッセに美しい詩を書かせた自然から得る感動は自分にも充分味わえるはず。

庭の植物、動物、そして我が家族へ感謝を込めて、庭仕事に勤しもう。











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