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【ショートショート】身勝手な脳内、見下ろす風景

パチン、パチン
パチン、パチン

ある昼下がり。一人の少女がバス停のベンチに腰掛け、心地よさげな顔をして、両手で両耳たぶを引っ張っていた。引っ張った耳たぶを外す度にパチンパチンと音がしていた。

パチン、パチン
パチン、パチン

少女はその手を休めることなく、永遠に続けていくのではないかと思えるほどに底なし状態で同じ動作を繰り返し続けていた。

彼女は何をみているのだろうか。目はやや虚ろでとろんとしつつ恍惚にも見える表情でいる。

まるでトリップしているかのような面持ちとは裏腹に、両手は機械的にも思えるほど的確に同じ動作を繰り返して忙しそうだった。何度も何度も、彼女は自分の耳たぶを指で持っては器用に引き伸ばし、そして外すを繰り返していた。


その奇妙な光景にこちらも思わず見とれてしまった。彼女は一体何をしているのだろう?何故何度も何度も耳たぶを引っ張っているのだろう?表情からすると気持ちいいのだろうか?何のために繰り返しているんだろう?ただの癖?それとも何かの病的な行為?何故?何をしているのか?気になって仕方がない。

私は初めて見る不思議な光景に目を奪われて、その状況を把握したくて答えの出ない疑問に頭を占領されてしまっていた。

人というのは見慣れないものを見た時、出会った時、思考が停止してしまうようだ。そして、わずかな人生で経験してきたデータに擦り合わせて、何とか答えを出そうとするのかもしれない。

それでも 稀有な人や物事に出会うと、擦り合わせることができるデータそのものが、何一つ該当しないということも多いにあり得るのだ。

そのとき人は何パターンかに分かれた反応をするように思う。驚く、怒る、忌み嫌う、拒絶する、嘲笑する、なかったことにする、無視する、冷たい視線を送る、批判・非難する、誹謗中傷する、笑う、誤魔化す、陰口を言う、理解しているフリをする、異常だと騒ぐ、自分と同じ反応をする人を探して安心しようとする、自分が正しいと意味不明で身勝手な思考の終結をする、諭す、修正しようと働きかける・・・

特に個性的な人、飛び抜けて型破りな人、見た目の容姿や言動が大きく人と違うと感じさせる人、理解が難しい病気や障害がある人、行動が理解の域を超えている人、初めて見る光景や状況・・・といった個人のキャパを超える何かに遭遇すると居心地が悪くなり、自分を落ち着かせるために最大限の努力をしてしまうようだ。少なくともその時の私はそうだった。

初めて少女を見かけた瞬間に、私も脳内の大量のデータの海にダイブしてしまったようだ。時間にして1分にも満たないだろうに、私は自分のラボで、起きている事象を理解するための研究に没頭してしまった。

その間も少女は相変わらず同じ表情で、同じ動作を繰り返していたが、私は立ちつくし自分を居心地よくするために、脳内で最大限の努力をしていたわけだ。

しかし、彼女に聞かない限り彼女に何が起きているのか知ることはできない。答えを知りたい気持ちは興味本位なのか、自分のために理解をしたいからなのか、あるいはその両方なのかわからないが、私はどうにかして自分の内側を納得させる何かを与えたくて仕方がないようだった。

私は初対面の彼女に声をかけようか迷った。いっそのこと見なかったことにして、平然を装い立ち去ろうかとも考えたが、気になって仕方がない。やはり私は自分の中で「なんということもない出来事だった」あるいは「変なものを見てしまった」と苦笑して終えたいだけなのかもしれないが、脳内の迷路から脱出できないことで葛藤していた。

彼女と出会って数分間なのに、彼女は私の存在すら気づいてないかもしれないのに、自分の内的な欲求のために、答えを得るために落ち着かないなんて馬鹿げているし、声をかけたことで逆に変な人間扱いされてしまうのではないかと躊躇もしてしまう。

ああ、もどかしい。気になって仕方がない。自分の欲求のためだけに失礼なことを言うのも問題だし・・・と堂々巡りなやり取りで落ち着かない。その気持ちのせいで、ものすごく彼女を意識してしまう。チラチラと視線を送ってしまう。

こんな私の方がおかしな人に見えるのではないか?不審者になっていないか?などと、今度は自分がどう思われているかが気になってくる始末。

モヤモヤしながら迷っていると、バスがやってきた。私は沢山の自問自答をしながら過ごした不思議な少女との出逢いに終わりを告げる時が来たようだ。後ろ髪を引かれながらバスに乗り込み空いてる席に座った。

少女は微動だにせず、初めて会った瞬間と同じ状態でいたが、私は一人悶々とした思いを解決できない無念を抱えたまま、彼女を見下ろしていた。

楽緒 著

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

楽緒、初の超ショートショート、小説を書きました。

私にはエッセイ以外は書けないと思っていたのですが、今日、ふと小説を書いてみようという気持ちが湧きました。

その時、私はエッセイしか書かないと、自分の中で決め過ぎていたことにも気づけ、手放しました。

すると勝手にストーリーが浮かんできたので、そのままアウトプットしてみました。

書いていて楽しかったので、今後も続けてみようと思います。


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