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【ファンタジー連載小説 奇跡の旅❶】奇跡の旅のはじまり

そこは奇跡が起きたことで世界中から注目された小さな小さな村。砂地に大きな野菜が育ち、風が吹くと妖精たちが舞っている姿が見えるともいわれる場所だった。年間数十万の人たちが奇跡を体験しようと集まって来ていた。

晩秋のある日、奇跡の村でひとりの旅行者の女性が、大きな黒い瞳を輝かせながら好奇心いっぱいの眼差しをあちこちに向けいていた。

彼女はフード付きの白いダウンジャケットにパンツ、トレッキングシューズという出で立ちで、大きなリュックを背負い、片手には大きなスーツケースをゴロゴロと引きながら目的地への道を意気揚々と歩いて行った。スーツケースのネームタグにはアイオナと書かれていた。

30分程歩いたところで立ち止まったのは、古い石造りのヨーロッパ建築を感じさせる二階建ての大きな建物の前だった。白いエントランスホールは建物から突出しており、訪れる人々を出迎えるような佇まいをしていた。

アイオナはそのエントランスホールの前に立って、辺りを見回していた。建物の前には広大な芝生の庭が広がっていた。

彼女はおもむろにリュックを下ろし、思いっきり背伸びをして、澄みわたる空気を胸いっぱいに吸い込むように大きな深呼吸をした。その場のエネルギーや豊かさ、喜びで内側が満たされていくのが感じられた。

と、なんとはなく背後が気になり振り返ると、玄関ホールの前に小さな赤い花が咲いていることに気がついた。

アイオナはその中の一つの花が目にとまり、眺めようと花と同じ高さまで身をかがめた瞬間、びっくりしたように少しのけぞり、両肩をすぼめ目を閉じてしまった。

次の瞬間、信じられないといった表情になり、驚きから輝いていた大きな目をより一層見開いた。

「嘘でしょ。私、今、確かに妖精が見えた!!!!!確かに今、私の鼻の頭にキスをしてくれた!!!!」

彼女が花に意識を合わせた瞬間に、花の色と同じ赤い服を着た羽のある可愛い妖精が、彼女の鼻の頭にキスをしたのがわかったのだった!

いきなり妖精が自分の顔にめがけて飛んできて、鼻の頭にチョンとぶつかって来た感覚まで残っていたのだ。

しかもかつて絵本の中で見てきたまんまの姿をした妖精を、リアルに「見てしまった」驚きは半端ない。

あまりに唐突で予想外だった展開に驚きを隠せないまま、一気に喜びの感情が溢れてきた。

目的地に着くやいなや、求めていた奇跡を体験できたことに満たされていた。

とちょうどそこへ、施設のスッタフらしき長身の若者が玄関ホールの扉を開けてアイオナに話しかけてきた。

「今日から宿泊される方ですか?」

アイオナは驚く体験から覚めることができなくて、すぐに返事をすることができなかったが、スタッフの若者は反応のない彼女の返事をしばらく待っていた。

ここはとてもゆっくり時間が流れる場所で、せかせかとした都会とは時間の感覚が違っていた。

長い間をおいてやっと短い言葉を発することができた。

「ええ・・・」
「ではこちらへ。手続きをお願いします。」

スタッフはアイオアのスーツケースとリュックを持って建物内に誘導してくれた。

アイオナは徐々に我にかえったが、今度は今すぐに先ほどのミラクル体験について誰かに話したくて仕方なくなっていた。

しかし宿泊名簿を渡されたため落ち着かない気持ちを抑えつつ記入を始めた。

食べ物に関するアレルギーや宗教的に食べられないものなどがあるかどうかの質問をされたり、参加するワークショップの確認やイベント、専属のバスの利用時間などについて説明を受けた。

この施設はNGOの研修施設になっており、世界中からくる人を受け入れる窓口とななっていた。

創設者の一人は、ニューエイジのなかでも注目されており、神からの啓示を受け取っては記録をして本を出版した人物だった。

神からの啓示といっても怪しげな宗教団体ではなく、神との対話の記録だった。また別の創設者は、精霊とつながって海岸沿いの砂地で有機栽培の野菜を作ったり、住みついた人たちでエコビレッジを建てたりしていた。

皆、穏やかで自然との共生を大切に、一人一人の生き方をそれぞれが見つめる場を求めており、NGOはそれらを提供しているに過ぎなかった。

彼らの生き方やその土地で起きる奇跡が人づてに広がり、自然に世界中で知られるようになった。

創設者が国連に招致されるほどになっていったが、生きる姿勢が変わることはなかった。そのことが余計に興味を持つ人々の信頼へとつながっていったのだ。

アイオアは自分と向き合って生きることを求めていたことや、深い悩みがあったこと、また自身の感性が他の人と違うことに気づき始めていたこともあって、今回の旅を決意したのだった。

続く…
楽緒 著

🌿第2話「出会い」⬇️

あとがき
読んでいただき、ありがとうございました。

今回も人生初のファンタジー小説を書きました。これはショートではなく、連載していきます。

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🌿こちらは初のショートショートです。
https://note.com/lakuo/n/nc172ed29233d

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