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新型コロナ禍での戸建て在庫不足から見えること

新型コロナ禍で米国の戸建て市場は流通在庫不足からタイトな状況が継続しております。米戸建て売買中間価格は上昇傾向にありますが、2021年1月には前年比11%と大きく上昇をしました。さらに、リスティング市場での滞留日数が短縮化しております。この背景には流通在庫が半減したことにあります。2021年1月時点で、流通在庫は32.5万戸となりました。特にこの1年間のコロナ禍で戸数が極めて減少しました。


この背景には、①ミレニアル世代(1989-93年生まれ)の持ち家比率の大幅増加、②2010年以降、戸建て供給不足が継続していること(全人口比戸建て供給数が5-6%〈1990-2010年〉から3%まで低下/半減)、③住宅ローン金利低下(低下幅約1%)による住宅需要の増加、④新型コロナにより、3密を回避し在宅勤務浸透により「都心型アパート」から「郊外型戸建て」の人気が増加したこと、⑤さらに戸建て賃貸業者が割安な戸建て賃貸の需要を後押ししたこと、等がありました。

戸建て分譲業者にとって、5つのL(Lending〈融資環境〉、Lumber〈木材価格〉、Labor〈人件費〉、Land〈土地代〉、Legislation〈税制/法制度〉)が業績を左右する要因として重要と言われておりますが、2019年以降5つのLに追い風が吹いておりましたが、2021年も同様の環境が概ね継続すると市場関係者は見ております。

それでは、2019/2020年度で最も建築許認可件数が多かった全米TOP5都市圏の住宅在庫/建築許認可件数の推移を見てみます。

都市名の下にある右欄の数値はその年度の住宅在庫/建築許認可数[単位:千戸]を示しております。左欄は非農業部門雇用者数です。2015年12月時点は雇用者総数[単位:千人]、2016年以降は増減数[単位:千人]を表しております。

2015-19/増減と2015-20/増減には、左欄に夫々4年間、および、5年間の総数[単位:千人]。そして下欄には、年平均の増減数[単位:千人]を示しております。比較のために、許認可発行に対する規制が厳しいSFベイエリア都市圏におけるそれらについても付け加えました。

2020年度は新型コロナ禍ですべての都市圏で雇用者数を減らしました。これにより新型コロナ前後で雇用者増減数に変化が見て取れます。建築許認可数はコロナ前の雇用者増加に見合う形でコンスタントに増加しました。ところが、コロナ感染が広がるとともに雇用者が減少したことにより、ダラス・フェニックス以外の都市圏では雇用者増加数を上回る建築許認可数になったことが見て取れます。一方、SFベイエリア、特にシリコンバレー地区では、大幅に雇用者数が減少したとはいえ、1雇用者あたりの住宅在庫はまだまだ少ない状況であることが分かります。

過去1年の戸建ての極端な在庫不足は新型コロナ禍の一時的な現象かもしれません。そんななかSFベイエリア所在のFintech会社であるRoofstock社(本社:オークランド)は、PEファンドのバックアップで、2011年より純資産1億円超の個人投資家向けに全米の戸建て賃貸物件を販売するプラットフォームを立ち上げておりますが、ここにきて大手戸建てビルダーの一つであるLennar社がRoofstock社と提携し、Roofstock社のプラットフォームを利用して、ダラス・アトランタ郊外(車で1-2時間のエリア)の新築戸建て賃貸物件を提供し出しました。

プラットフォーム上で建物診断調査レポート・登記簿謄本・売買契約書ひな形、等の資料を見て、現地視察することなく物件を購入できるサービスとなっております。また、米国内個人投資家だけでなく、海外投資家にも、物件担保付ローンの提供もしております。

このような戸建て賃貸物件の購入サービスの提供は、さらに戸建て物件の在庫不足から戸建て購入ブームに油に火を注ぐことになりはしないかと筆者はやや気になりだしております。

(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。)

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