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誰よりも白樺湖に魅せられて|quod飯塚 × 柴田「湖畔の時間 2020」アフタートーク

2020年11月に開催した野外イベント「湖畔の時間 2020」の余韻も落ち着き、白樺湖はゆっくりと次のステージへと歩みを進めています。

湖や湖畔の心地よさを発信していく白樺湖レイクリゾートプロジェクト。発起人である池の平ホテル・矢島社長の村づくりへの想いと、チームメンバーの飯塚が起業したquodで目指す未来が重なってスタートし、quodに所属する柴田を巻き込み、地元事業者の皆さんと対話を重ねて進んで来ました。

イベントが集大成ではなく、むしろここがようやくスタート地点。

白樺湖はあのイベントを経てどこへ向かうのか?「半分内側、半分外側」のバランスを取りながら地域に関わるquodの2人による、アフタートークをお届けします。

飯塚洋史
Business Conductor / エリアプラニング・ディベロップメント ディレクター
神奈川生まれ。小学校までにほぼ47都道府県をまわる。
東京大学大学院にて、Creative Classと都市の関係、third placeについて研究。2008年から(株)日本政策投資銀行に勤務。2017年にCreative Classのギルドであるquodを共同創業。地域のプラニング・ブランディングを考えると共に、それを形にする物件開発や仕組みづくり・事業づくりに取り組む。企業提携企画やファイナンス思考に強みを有する。2020年から富山と東京の二拠点居住をスタート。趣味は自転車やトレラン。
柴田菜々
コミュニケーションディレクター / 「湖畔の時間」プロデューサー
東京生まれ東京育ち。都内PR会社に約4年勤め、フリーランスを経て、2019年からquodにジョイン。「愛を持って向き合うこと」を軸に、コミュニケーション・ブランディング全般の企画・実行を行う。現在はquodに籍を置きながらフリーランスとしても活動。2021年から北海道に移住し、環境・自然のことを学びながら東京・長野に通う生活をスタート。趣味はサウナ、SUP、シーシャ、釣り、音楽、映画。

8年間温め続けた想いが、2020年にようやくプロジェクト化

2020年に発足した「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」のはじまりは今から約8年前。quod飯塚が大学時代からの仲間である池の平ホテル&リゾーツ代表・矢島と、スイスのツェルマットを視察する運びとなった。そこで感じた「本当の豊かさ」が忘れられず、それから何年もかけて白樺湖レイクリゾート化計画が進んでいった。

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飯塚:ツェルマット視察は、矢島さんがちょうどホテルの経営を受け継ぎ、これから白樺湖をどうしていくべきか考えていた頃。ヨーロッパの人はこんなに人生の楽しみ方や休み方が上手いのに、日本人はあくせく働いてばかりで豊かではないよねという話になって。

それまでお互いの夢や人生についてしっかり話したことはなかったけど、日本にそういうリゾートを一緒に作りたい!と盛り上がったんだよね。それからずっと企画を温めていて、2年半ほど前にしばなな(柴田)がquodにジョインしたタイミングで、本格的に動き出した。

柴田:私は私で、別の仕事でサウナに携わっていたこともあり、当時個人的に「北欧」や「HYGGE(ヒュッゲ)」の価値観にすごく興味があったタイミングでした。そこでquodの海外視察で飯塚さんたちとデンマークの湖畔ロッジやフィンランドのサイマー湖などをいくつか訪れてみた結果、白樺湖エリアでも湖畔や湖の価値を深堀りしていくのがよさそうだってなったんですよね。

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2019年夏、北欧視察の様子

飯塚:当初は「高原リゾート」という打ち出し方を考えていたけど、海外視察をきっかけに「湖」「湖畔」に価値を見出すのが良いって方向になったんだよね。今思ってもあれは良い気付きだったな。

方向性を定めてから、初めは湖の価値を分析・言語化するところから着手した。お互いにヨーロッパでインプットしてきた感覚は共有できていたけど、どうしたらこれが説得力を持って伝わるだろうって。「世界のレイクリゾート研究室」というマガジンを作って、海外のレイクリゾート事情や湖の価値について発信していました。

それから、視察で見てきた景色を参考に、もっと遊び方を探って発信しようということになりました。北欧を視察するなかで、カヌーに乗って読書するみたいな、自分自身とゆっくり向き合う時間がつくれることも湖のよさだと感じて。

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北欧のレイクリゾートでは、湖畔を楽しむための桟橋もよく見られる

柴田:一方で私は、シーシャや音楽のような、今まで湖畔になかったコンテンツをかけあわせることで新しい楽しみ方ができると感じていました。

飯塚:何度も白樺湖に通う中で、お互いの「自分なら湖畔でこれをやりたい」がどんどん浮かんできて、イメージを作っていった感じだよね。まずは地元の人に体感してほしくて、2019年の秋に、その道のプロたちを呼んで小規模なデイキャンプをやりました。

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2019年秋に開催したデイキャンプの様子

柴田:手探りながら、地域の人や観光協会の人たちにも声をかけて、参加してもらいました。私たちの周りにいた「遊びのプロたち」の手にかかることで、白樺湖の価値がより引き出せたと思います。

例えば「チル」「空気を味わう」などと相性が良く、流行の兆しを感じていたシーシャ。今でこそトレンドになりつつありますが、2019年当時はまだ東京で提案すると「水タバコ」のイメージから断られてしまうことも多かったんです。でもここでは親子連れやご年配の方も「美味しいね」と楽しんでくれて、先入観を持たずに新しいものを受け入れてくれる地域の柔軟さを、とてもいいなと思いました。

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コロナ期間に味わった豊かな「時間」をそのままイベントに

少しずつ形にしはじめていたところに、新型コロナウイルスが流行。2020年に開催予定だったイベントも、感染拡大を受けて一旦はストップすることになった。11月の「湖畔の時間 2020」開催までには数々のハードルがあり、先の読めないなかで奮闘する1年になった。

柴田:観光で成り立つ白樺湖エリアはダイレクトに影響を受けていて、宿泊施設や事業者の皆さんはその時できることをするので精一杯といった状況でした。プロジェクトとしては何もできないもどかしい時期が続いて。そんな中でも普遍的な「湖の価値」は変わらないはずなので、情報発信は続けていましたね。

飯塚:一時はどうなるかと思ったけど、そういう状況だったからこそ、湖の価値を確信できたのかも。quodの他の案件にも影響があって、それまで日帰りでミーティングをして帰っていたのが、数日泊まって白樺湖をじっくり味わう余裕ができて。あの時期のおかげでコンセプトが固まっていったかもしれない。

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柴田:私たち自身も家の中に閉じ込められるストレスを感じていたし、やっと数ヶ月ぶりに白樺湖で過ごせた時間は本当に特別でしたもんね。私たち、現地では「やっぱ湖マジで最高だね」しか言わないんです(笑)でも何がそんなに最高だったのか、帰りの車で感じたことを細かく共有しあって。

その中で浮かび上がってきたのが、「時間」と「余白」というキーワード。湖、水、リゾートといったいろんな切り口から分析してきましたが、湖そのものが持つ要素やコンテンツの面白さ以上に、そこで過ごす豊かな「時間」や、湖畔で感じられる「余白」に、各々が居心地の良さを感じているのだと実感しました。

そんなふうに東京と白樺湖の行き来を繰り返すうちに、伝えたい価値が具現化されていきました。「湖畔の時間」というイベント名をはじめ、プロジェクトメッセージやコンセプトは、この積み重ねを言語化したものです。自分たちの実感が「コンテンツを詰め込みすぎず余白を持たせる」というイベントの中身にも繋がっています。

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コンセプトを詰め込んだ、「湖畔の時間 2020」開催のお知らせ

飯塚:2020年8月頃には、屋外で自然を楽しめる場所として白樺湖を訪れる方も増えてきていて、コロナの反動による手応えは大きかったんです。お盆明けに「やっぱり年内にイベントをやろう」という矢島さんの意向も固まって、急ピッチで「湖畔の時間 2020」の準備が始まりました。

春から夏にかけては「東京から来てほしくない」という地域も多かった中、矢島さんたちは全然来てくれていいよと言ってくれていたんです。地域としては感染に注意しながらもオープンな空気感だということを伝えてくれて、悶々としていた中では救われましたね。

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制約があるからこそつくれた「誰も置いていかない空間」

「年内に域外のお客さん向けのイベントをやる」と決めて準備を進めていたものの、寒くなるにつれ感染者数も増えていった。世の中の空気が刻々と変わるなか、観光地として難しい判断を迫られた。

飯塚:無事に開催できるか危ういときもあったけど、タイムリーに他のイベント情報や対策を共有していくことで、チームメンバーも慌てずに判断できた。行っても大丈夫だという空気感も作れたと思います。

柴田:「湖畔の時間」はあくまでも「湖や湖畔の価値を伝える」「白樺湖に足を運んでもらう」が目的のイベント。ステージの盛り上がりは一番のプライオリティではなかったので、お客さんがぎゅうぎゅうになるようなこともないはずでした。そこも功を奏したと思います。いわゆる音楽フェスにならないようタイムテーブルも考えました。

今の時代にみんなが求めている時間・空間を突き詰めたら、自ずと「自然のなかで密にならない空間」になっていました。前で聴きたい人は行けばいいし、全然違うことをしていてもいい。思い思いの時間を過ごしてほしくて、空間づくりにもこだわりました。

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湖畔にくつろげるチェアを設置。自分で持ち込む人も

飯塚:ステージじゃないほうを向いてライブを聴いている人がいたり、湖を見ながら寝転んでBGMとして楽しんでいる人がいたり。ゴロゴロしながらPC作業をしている人や読書をしている人もいました。想定していた以上に楽しみ方がうまい人がたくさん来てくれて、気持ちのいい場所にポジショニングして楽しんでくれました。

柴田:お客さんの中に、1人で来てまさに理想の楽しみ方をしてくれた方がいたんです。その方はイベント直前に広告でたまたま知って、友達を誘う時間もなく1人で2日間遊びに来てくれたみたいで。

早起きして湖畔でコーヒー淹れてみたり、気ままに音楽を聴いてみたり。イベント前後でnoteの記事もすべて読んでくれたそうで、翌週には友達を誘って蓼科山に登山しに来てくれて、白樺湖に宿泊してくれたということがありました。さらに東京でやったアフターパーティーにも来てくれて、今では白樺湖に通えるエリアへの移住を考えてくれているそうです!まさに理想として描いていた伝わり方だったので、めちゃくちゃ嬉しく思っています。

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飯塚:「誰も置いていかない空間」を実現できたと感じたエピソード。イベントをきっかけに移住を考えはじめて物件を探している人もいたり、地域との縁が作れているのは嬉しいよね。

地元の人たちの間では「1500円のイベントでもお金を払って来てもらうのは難しいのに、5000円もするイベントに遠くから若い人が集まっているのは信じられない」と驚く声もあったみたい。

柴田:私たち自身がすっかり白樺湖の虜になっているから、「私たちと同じように、時間をかけてお金を払ってでも行きたいと思う人がいるだろう」と思うんです。この感覚は、半分外から関わっているquodだからこそ持てるものだと思います。

言葉で伝えるだけじゃなく実際に体験できる形にして示すことで、「当事者たちが気づいていない価値」を見つけてあげて、喜んでもらえていたら嬉しいです。

「みんなが乗れる夢」を描き、膨らませていく。これからの白樺湖

イベントをきっかけに、新しい層に白樺湖の楽しみ方を提案でき、コミュニケーションが拡がった手応えがあった。これが一時の盛り上がりではなく、継続的に魅力を伝え、地域事業者に価値をもたらせるように。ここからようやくスタートする気持ちで、quodの2人はこれからを見据えている。

飯塚:白樺湖グランド(「湖畔の時間 2020」開催会場)でイベントをやるということ自体、白樺湖の長い歴史に残るような一歩だった。地域ならではの複雑な構造がある中で、矢島さんだけでは踏み出せなかったことなんです。長い時間をかけて地元の皆さんともコミュニケーションを続け、ようやく「みんなが乗れる夢」を描くことができました。

今回のイベントをきっかけにこの地域に興味を持ってくれた人が、地元の事業者や定常的なサービスまで流れ着けるようにしたいですね。そしてさらには、自分たちもここに住んだり、事業を始めたりする人も出てきて欲しい。そのために、1回行って終わりではなく、この土地に関われるような仕組みづくりもしていきたいんです。

柴田:「湖畔の時間 2021」もやるつもりでいます。同じ場所で同じことをやるのではなく、また違った側面の魅力を提案したい。例えば湖を眺めながら読書できる屋内スペースを作るとか、アウトドアだけではない湖畔の味わい方も。まだまだ湖畔の魅力はこれだけじゃない!というのは私たちが一番よく知っているので、地域の内側と外側、両方の眼を持っている私たちだからこそできる伝え方を考えたいですね。

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次のイベント開催の目処も立ち始め、レイクリゾートプロジェクトとしても新しい形を組み始めている。柔軟に形を変えながら、プロジェクトメンバーである以前に誰よりも白樺湖の“ファン”である立場ならではの視点で、地域の未来を共に見据え、レイクリゾートづくりを進めていく。


「レイクタイム - 湖畔時間 - 」として新しいリゾートのスタイルや湖畔での過ごし方などの情報を発信しています。
Webサイト http://shirakaba-lake.com/
Instagram:@laketimejp
Twitter:@laketimejp

▼連載「湖畔の時間 の わたしの時間」として、クリエイターたちの視点による「湖畔の時間 2020」を発信しています