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広告業界から立科町へ。“よそ者”である自分が、この地域にできること/渡邉岳志(信州たてしな観光協会企画室長)

こんにちは、白樺湖レイクリゾートプロジェクトチームです。

このnoteでは、白樺湖をレイクリゾートとして盛り上げていくために、プロジェクトの中心となって動いている人たちの声を紹介しています。

今回お話を聞いたのは、信州たてしな観光協会 企画室長の渡邉岳志。

観光協会の職員として勤務しながら、YouTubeチャンネル「ここがスゴいぞ!白樺高原」の運営や各種イベント企画運営、ミュージックビデオやテレビ番組撮影誘致、立科・白樺湖エリアの魅力をあらゆる角度から発信するなど、その守備範囲の幅広さでレイクリゾートプロジェクトのメンバーからいつも頼りにされています。

同じくプロジェクトチームのメンバーであるquod,LLCの飯塚が、渡邉がこのエリアに関わるようになったきっかけや、目指すリゾートのあり方について聞きました。

渡邉岳志(わたなべたけし)プロフィール
長野県中野市生まれ。広告代理店で長年働いたのち、中小企業のサポートをしたいという想いで転職し、立科町へ派遣される。白樺高原エリアにずっといたいという想いで、信州たてしな観光協会に就職。
1児のパパ。趣味はモーグル、登山、googlemapでの妄想海外旅行。現在、マイSUPを買おうかと真剣に悩み中。

小さいけどオープンな立科町で、天職を見つけた

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quod飯塚(以下、飯塚):渡邉さんは、普段は女神湖で地域のプロモーションやイベント企画制作を手がけるたてしな観光協会の企画室長でありながら、白樺湖レイクリゾートプロジェクトのメンバーとしても参加してくれています。観光協会での業務内容や、そもそも立科エリアに関わるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

渡邉岳志(以下、渡邉):立科町に来て4年目になります。たてしな観光協会としては、町に来た観光客の方の案内をしたり、白樺高原の楽しみ方や魅力を発信するYouTubeチャンネル「ここがスゴイぞ! 白樺高原」を運営したり、いろいろなイベントを企画運営したり、最近ではフィルムコミッションにも力を入れています。

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立科に来るまではずっと県内の広告会社に勤めていました。1日20時間くらい働いていましたね。広告業界ではそれが普通だと割り切っていたのですが、父が亡くなったとき葬儀場でもパソコンを開いている自分がいて、「これは違うな」と思ったんです。「自分はずっとこの生活を送るのか?」と考え直すきっかけになりました。

それが決定打にはなりましたが、少し前から小規模事業者の役に立ちたいという思いが芽生えていたんです。大企業が広告・宣伝施策を打ってもその影響は予想がつきますが、例えば街のラーメン屋さんのような事業者さんだと、取り組んでいないことが多すぎて、いくつか施策を打つだけで売り上げが2倍になったりするんです。それに手応えを感じていました。

ちょうど転職を考えはじめたころ、取引先の方から町・村の小規模事業者さんをサポートする県の商工会連合会を紹介してもらいました。無事に採用され、それまで一度も行ったことがなかった立科町に赴任することになりました。

飯塚:立科町には赴任されるまで行ったことがなかったんですね。ゆかりのない土地だった立科町に渡邉さんが惹かれた部分ってどんなところなんですか?

渡邉:ある日新しい案件の会議に呼ばれて、「知らない人たちばかりだろうな」とアウェー感に怯えながら出てみたら、みんな知ってる人だったんですね(笑)そんなスモールコミュニティ感が自分に合っていました。いきなりやってきた僕のことも受け入れてくれるようなオープンマインドさが心地よいです。

また、地方の小さなまちだからこそ、事業者さんが取り組んでいないことがまだまだ多い。経験をもとにアドバイスさせていただいたら、とても喜んでもらえたんです。自分にとって天職だな、と感じました。

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立科町に赴任された当初の渡邉さん。オープンな雰囲気に惹かれやりがいを感じた

飯塚:開かれた感じがするのは、立科町が観光客や移住者を多く受け入れていることも関係しているかもしれませんね。それからどんな経緯で観光協会に勤務されることになったんですか?

渡邉:当初は2年の期限付き赴任だったのですが、自分に合うし、もう少しこの町にいたいなと思っていたときに、観光協会が発足することになりました。観光案内をするだけの拠点ではなく、地域独自のチャレンジングなことに取り組んでいくつもりだという話を聞いてわくわくしました。離れて暮らしていた家族の反対を押し切り、立科に残ることにしました。

湖がそこにあるだけでいい

飯塚:仕事としてのやりがいや面白さも相当大きかったのだと思いますが、渡邉さんをそこまで突き動かした「湖」の魅力ってなんなんでしょうか。

渡邉:湖畔って、ただ座ってのんびり過ごすとか、何もしなくても心地いい空間だと思っていて。自分がしたいことなら何をしてもいい。独特の魅力があると思います。

飯塚:よく海外旅行されたり、一時期ニュージーランドでお仕事されていたんですよね。その経験も、湖に惹かれるきっかけになったとお聞きしました。

渡邉:ニュージーランドのワナカが、白樺湖・立科エリアに少し似ているんです。初めて立科に来て夏の風を感じたとき、ワナカを訪れた10数年前のことを思い出しました。にぎやかすぎず、湿度が低くて空気が軽いんですよね。気候もとても似ています。

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ニュージーランド・ワナカの湖畔

飯塚:ニュージーランドを訪れたとき、渡邉さんに沸き起こった気持ちってどんなものでしょうか?

渡邉:これでいいんだ!っていう自己肯定感のようななものが生まれました。ワナカでは3日間ずっと湖畔でボーッとしていたのですが、そういう過ごし方も許されるんです。

湖畔でドイツ人の方がただただ本を読んでいて。ここでしかできないアクティビティをもっと満喫すればいいじゃん、と思い話しかけたら、「私はこの時間が好きなの」とおっしゃっていました。湖がそこにあるだけでいい。そのことに気づかされました。

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湖畔では何もしなくても心地よく過ごせる

飯塚:「この時間が好き」ってすごくいいフレーズですね。湖があるだけで、普段するようなことも特別になりますよね。自分らしい過ごし方をできる余白があるのは、湖畔の魅力ですよね。

白樺湖レイクリゾートプロジェクトとしても、「湖」の価値にもう一回焦点を当てたい、という思いがあります。渡邉さんはこのエリアの湖にどんな可能性を感じていますか。

渡邉:ニュージーランドに似ているという自分自身の実感もあり、ああいう何もしなくてもいいリゾートになれると思っています。湖の上で何かするわけではなくても、湖がそこにあるだけで山から眺める景色が一味違ったり、登山など周辺のアクティビティの楽しさも増しますよね。

ありのままでも美しいけれど、湖の周りが開発されてペンションやボート乗り場などがあれば、一気にリゾートっぽさを感じることもできます。湖という自然の地形があるだけで、その土地の可能性は広がると思います。

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誰もおいていかないリゾートをつくる

飯塚:海外レイクリゾートからの気づきも参考にした上で、渡邉さんは、白樺湖・立科エリアをこんなふうにしていきたい、こう楽しんでもらえる場所にしたいという野望はありますか。

渡邉“誰もおいていかないリゾート”を作れたらいいなと思っています。家族旅行って、誰かが犠牲になっていることもある気がするんです。

例えばお父さんがずっと運転して旅行に来て、目的地に着いてお母さんと娘さんでキャラクターのコーナーを見ている間、そのお父さんは外で待っているだけ……みたいな。お父さんにとっては子供の笑顔が見られただけでも幸せかもしれないけど、本当に旅行楽しめてる?って思ってしまいます。

飯塚:家族全員が楽しめる旅行先って、難しいんですよね。

渡邉:全員が同じことをするのにこだわらずに、それぞれが好きな過ごし方をしてもいいと思うんですよ。白樺湖ならそれができると思います。

たとえば、池の平ホテルに家族で泊まって、昼は子どもたちだけでキャラクターのブースに行ったり体験学習をしたりする。その間、お母さんは陶芸のワークショップ、お父さんは日に焼けるまでMTBでダウンヒルを楽しむとか。そして夕飯の時間は家族全員で集まって、昼間楽しかったことを語り合うんです。それぞれに思い出ができて、「また来たいな」と全員が思えるはずです。

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飯塚:“誰もおいていかないリゾート”、めっちゃいいですね。ツェルマットでもそれぞれが自分の時間を楽しんでいました。お父さんはアクティビティを楽しんで、おばあちゃんはレストランで読書して、お母さんと娘さんたちはおいしいパン屋さんを巡ったり。

渡邉:すごく広い観光地だと難しいと思うのですが、白樺湖ならちょうどよいサイズなので、池の平ホテルをベースに周辺の施設や自然資源でアクティビティが楽しむことができます。このエリアには、“誰もおいていかないリゾート”を作れる大きな可能性があると思っています。

自分が“いなきゃダメな存在”になりたい

飯塚:渡邉さんが個人として、地域のコミュニティにおいて「こういう立ち位置になりたい」と思っていることや、意識していることはありますか。

渡邉:僕は他の地域からやってきたいわゆる“よそ者”ですし、今この地は僕がいなくてもまわるという自覚があります。だから僕がいなきゃダメだという理由を作りたくて、どんなことでもいいから手伝っています。住民の方に代わって助成金や補助金の申請をしたり、今日も町の人にパソコンのセットアップを頼まれたので、一通りやってきました(笑)

飯塚:パソコンのセットアップまで……。渡邉さんのスタンス、すごいです。

渡邉:「湖畔の時間 2020」のようなイベントもそうですが、この地域で何か新しいことをするときに、「お世話になってやるし手伝ってやるか」という雰囲気を醸成したい。いつか動き出すときのために味方を増やしたいという思いがあります。

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飯塚:地域との方々の関係性づくりは現地にいる皆さんだからこそできる部分だと思うので、プロジェクトの一員としてとてもありがたいです。渡邉さんは以前、立科でツアーをやりたい、とお話されていましたが、今この立科町でやってみたいことはありますか?

渡邉:立科町の楽しみ方をいろいろと提案できる、コンシェルジュ的な存在を作りたいですね。白樺湖の方だと、五大さんが運営する八ヶ岳アドベンチャーツアーズでカヌーやSUPを楽しめますが、立科はアクティビティの体験があまりなく、現地に駐在するガイドさんもいない状況です。

自分自身、旅行では行く場所も時間も好きなように決めたいタイプです。だから観光協会ととしては楽しみ方を押し付けるのではなくて、「もっとこういう楽しみ方もあるよ」と提案するくらいが嬉しいと思うんですよね。詳しく知りたい方には立科の楽しみ方を手厚く教えますが、ときには「湖でぼーっとしとけばいいじゃないですか」みたいなことを言ってくれる人も必要だなと思います。

飯塚:最後に、渡邉さんご自身の働き方や遊び方についても教えてください。たてしな観光協会の目の前にゲレンデがあったり、近くに女神湖があったりと、最高のロケーションでお仕事されていると思いますが、どんなライフスタイルが理想ですか?

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渡邉:ゲレンデが目の前にあるので、冬は、朝に1本スキーを滑ってから仕事して、昼休みもまたスキーを挟むような働き方はいいですね。夏場はそれをSUPでやりたいです!

「ワーケーション」がトレンドにもなっていますが、ここでは“毎日がワーケーション”な生活が可能です。せっかくこういう立場・環境にいるので、自分自身がどんどん理想のワークライフスタイルを体現していきたいですね。

ここでできる過ごし方のおすそわけをしたほうが、地域外の皆さんにも、このエリアに「行ってみたい」と思ってもらえるはずなので。自分がこの地域を誰よりも楽しむことが、“よそ者”ならではの価値になってくれるんじゃないかなと思っています。

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