読書メモ 「確率思考の戦略論」

概要

USJでのマーケティングで有名な森岡さんと今西さんのマーケティング本。
今西さんの需要予測パートが具体的でおもしろかった。新製品の需要予測という無理っぽい問題に対して、どのようにデータを収集し、判断を下すかというのが細かく書かれており参考になった。
森岡さんパートも冗長に感じるものの、エッセイとしてもおもしろくさくっと読める一冊。

読書メモ

市場構造の本質

消費者の好み(プレファレンス)は主にブランドエクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つで決まる。
確率分布に購入量が従う実例が示されている。

戦略の本質とは何か

市場競争において自社がコントロールできるものは限られているのでそれに注力しろ。経営資源の配分先は、Preference(好意度)、Awareness(認知)、Distribution(配荷)の3つに集約される。自社製品において、この3つの状況を整理したい。問題のあるビジネスは認知と配荷に問題がある。
認知率の伸びに対してビジネスはあるレベルまでは直線的な関係で伸長する。これは、本当なんだろうか。店頭で横に並んでいるだけだと不十分?消費財の特性もありそう。
エボークトセットに入っているかどうかをかなりちゃんと見ている印象。漠然とした概念かと思っていたが、エボークトセットがいくつあるか、その中に入っているかを試算の根拠として使っていたりする。
メディア内認知をあげることで、メディアを呼び込む戦術はおもしろい。
消費者を区切ってターゲッティングすることは、M(一定期間の一人あたりの購入数)を増やすためであって、決して自社ブランドのMを狭めるためでない。(書籍ではたまにMを購入母集団の量っぽくとらえている。狭いターゲッティングは実務でもやりがち)
USJのMの増大のストーリーはおもしろかった。

戦略はどうつくるのか

売上を認知率、配荷率、トライアル率、エボークトセットに入る率、年間購入率、年間購入回数、平均購入金額に分解し、あげる部分を意識する。

ブランドエクイティは、プレファレンスを左右する最重要要素。ブランドエクイティは明確に定義されていないが、「顧客に認知されている自社製品の強み」ぐらいのニュアンス。TSUBAKIの例はよかった。
製品パフォーマンスは、パフォーマンス差が観測されやすく、かつリピートビジネスにおいて特に重要になる。後述のパッケージサイズが絶大な力を発揮した例がよかった。

戦略構築においてプランBを作って比較する、というのはもっとやるべき。

市場調査の本質と役割

市場調査の本質はプレファレンス(相対的好意度)とその仕組みを解明して、マーケティングの決定者に提供し、成功確率の高い戦略を選択できるようにすること
シングルプロダクトブラインドテストや、コンセプトユーステストの話がめっちゃ勉強になる。ポジショニングの話が説得力がある。
コンセプトテストでは、ブランド名・製品の便益・パッケージの写真・価格などを消費者に見せ購入意向など調査する。コンセプトユーステストでは、その後、購入意向などがある消費者に商品を使ってもらい、リピートするかどうかなどを調査する。このデータを他社製品にもとり、相対的な選好度を明らかにできる。

需要予測の理論と実際

需要予測は大きく外さないことを目指す。大きく外さないとは、誤差を自社の現実的な努力で修正できる範囲におさえる。3か月までの売り上げが予測と大きく異なり生き残った製品はない、というのが非常に示唆的。(経営陣が投資しなくなるため)
需要予測には「絶対値を求める」と「シェアをもとめる」流派がある。絶対値をもとめる場合は、リピート率などの要素に分解して積み上げる。シェアをもとめるには相対的選好度を何らかの手段で取得する。(仮想店舗を構築するなど)。シェアをもとめたあとはマーケットサイズとかけあわせることで需要数にできる。
トライアル率を近似式でもとめる話も実践的でおもしろい。予測モデルにインプットすべき項目が多くある場合は、インプットの値の精度にふりまわされるため、できるだけインプットのデータが少ないモデルが好まれる

ハリーポッターの需要予測のトライアンドエラーでは、最初に構築したモデルが微妙なテーマパークの需要を高めに見積もって破棄した。距離抵抗を考慮できなかったため。そこで映画の観客動員数などを用いたモデルで予測を立てた。

予測計算をするときに注意しなければならないのは、予測に使う仮説と結果としての予測値が現実的に妥当か。仮説の妥当性の確認だけだと危険。全体の整合性も見るべき。全体の整合性チェックには、出てきた数字を似たような実績のわかっている事業プラン「ベンチマーク」と比較する。(ディズニーの新規施策と比べるとか)

消費者テストの方法、コンセプトテストにおいて基本的な質問のあとにコンセプトを見せて、今後その商品カテゴリーのブランドを10回買う場合、どのブランドを買うか、10枚のドットを買う銘柄に振り分けてはってもらうことで、プリファレンスをはかる。表6.9のあたりに具体的な計算方法がある。

消費者データの危険性

消費者データには3つの注意点がある。代表性があるのか、統計的誤差がある、同じ質問でも、聞き方や状況などにより結果がかわる。
購入意向と購入回数は信用しづらいデータ。比率や好き嫌いの順番は比較的正確。
好き嫌いを聞くときも、値段による影響や、選択肢が同等のものか、表割れをおこさないか、といった注意が必要。
市場サイズの推定方法も述べられているが正確には理解できていない。
複数の方式で予測して多面的に見るのが大事。

総評

未発売の商品の売り上げ予測、という点のイメージアップができて、非常によかった。
類似ビジネスを見るというのはもっと自分もやるべきに感じた。(飛行機とかにもっと乗るべき


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