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神なる牛・宇宙のはじまり2021

敬愛する辻信一さん主宰の環境・文化NGO「ナマケモノ倶楽部」から、年始のメールマガジンが届いた。牛を神様とする国・インドの環境活動家、ヴァンダナ・シヴァのメッセージ。

”新しい年がはじまりました。2021年がみなさまにとって、健やかで、楽しく、美しい日々でありますように。新年のご挨拶にかえて、世界的な環境運動家であり科学哲学博士のヴァンダナ・シヴァの言葉を紹介します。(ナマケモノ倶楽部事務局)”

ヴァンダナ・シヴァ「エコロジカルな知恵としての牛」

「牛とは、インドの世界観によれば、宇宙そのもの。牛には私たちがずっと生きていくために必要なものが、すべて揃っている。(略) その牛が私たちに頼むのは、ただ世話をすること、食べ物を分かち合うこと。(略)インドで牛が神聖なのは、迷信ではなく、エコロジカルな知恵だったの」ヴァンダナ・シヴァ 

ここから、牛について思うことや、最近知ったことを書いてみます。まず前提として、わたしの家はもともと牛飼いでした。乳牛と和牛で状況は違いますが、昔の農家に必ずといっていいほど飼われていた牛が、どんどん減っています。

酪農家コンプレックス

うちは、両親そろって丑年の元酪農家です。わたしは小5の途中まで、牛たちと同居していました。牛舎の「片隅」に人間用スペースがあり、わらまみれの屋根裏部屋で寝起きするハイジ生活。今となってはネタですが、当時は全てがコンプレックスでした。

コンプレックスがなくなり、牛に感謝もし、百姓としての祖父や父を尊敬できるようになってきたわたしですが、今の畜産業界には不安な要素が大きく、乳製品や肉類も以前ほど摂取しなくなりました。

アラン・セイボリー「砂漠を緑地化させ気候変動を逆転させる方法」

年明けに見た動画で、「牛」を含む家畜の放牧についての話が衝撃的でした。8年も前に提唱されていたことを、わたしは今まで知らなかった。つまり「放牧のせいで砂漠化する」と信じていた。

「砂漠化は、陸地が砂漠になることを表すしゃれた言葉に過ぎません。」 アラン・セイボリーは静かな口調で、この力強いトークを切り出します。恐ろしいことに、砂漠化は世界中の草原地帯の3分の2の地域で進んでおり、気候変動と伝統的な放牧民の社会崩壊を引き起こしています。セイボリー氏は砂漠化を止めることに一生を捧げています。彼が提唱し、実証が進む手法は驚くべき要素を取り入れて、草原の環境保全と砂漠地帯の緑化に効果を発揮しようとしています。(TED2013、字幕 Akira Kan、字幕校正 Takuya Iwata)

詳細は動画を見ていただきたいのですが、家畜が砂漠化を促進するという思い込み。かつて、アラン・セイボリー氏や他の事例でも、家畜を減らしたり野生動物の数を減らすことで砂漠化を防ごうとしたが、その結果、砂漠はむしろ広がり悪化したというのです。家畜を放牧し、適切に移動させることこれでアジア・アフリカなどの砂漠=貧困地帯の食料問題も解決する、と述べられています。家畜を食用にするだけでなく、周辺の自然環境の改善により野菜や果樹の栽培が可能となる。

わたしは、これをアジア・アフリカなどの貧困地域で実践していくことには賛成です。しかし先進国がモノカルチャー的に大規模農場でそれをやるのは、反対です。これ以上、無駄に肉食を増やす必要はない。たとえばカナダなら、単純に野生動物を増やし、減らさない努力をする方向へ進んでほしい。家畜でなくとも野生生物がいてくれれば、砂漠化は防げるわけですから。草食動物は自ら移動し、肉食動物がその移動を促進することもある。もしくは・・・大規模な工場的畜産を廃止し、小規模農家による自然放牧のみ推進する。というのが、わたしの願い。わたしの、というか「生物界の」あるいは「地球の」願いでもあると思う。

キーワードは「生物多様性」「微生物」

わたしが自宅の畑の一角で実験中の「協生農法」でも、砂漠や荒れた土地を緑化できるということがアフリカで実証されています。ここからもわかることは、生物多様性を守ることの重要性。動物も植物もすべての生き物が(人間を含め)循環している。畑の1平米からでもプランター1鉢からでもモノカルチャーをやめて、多種多様な植物を共存させる。もちろんそこには微生物や生き物たちの存在と働きが欠かせません。ヴァンダナ・シヴァが繰り返し言っているのも、モノカルチャーによる生物多様性の危機。そしてグローバルではなく、ローカルへ。ローカルな文化は、多様性に溢れている。「ヴァンダナ・シヴァの いのちの種を抱きしめて with 辻信一」に感動して、わたしは友人と自主上映会を開催しました(7年前)。

協生農法の説明を、ソニーCSL公式サイトから一部抜粋します。

食料を生産すればするほど、いろんな生き物、植物、動物、微生物が増えて豊かな生態系が生まれる。それが協生農法です。さらに、我々がいろいろな社会的活動や産業活動などを行っていくことが、自然環境や生物を豊かにしていく。そんな、文化的多様性と生態系の多様性が、相互に循環するサイクルを目指しています。

自分の実験はまだ1シーズンしか出来ていないのですが、土がふかふかしてきた。次の春からまた色んなタネをまいて微生物環境を良くしていきたいです。

牛の胃と微生物

話を牛に戻します。牛の体のつくりや、胃腸内の微生物をどう生かして消化しているのか、それぞれの役割(第1胃〜第4胃)についてのテレビ番組を見ました。日本にいる野生の牛も紹介されていた。

父の解説のおかげで非常によくわかったのですが、牛があれだけの巨体を草食だけでつくりあげられるのはなぜか。無理に脂肪率を上げ、筋肉量を増やそうと牛を品種改良(改悪?)し、穀物食を増やすと、牛の胃がどうなるのか。腸内細菌、つまり微生物のバランスを崩して病むのです。特に第4胃がやられると消化不良を起こし、発酵が正常に行われずガスが発生し、そのガスによる浮力で第4胃が上の方へ動いてしまうそうです。こうなると相当重症で、手術しなければならない。(これは父の話)

人間が、牛が心地よく生きる権利を尊重し、牛の健康を守り、ストレスを減らす育て方をしていれば、乳の質も肉の質も変わります。放牧や飼料の与え方も、その方法の一つ。飼料では「グラスフェッド」を取り入れる農場があり、それがわかるように販売されている製品もあります。グラスフェッドは、草食のみで育てるということ。牛が本来は食べるべきでない穀類を与えないことで、健康になる。

なお、日本にいる野生種のひとつは番組で紹介された鹿児島県の「口之島牛」で、もうひとつは山口県の「見島牛」。見島牛について、映像作家の志村信裕さんが作品を作っています。(「見島牛」2015年)

神聖なる牛

冒頭で紹介したヴァンダナ・シヴァの言葉を、もう一度省略なしで引用します。

■この美しい生き物に、すべての環境問題の答えがある

牛とは、インドの世界観によれば、宇宙そのもの。牛には私たちがずっと生きていくために必要なものが、すべて揃っているから。栄養たっぷりのミルク、そして牛糞。それさえあれば、大地は肥沃であり続ける。牛糞はバイオガスとして使える。天然の良薬、断熱性のある建材にもなる。牛は今も重要なエネルギー源。牛さえいれば石油は不要。石油戦争も気候変動もなくなる。この美しい生き物に、すべての環境問題の答えがある。その牛が私たちに頼むのは、ただ世話をすること、食べ物を分かち合うこと。有機農業を進めるうちに、いかに牛が重要かを思い知らされた。インドで牛が神聖なのは、迷信ではなく、エコロジカルな知恵だったの。(ヴァンダナ・シヴァ)

4つの胃を持つという、他の動物にはない方法で微生物と共生し、その大きな体をつくりながら維持している牛は、明らかに「わたしたちにないもの」を持っている。ヴァンダナに付け加えるとすれば、「牛は宇宙そのもの」とするインドの思想は、体の構造から由来しているのではないか。そんなことに思いをはせながら微生物(有機農業)の勉強に励んでいます。

gacco「SOFIX科学有機農業入門講座」

2021・丑年の始まりも、わたしの中では全てのものがつながっている∞


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