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建設業界のイノベーションについて学ぶ本

どんな本

単に建設業界と言っても、土木分野や建築分野、都市計画分野など広義的な意味を含めた社会インフラ分野についての話だった。そんな建設業界での課題とそれに対応したテックに関するお話。

業界課題対する取り組みという順に抜粋して紹介。

要点1「建設分野の課題」

建設分野の課題として挙げられるのは主に以下四つ。

・技術者不足(少子高齢化)
・技術者の経験知依存(経験や勘に頼る)
・経年劣化構造物の増加(高度経済成長期から50年)
・サプライチェーンの複雑さ(設計から管理まで様々な企業が入り乱れる)

一つ目の技術者不足は、人材コストの省力に繋げる取り組みにより、改善する傾向がある。例えば建設現場の無人化施工や自動化、AIによる生産性向上などが挙げられる。

二つ目の技術者の経験知依存は、技術の継承に大きく時間を要することが課題である。加えて特定の人間にしか作業ができないことは生産性の低下につながる。テクノロジーを用いれば誰にも可能で、尚且つ技術者の主観によらない客観的かつ定量的なシステムの構築が肝である。

三つ目の経年劣化構造物の増加は主に維持管理に関する課題である。構造物の寿命は50年とも言われており、高度経済成長期から50年が経過し、建築物の多くが建て替えのフェーズに突入している。人材を抑えた自動的な維持管理が必要だ。

四つ目のサプライチェーンの複雑さは建設業界特有の課題であり、元請け企業から下請け企業に至るまで縦方向の多層に連なる企業群、企画→設計→調達→施工→管理運用までそれぞれのフェーズで異なる企業が担当するケースが多い。これらを含めたスピード感のある情報共有システムが必要である。

要点2「動き出す様々なプロジェクト」

建設業界の様々な仕事において、既に多くのプロジェクトが運用され、多くの技術者の仕事を手助けしている。五つほど革新的テクノロジーを紹介。

BIM(3Dモデルで情報共有)

3次元モデルに材料やコストなどのデータを関連させ、設計・施工・維持管理に活用する基盤。強みとしては、複雑なサプライチェーン内でのスピーディーな情報共有が可能である。設計から管理にあたるまでデジタル化された一つの3Dモデルを適用し、アーカイブも容易になるため、類似事例の活用にも役立つ。今後はBIMを扱える技術者の養成、受注者のみならず発注者や監査行政機関を含めたBIMの活用、IoTセンサを埋め込んだ現場の情報管理の統合が課題だ。

3Dプリンタ(自動で材料物質を生成)

3Dプリンタにより橋梁や建築物の作成が可能。コンクリート生成時の型枠にモルタル(セメント水砂を混ぜ合わせた)を流し込む手作業が不要となる強みがある。これにより自由度の高いデザインの設計と技術者不足の中での人員と工期削減につながる。ノズルの形状や流動性・硬化性に優れた特殊モルタルの開発が肝である。今後は鉄筋コンクリートや鉄筋の代替物質の生成、異なる気温湿度に対して柔軟に適応可能なコンクリート生成、大規模高層ビルへの適用が課題だ。

モジュール建築(工場で開発したユニットを現場で組み立て)

内装まで完成したプレハブユニットを組み立て、一つの大規模構造物の建設を実現する(PPVC工法)。部品工場にて各部品の開発を行うため、天候に左右されず、工事の並行作業が可能となる。工期の削減や工事の生産性向上に寄与する。現状では、工場への投資や建設プロセスやサプライチェーン工程の連携(垂直統合)も進められている。

またコンクリート部材を組み立てるプレキャスト工法も一般的である。

建設ロボット・無人化施工(自動で遠隔で施工)

重機を電子制御やAI、センサを用いて、無人化・遠隔操作を行う取り組み。危険地での作業の無人化や人員の省力化に大きく貢献する。無人重機は24時間労働が可能である為、工期削減生産性向上にも寄与する。近年では重機同士の協力(クワッドアクセル)や既存重機に後付けで無人化機能を取り付けることが可能であり、進歩が著しい。課題はロボット施工を前提とした建設現場環境の改善重機自体のマネジメント(重機の維持管理やシフト)、通信環境整備が課題となる。

建設ロボットは施工以外にも搬送や記録、管理など多岐に渡る。

デジタルツイン(仮想空間上に都市を構築)

仮想空間に現実空間を模したモデルを構築し、工事現場や都市空間のデータのデジタル管理が可能となる。現場のデータを一括管理できる為、BIMとの連携を行えば、建築物単体だけでなく、都市空間(交通シミュレーションやGIS)を含めたデジタル上での連携が可能となる。日本では数十都市のデジタルツインモデルが公開されている。

他にも設計やコスト算出の自動化、UAVやGNSSによる測量の省力化、技術者目線での現場情報の共有、通信環境整備など様々なプロジェクトが存在する。

感想

この本では建設テックと言えども、さらに細分化されたプロセスが存在し、それらを広義的にまとめた括りのイノベーションを指していた。そんな建設業界全体を通して改善すべき課題は3K(きつい・汚い・危険)の払拭であり、上記の取り組みの一つ一つが全体のイメージ底上げにつながる。

そして上記のテクノロジーに加えて重要なのは、何やかんやで現場技術者の声だと思う。現場技術者にとって、人間が作業するより正確でスピーディーで作業しやすい、と思ってもらわなければ意味がない。結局は機械やテクノロジーと建設現場の相互の歩み寄りが重要である(当然技術者側にとってもテクノロジーありきの再教育が必要となる)。

今後は建設のライフサイクルが上記のテクノロジーによって、さらに短くなると考えられる。これによりPoCを回すサイクル数の増加につながり、さらなるイノベーションの加速を呼び起こすと思う。


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