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あの日から、溶けない魔法が心地よくて、わたしは今日も豆を挽く。


ビールよりジンジャエール、ワインよりぶどうジュース、濃いめのカクテルより濃いめのカルピス。苦い味やアルコールはずっと苦手だった。



日常の中で無意識に培われた飲み物の嗜好は、相変わらず大人の階段を上っていないなと思うこともある。


それでもやっぱり濃いめのカルピスは大好きだ。


飲み物はデキる演出家。


1日の始まりに、集中したいときに、落ち込んだら、お祝いと一緒に、食事のおともに、騒ぎたい夜は、読書とともに、そして1日の終わりに…。

喉を潤す以上の力で人に寄り添い、独特の空間と時間を創り出してくれる。

そしてお気に入りの一杯を見つけたら、そう簡単に飲み物に対する嗜好のパラダイムシフトは起こらない。
そう、魔法にでもかからないかぎり…。



2013年の11月、わたしは軽井沢で結婚式を挙げた。

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軽井沢の11月は紅葉もすっかり終わり、夜は特に静かだった。
そんな中でのキャンドルナイトウェディング。家族だけでこじんまりと、
温かな挙式で感じた空気は、すこぶる心地よかった。



翌朝チェックアウトを済ませ、そのまま東京に帰るのがなんだか勿体なく感じたわたしたち夫婦はホテルのロビーラウンジでひと時を過ごした。

そこで出されたのが「丸山珈琲」だった。

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コーヒーよりも紅茶派のわたしには縁のない無い飲み物だった。

口に含んだことはなかったが、コーヒーの味はだいたい予想がつく。
いつものように紅茶を頼むべきだっただろうが、でもなぜだろう、あの時は素直にコーヒーを飲んでみようと思ったのだ。




丸山珈琲が軽井沢で生まれたブランドだったこと、コーヒーが苦手な人でも楽しめるクリアな味だと説明をうけたこと、夫がコーヒー好きであること、そして昨夜からの高揚感で少し心が広くなっていたことなど理由はいくつかあった。


枯れ葉の晴天に包まれた、軽井沢の優しい雰囲気の中、コーヒーを口に含んで喉をくぐらす。



…おいしい。



口いっぱいに広がるまろやかな香りと、見た目と裏腹なクリアな喉越し。

まるで自分の人生パネルが新たな色にパタパタとひっくり返されていくかの
ような感覚。



忘れないうちにまたコーヒーを飲む。
喉を通り越して胸のあたりにゆっくりと染み入るように温度が伝わる。



ゆっくり目を閉じて深呼吸をした。

コーヒーってこんなにおいしかったっけ…。

隣で夫が笑っていた。







あの日から8年。魔法はとけない。




お気に入りの浅煎り豆を探し、コーヒーミルで豆を挽き、香りを楽しみ、コポコポとフィルターにお湯を注ぐ。
炭酸ガスで豆がプハァと動く様子を夫婦でほほ笑み合う。

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朝と夜の小さな幸せのひとときだ。

今でも丸山珈琲を飲むときは、あの時のパタパタと人生のパネルがひっくり返ったような、不思議な感覚を懐かしむ。




そう、あの朝わたしは一瞬にして魔法にかかったのだ。




そしてあの日から、とけない魔法が心地よくて、わたしは今日も豆を挽く。



※軽井沢 石の教会の公式ウェブサイト https://www.stonechurch.jp/
※挙式の写真はわたしたち夫婦の実際の挙式写真です(照)。

コーヒーの写真はイメージです。

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