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熊本で飲む夜々①

2021年秋から2022年冬までの約1年間、出張でコンスタントに熊本県を訪れていた。
わたしにとって、「出張でたびたび訪れる街」という場所ができたのは初めてで、日常でもないのだが旅行でもないその独特の距離感がとても居心地良く好きだった。
なじみの店ができるほど長く熊本通いが続いたわけではないが、そこで出会ったラブリーな飲み屋たちと、その夜の話をしたい。

この日、4/16。
4月中旬でこんなにツツジって咲くもの!?とびっくりして、南国を感じた。


■味処 まさ(小川)

仕事より1日早く熊本入りして宇城市の小川に1泊。この日はADDressを利用。来る途中で知った、「松橋」と書いて「まつばせ」と読む地名がなんとなく気に入る。

めずらしく電車で。

滞在場所付近は昔ながらの静かなたたずまいでしみじみといい所なのだが、近辺に飲み屋はなく、自転車を借りて飲みに出かけた。

小川阿蘇神社。一瞬で好きになった。
とてもかっこいい木がある。

情報があまりない中何軒かぐるぐると覗きまわって、3軒め、そろそろ決めたいと思い勇気を出して入ったのが「まさ」だった。
店構えはお世辞にもきれいとは言えなくて、掘立て小屋みたいなそれだったのだけど、いつものようにガラガラと引き戸を開けて「ひとりです」の指を一本立てたときにわたしに向けられた常連さんの目が、刺すようなものでも、値踏みするようなものでもなく、純粋に興味津々、という感じ。
早速「あっ、当たりを引いたな」と思えるような雰囲気だった。

近くの川。ここも一瞬で気に入った。
熊本はいつでも夕日がでかい。

店主の方が一人で回しているお店で、一見無愛想な面持ちなのだが、眼差しがあたたい。
料理も量を聞いたりすると(一人飲みは量の把握が重要)丁寧に答えてくれるし、1杯目に頼んだハイボールを飲んでいると「濃さ大丈夫?」とかいろいろ聞いてくれる。

そして料理がうまいのに安い。しかも「うまい」の質が、大衆酒場的な「うまい」ではなくて、料亭…は言い過ぎかもしれないが、控えめに言ってもちょっといい和食屋さんのそれなのである。
例えば鯛の煮付け。盛り付けも美しく、絹さやや山椒の葉が添えられており、ふたりで分けても十分な量で600円台だった。

これがその煮付け。仕事が丁寧で惚れ惚れする。
居酒屋では基本写真を取らないので、お店の写真はこれだけ。

その日は土曜日だったが場所柄か、わたし以外はおそらく全員地元の常連さんたちで、近所にこんないい店があるあなたたちがうらやましい!と思った。
そしてその常連さんたちがまた良かった。わたしがカウンターの右端に腰掛け、その横に手前から男性、男性、女性、女性と並んでいて、どうやら彼らは同じグループというわけではなく別々に来た常連同士のようであった。
若干柄は悪いのだが皆心優しく、わたしがメニューを迷っているとおすすめを教えてくれたり、こんな味と説明してくれたり、挙句の果てには迷い果てたわたしに「俺がこれ頼むから半分あげるよ」と言い出す始末。

さらに米焼酎を頼もうとしたら、「ここにあるよ」とボトルキープしているものを分けてくれた。
女性たちも「どうしてこんなところに泊まってるの?」「どこから来たの?」と興味津々で話しかけてくるのだが、それが全然嫌な感じじゃなかった。
「いいお店ですねえ」とわたしが言うと、「そーなの、そーなの」と嬉しそう。
常連さんも含めて一見客に優しくて、店全体がいい空気をまとっているお店は間違いなく良店だ。空気感を店全体で共有できるくらいの適度な広さであることも重要になってくる。お酒にあまりこだわっていない感じなのを差し引いても、今までに行った居酒屋の中で5本の指に入るくらい良かった。

ハイボールも焼酎も日本酒も飲んだけど、酔っぱらわずにシャンとして帰った。出発した時低いところに上りはじめていた満月が、空の高いところでぷわぷわと輝いていた。

出発するときにはこんなだった満月。

食べきれなくてお土産に持たせてもらった里芋のからあげを、翌朝レンジでチンして食べて、昨夜のしあわせな夜の記憶をもう一度ホクホクと味わったのだった。

2軒目につづく。


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