放送作家として嫉妬してしまうバーチャルYouTuber “企画屋”グウェル・オス・ガールさんのはなし
以前、記事で書いたように、少し前から僕は「にじさんじ」というバーチャルYouTuberグループにハマっています。
この投稿から約10カ月。
いま認識できているライバーを数えてみたら110名の内、倍の88名まで増えていました。順調に、芋づる式で見進めています。エデン組好きです。
そんな僕が、配信を見ながら「楽しみ」と同時に、大きな「尊敬」と小さな一匙の「嫉妬」を覚えてしまう人が1人います。正確には「人」ではありませんね。“エルフ”のグウェル・オス・ガールさんです。
推しですね。どれぐらい推しかと言うと、デビュー直後にめちゃくちゃ叩かれて炎上したのは知っているけど、心が痛くなりそうだからそのアーカイブを未だに見られないぐらいには好きです。
グウェル・オス・ガールとは
(某・笑ってもいいお昼の番組のMCを務めていた方をモチーフにされたと思われる)グウェルさんは、プロフィールにあるように「司会者」です。
「科学者」「錬金術師」「女子高生」と、パーソナリティーのるつぼとも言える「にじさんじ」の中でひときわ輝いて見える肩書き。「司会者」。
YouTuberと同様、VTuberにも「ゲーム」が得意な人・「歌」が得意な人・「雑談」が得意な人etc…様々な個性を持つ配信者たちがたくさんいますが…グウェルさんは中でも「企画」を得意としています。
「企画」が得意なVTuberってどういうこと?という人のために、まずは僕の好きなグウェルさんの動画TOP3を紹介して、その魅力を伝えたいと思います。
▼無言桃鉄
プレイ画面だけで成立している「桃鉄」というゲームを使うことで、「一言も喋らなくてもいい状況」を作り上げているのですが…一方で桃鉄ならではの「足の引っ張り合い」や「大転落」など「思わず声が出てしまう瞬間」が随所にあるので、そこで漏れる“ガチの吐息”や”ため息”に笑ってしまいます。ただただ無言でやればゲームは何でも面白くなるわけでもないはずなので、ここのソフトのチョイスも絶妙。
また、にじさんじという団体の中でも比較的、口が達者・舌が回る・(主張の激しい)メンバーを集めている点も良くて…「黙ってることが面白い」という、チート級のスタート位置から始まっているのがズルいですね。流し見とかでもいいので見てほしい企画です。絶対に笑っちゃう瞬間がある、と自信をもって言えます。
▼今から20分で集まったライバーで人狼します
「テレビ番組の作家をしている」と学生時代の友人などに伝えると高確率で「どこまで台本なの?」なんて無粋な質問をされるのですが、安直にそんな質問をしたくなってしまうような動画でした。
何人集まったのか?人狼は誰なのか?勝ったのは誰か?…ネタバレになるのでこの辺りの情報からオススメするのは難しいですが、人狼好きほど笑える動画になっていると思うので、ぜひ見てみてほしいです。動画自体も30分で終わるコンパクトさなので。(…20分募集してるのに…尺は30分?はて…)
▼魔界ノりりむが 積分の問題を解けるまで おわれません
前述の2つはバラエティーとしての野心的な挑戦に心惹かれるものですが、こちらの動画をジャンル分けするならば”ドキュメンタリー”です。
グ「 y = x² + x + 5という式があります。 x って分かりますか?」
り「わからないです。この y もわかんない。
この上に 2 があるのも分からない。」
という状態で開幕。ここから凄まじいスピードで知識を吸収し、一人で積分の問題を解けるようになるまでのドキュメント。
内容だけ見れば「果たして不登校の生徒に本気で教えれば数時間で積分を解けるようになるのか?」みたいな下品なキャッチも付けられる企画ではあるのですが、りりむさんの「知らなかったことを理解できることの楽しさ」やグウェルさんの「疑問や分からなさを否定しないで教える大切さ」みたいなものが詰まっていて、【学ぶ喜び】【人との関わり合い】に大事なもの、のような…「人生に必要なもの」が伝わってくる動画、というところまで昇華されている企画です。ぜひ教育者の皆さんに見てほしいな、と思いました。
後日談として、配信と全く関係ないところでりりむさんが自発的に積分の復習を行っていた、という話も素敵です。
先ほどの人狼企画と打って変わって、こちらは8時間6分12秒の動画。僕が8時間6分12秒全編すべて観てしまった、ということがオススメの後押しになることを祈ります。
キャスティングからはじまる企画と、キャスティングで輝く企画
グウェルさんが「にじさんじ」に応募した理由は、「人が多いから」だそうです。
応募フォームの志望理由の欄には
「私は企画屋です。にじさんじに入りたいと思った理由は、にじさんじにたくさん人がいるからです。」
「たくさん人がいれば、色んな企画ができるからです。」
同じ企画でも、人が変われば新しいものになる。
人が多いことは正義だから、と書かれたそうな。
つまり、志望の段階から「自分以上に他者を生かす“企画”の立案・運用」に主軸を置いていたわけです。まさに生粋の企画屋。
Vtuberという、この5年ほどで大きく成長してきた業界について「新たな自己表現」というイメージが僕の中にありました。それは「歌」だったり、「ゲーム」だったり・・・3Dモデルという媒体をも経由し、PCの前からも解放されて、(生身から離れた新たなバーチャルの自分になり)、やりたいことをやる。
この、ある種「主張」や「自主性の強さ」をビシビシと感じる業界の中に入り込んで、「他者をもってして成立する”企画”」を自らの主軸とする。こんな人(エルフ)がいるのか、と驚かされました。もちろんグウェルさんにとっては企画こそが「自主性」であり「主張」になりうる、ということではあると思うのですが。
企画には大雑把に分けると2種類あります。
①キャスティングから生まれる企画
②キャスティングによって魅力が増す企画
①キャスティングから生まれる企画
こちらは、少し嫌な言い回しで言い換えるならば「キャスティングありきの企画」ということですね。「ありき」というのは、「この人でしか成立しない」という意味です。芸人Aさんが最近「山」を買ったから、この山で様々なアウトドアをする番組を作ろう!のような。企画の発端が「人」であるもの。
また例えばレギュラー番組で「こんな企画をしたら面白いんじゃないか」というコーナー案も、この①に該当します。要するに”確定している出演者”の魅力を最も引き出す枠組みは何か?という考え方です。
②キャスティングによって魅力が増す企画
テレビ番組の企画募集においては、後者の②を求められる場面が多いです。言い換えると「キャスティングに縛られない」企画案。
例えば「この人がMCじゃないと出来ない企画」が通ってしまうと、「番組のOA位置が定まっていないため、MCが裏かぶり(同時間帯に他局に出演)となった場合に替えが効かないから」「そもそもMCにスケジュールが合わなければ成立しないから」などの理由から、基本的には②が求められています。
もちろん、そうじゃない時もありますが。多くは「キャスティングに縛られない企画」が求められる。「”人の凄さ”に頼ってない企画」ということですね。
そして、(僕から見ると)グウェルさんは
①キャスティングから生まれる企画
②キャスティングによって魅力が増す企画
を見事に使いこなしている印象があります。
必ずしもどちらか一方に分類されるのでなく、①と②が渾然一体となっているものですが、先ほどご紹介した企画をざっくり分けるのであれば、
▼魔界ノりりむが 積分の問題を解けるまで おわれません
→①キャスティングから生まれる企画
▼無言桃鉄
→②キャスティングに縛られない企画
と言えるでしょうか。
▼魔界ノりりむが 積分の問題を解けるまで おわれません
「勉強が分からないだけで意欲はある」「知識に対して素直で真摯である」というりりむさんの存在は、この動画において最も重要なファクターです。この企画は「キャスティングが核」とも言えるでしょう。どの動画か失念しましたが、後日グウェルさんも「りりむさんあってのもの」「他のライバーで同じことをやるつもりはない」という旨の発言をしていたように思います。
①の企画は他にも…
◎【 #にじPEX 】APEXやった事ないけど優勝目指す事にしました。【グウェル・オス・ガール/歌衣メイカ/Mukai】
◎【 #ういにんグらん 】相羽ういは 就活始めます【にじさんじ】
◎【にじさんじ】初配信直後の新人ライバーに突撃インタビューしてみた【エデン組】
◎ルイス・キャミーなら発声( ポン チー カン ロン ツモ) 出来なくても負けない説
◎北小路ヒスイのキャンディをグウェル・オス・ガールのマイクに変えてもバレない説【にじさんじ】
など。
▼無言桃鉄
一方で「無言桃鉄」は、前述のとおり、後発の”キャスティング”が企画の良さを倍増させている例だと思います。「そもそも面白い企画」が、「この人たちだからこそ余計に面白い」という。
②の企画は他にも…
◎【 #初対面桃鉄 】全員初対面で桃鉄をやる【にじさんじ】
◎【 にじさんじ 】サザエさんに ジャンケンで 絶対に勝つ【 グウェル・オス・ガール / 健屋花那】
◎【#GUIGUI】ヘリウム麻雀【にじさんじ/グウェル・オス・ガール】
◎【マリオカート8DX】水中マリカ【グウェル・オス・ガール/山神カルタ/にじさんじ】
◎政治を語る【文野環/グウェル・オス・ガール】
など。
「にじさんじ」という”豊富な資源”への愛情
「この人のこれを企画にしたら面白そう」「この企画にはこの人を呼んだら面白そう」と、①と②の目線を交えつつ、企画を考える。その①にも②にも必要なのが、「にじさんじ」のメンバーに対する興味の視線です。
この人にはこんな企画が合いそう、この人はこの人と仲が良いから一緒に何かやれそう。人のプロフィール、好み、傾向から交友関係まで…有象無象の所属ライバーに対する”興味”を常に持つことが「企画屋」として必要不可欠なはず。
”大量の人が所属している”ということは、企画屋にとって大きなメリットのある「資源」とも言えます。ただ、その資源を「使う」のではなく、「一緒に作っていく」。応募理由の「人が多かったから」にドライな印象を持つ人もいるかもしれませんが、しかしグウェルさんからは、「にじさんじ」ひいてはそこに所属するメンバーに対する愛情の眼差しを感じるのです。
というかそもそも、社員として企画を提案するのではなく、自らそこにメンバーとして所属する、ということが何よりもその愛情の証明であるようにも思いますが。
僕自身がそうですが、(おそらく多くのフリーランス)放送作家は、「番組」や「企画」単位の外様スタッフとして招集される場面が多く、腰を据えてモノづくりをしていくような「ホーム」を感じづらい職業です。実際、僕は放送作家の事務所に所属してはいますが、それぞれがそれぞれの仕事をしているというイメージが強い。自由行動です。
だからこそ、自身がイチ演者として率先して企画を進行し、多様な同僚たちに囲まれながら、彼らを元に企画を立案・運営していくグウェルさんのような存在に、僕は憧憬の眼差しを向けてしまうのかもしれません。
自分が放送作家という仕事をしているからこそ、比較してみてしまうのですが、他にも「ショート動画の回転数に注目して高い再生回数を目指す」などといったグウェルさんの現実的な一面も、「分単位でCMの入れ所を調整して視聴率の上がりを目指す」という放送作家の姿勢に重なるところもあり・・・(笑)
兎にも角にも、「企画屋」であり「司会者」という、Vtuberの中でもひときわ異彩を放つグウェルさんの、常に新しいことを探している姿勢に感銘を受けている、というお話でした。
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