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好きな作家のデビュー作を十数年ぶりに読んだ話

好きな作家のデビュー作を十数年ぶりに読んだ。あまりにも好きすぎて影響を受けすぎてしまうので自分で読むのを禁忌としていたからだ。禁忌といえばKinKi Kidsにはそういう響きもあったんですね。

閑話休題。読んだ本は西尾維新の『クビキリサイクル』。初見の時は表紙の改行の位置に気がつかず長いことクビキ・リサイクルと読んでいたのが懐かしい。クビキという何らかのものをリサイクルする話だと思いながら読み進めていたのでクビキリには心底驚いた。

今回はクビキリ・サイクルだと分かっている状態、ただし設定は海の孤島のみ、キャラクターはいーちゃん、友ちゃんのみ把握で読み始めた。(単に忘れただけだけど)

ので、1、2ページ目の全力戯言で胃もたれしてしまい、これを読んだ当初何を嬉々として楽しんでいたのか全力で理解に苦しむこととなった。(全力戯言は3ページで終わるので安心して欲しい)

それから二段組にも驚いた。化物語の専売特許のように記憶していたせいかもしれない。二段組でしかできないトリックとかあったらもっと面白そうと急に思いつきで言ってみる。少なくともクビキリサイクルの中ではアリバイ表が一段目と二段目に分かれるなどしていたため、文字数の問題で二段組にした感じが強かったことを記録しておく。

以下、本格的にネタバレを含みます。ご注意ください。

まずは全体を俯瞰してみて思うこと。
初見の頃は読み切るのに全力で振り返りもしなかったなということ。

というのも冒頭の全力戯言はただの戯言ではなくネタバレを含む巧妙な会話だからである。(と私は考えた)しかもタイミングとしてはエピローグあたりの会話である。
いくら凡庸な若い頃でも、読み返していればそのことに気がついたはずである。当時は純粋に世界へ誘うプロローグだと認識していたように思う。

それから西尾維新は赤という色に強い思い入れがあるのだなというすごく単純な感想。それは請負人が真っ赤な装束で現れることからも、ヒロインが逆に青色の髪をしていることからも、重要人物の名前に「赤」が入っていることからも窺える。化物語の装丁が赤色なのもその辺りに起因しているのかもしれない。

あとは知らないと分からないネタが散りばめられていること。そのことから西尾維新本人の知識量の広さと深さを思った。当時はネタが分からずそのまま流していたように思う。ネタの広さと深さだけではなく、そのネタの見せ方、いじり方まで、そのネタについてよく知っていないとできないオツさを兼ね備えている。

もちろん全知全能なわけではなく、努力と見せ方の積み重ねなのだろうけど。それにしたって凡人から見ればそれこそ「天才」にすら思われる才能を感じさせる。「天才」を描く天才と言うべきか。才能がありすぎて奇天烈なキャラクターを破綻なく「実現」させられる、自分の物語の中で。

物語を描くということの中でなら、少なくとも、彼は「天才」で「万能」なのだと再認識した。

それからそれほど「天才」にはなれなくとも近づきたい、もっと知らなければ世の中のことを、と切実に感じていたことも思い出した。大学で建築学科に属しながらなぜ専門外の語学を様々学習し最終的に英文学科のゼミに入ることになったのか得心がいった。(自分のことなのに忘れていたんだね)

この度戯言シリーズ本編の続編が発売されるということなので、皆様もぜひ読み返してみるのはいかがでしょうか。

子供の頃、大人たちが本を読み返すという行為をする理由がわからなかったけど、というのも話は覚えているし同じものを読んでも何も得るものはないと思っていたからだが、今はその理由がわかる。

同じ本でも読む方は変わってゆくのだ。同じものを読んでも感じ方は変わるし得るものも変わるのだ。それが本を読むということの真の面白さなのだ。

以上、ひさしぶりに思い出の本を読み返してみるのもおすすめだよ、ちなみに戯言シリーズは新刊が出てアツい!話でした。


文責  綿来すずめ
画像  表紙より

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