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『ドゥームズデイ・ブック』を読んで

感染症を扱う小説や歴史書に注目が集まっているようです。カミュ『ペスト』、小松左京『復活の日』といったあたりが有名でしょうか。

本書はタイムトラベル×伝染病がキーワードとなるSF小説です。読書会のテーマとなったきっかけで、このたびコニー・ウィリスさんという作家を知りました。

大森望さんの解説によれば本書は「英語圏SFの三大タイトルと言われるネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞の三冠を独占し、さらにドイツ、スペイン、イタリアのSF賞にも輝いている。〝アメリカSFの女王〟の座をウィリスにもたらした代表作というだけでなく、現代タイムトラベルSFを代表する傑作」とのことです。

いや、たしかにページターナーな作品でした。これからつらつらと書きますが、なんとか核心にはふれないようと思います。

矛盾は起きないというルール

さて、タイムトラベルを扱う作品はそれぞれ「ルール」を設定します。過去に行って親が亡くなってしまったらどうなるのか?タイムパラドックスと呼ばれる矛盾に対して「世界線」のようなパラレルワールド的な多世界解釈など、作品ごとの味わいがある。

で、本書はさらっと「矛盾は起きないこと」となっている。思えば、この約束事(運命)が残酷なほどのリアリティ、そして作品の深みを生み出します。

舞台は2054年のオックスフォード。タイムトラベル技術が確立され、歴史研究に限って利用されている。史学部の女性キヴリンは、フィールドワークの一環として14世紀へ送り出されます。

なるべく違和感なく生活を送るため、当時の格好を装い、中世の英語を学びつつもインタープリントという翻訳機を身に付けたキヴリン。この翻訳機がはじめは生の言葉を読み取らず、だんだん機能していくのがリアルで巧い。

近代以前の衛生面は現在とかけ離れていることは『繁栄』で描かれていますが、著者は中世イングランドの日常をこれまたリアルに映し出します。キブリンはある一家に拾って(救って)もらうわけなのですが、そこに登場する姉妹なかでも5歳児アグネスの健気さとやら、ああ。

小出しと、ひっぱる力

21世紀の現在はどうなっているのか。ギヴリンを送り出した後、実務を担当した技師が突如倒れてしまいます。しかも重体でその容体からはウィルスの感染だとわかります。

タイムトラベルを通じてウィルスが行き来するなんてことはあり得ないし、そもそもギヴリンは1320年のイングランドにいる、ペストが大流行する1348年だし、きっと大丈夫。うん、まさか?」ギヴリンの安否を確かめようと奮闘するダンワージー教授が現在パートの主人公。

病室でうなされる技師。駆け寄るダンワージー教授。技師は「なにかがおかしい」としきりに言います。核心にはたどり着けない。ウィルス感染は広がっていくばかり。原因は?食い止められるのか?キヴリンは無事なのか?

一方のキブリンも到着と同時に病に倒れ、意識を失ってしまいます。先述したある一家に助けられるも、21世紀に帰るためのゲートとなる出現地点の場所がわからない。最初に助けてくれた人とコンタクトを取り、キヴリンは元の世界に帰り着けるのか?

ようやく体調が回復したと思ったら追い打ちをかけるように、キヴリンは「ある事実」を知ることで自分・周囲の危機を悟ります。

「ある事実」に対して孤軍奮闘、そこに「矛盾」という名の奇跡は起きるのか。物語は時代を交互に描きながら、密接に絡み合って進んでいくわけですが、「ある事実」のパズルがはまってからはページが止まりません!

「リアリティ」と「ひっぱる力」にぜひ注目してお読みください。というわけで以上です!


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