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やりたいことはやらないともったいない!|LAC八女コミュニティマネージャー・坂本治郎さんインタビュー

日本の原風景が色濃く残る福岡県八女市黒木町笠原にあるゲストハウス「天空の茶屋敷」がLivingAnywhere Commons(以下LAC)の拠点に加わりました。

天空の茶屋敷(LAC八女)は茶畑に囲まれた山間集落の高台から里山の絶景を楽しむことができるロケーションにあります。

オーナーの坂本治郎さんは長期の海外放浪の旅を経て、空き家になっていた八女の祖母宅に移住され、生き方を模索するなかで天空の茶屋敷を設立されました。

天空の茶屋敷(LAC八女)は、坂本さんの人柄や価値観が体現された場所になっており、外国の方や旅人・ノマドワーカなど多様な利用者が交差する拠点です。

今回は、坂本さんが天空の茶屋敷(LAC八女)をつくりあげた経緯やその魅力についてお話をお伺いしました。

海外放浪のあとに移り住んだ八女の祖母宅

――坂本さんはかつて6年間も海外放浪されていたと聞きました。なぜそのあとに日本の田舎に暮らそうと思ったのですか?

海外放浪でいろいろな国に住んだり、ワーキングホリデー(旅行・留学・就労を含めた滞在ができる制度)を利用して働いたりもしていました。スラム街のようなところに住んでいたこともあれば、お城のような豪邸に住んで働いていた時期もあります。いろんなタイプの経験をしたなかで感じたことは「どこに住んでもあまり変わらない」ということでした。

画像1▲海外放浪中の坂本さん

――居心地が変わらなかったと?

誰だって一度はいい家に住みたいって思うことはあるかもしれませんが、豪邸に住んでも1週間くらいで慣れてしまいます。そこに定着して慣れてしまえばどこもあまり変わらなかった印象を持ちました。

――なるほど。

どこに住むのかということよりも、どう生きるかが重要だと思ったんです。海外放浪をしている時はある意味でホームレスなので、まずは自分のホームを持ってみたいと思いました。

田舎は人とのつながりを感じられたり、文化的なものが残っていたりと本来の美しさに出会えるチャンスが圧倒的に多く自然も残っています。

私が日本人であることもあり、日本に住むことが自分らしい自然な生き方だなと思い日本の田舎に住もうと思いました。それから日本に帰国して、八女の空き家になっていた祖母の家に移り住むことにしたんです。その家で、まずは「住み開き」をしてみました。

住んでいる家を開放するとどんどん人が集まってきた

――「住み開き」とは何ですか?

住み開きとは自分の家を開放して「誰でも泊まりに来ていいよ」と開放することです。僕が海外放浪をしていた時には「カウチサーフィン(ホストが家のカウチ=ソファーを提供して旅人を泊めるインターネット上のコミュニティー)」などを利用して世界中いろいろなところを泊まり歩いてたんですね。路上で拾ってもらうこともたくさんありました(笑)。

今度は八女で僕の家を開放してみたんです。するとこんな田舎の家に外国人を中心に人がたくさん来るようになりました。そして、家に来てくれた人が「九州、福岡に行くなら坂本さんの家は泊まらせてもらえるよ」と他の人に伝えることでどんどん人が集まってくるようになりました。

画像2▲住み開きをしていた祖母宅の様子

――外国の人がたくさん訪れるようになって地域の方は驚いたんじゃないですか?

最初、地域の方からみると「何であそこの家に外国人が集まっているんだろう?」という感じだったでしょうね。住み開きをしていた家の最寄りのバス停に外国人がいつも降りていくので、バスの運転手さんも乗車している外国人に「ここで降りますよね」とアナウンスするくらい定着化してましたね(笑)。

――坂本さんと地域の人との交流はあったんですか?

僕の家に泊まりに来た外国人は、日本の田舎をおもしろがって周辺を散歩することが多かったんです。散歩中に地域の方と仲良くなって、僕の家に呼び入れるようになり、そこから地域とのつながりがどんどん広がっていきました。

――いい感じですね。その頃の坂本さんの気持ちはどのようなものでしたか?

当時、僕は資本主義に少し疑問を持っていました。働きすぎて心が貧しくなってしまう人もたくさんいますし、地球の資源を過剰に消耗する経済活動をしたくないとも思っていて、これからの生き方を模索していました。

そんな中、住み開きを始めて1年くらいたった頃に僕は好きなことをしているだけで多くの人に喜ばれていることに気付いたんです。

外国の方は、日本人の僕と会うことや無料で家に泊まれること、素朴な日本の田舎を旅できることに対してすごく感謝してくれるんですね。また、地域の方も世界中から来る人たちとの交流をとても楽しんでいたんです。

自分ができることで、みんなが喜んでくれることがある

――生き方を模索するなかで、家に泊まりに来る人や地域の人の喜ぶ姿があったんですね。

少子高齢化社会の日本では山間部を中心に縮小したり、なくなっていったりする村があります。

僕が唯一できることは単純に外から人を連れて来ることです。そんな「自分ができることで、みんなが喜んでくれることがある」ということに気付いてから、事業にチャレンジしてみようと思い「八女茶ツアー」を立ち上げたんです。

――八女茶ツアーの内容を教えてください。

まずは外国人友達のつながりの中から参加者を募りました。ツアー内容は、お茶農家さんのところへいってお茶摘み体験したり、お茶工場を見学したり、お茶を淹れる体験をしたりするものでした。それが参加者にもお茶農家さんにもたいへん好評で大成功でした。

画像3▲八女茶ツアーの様子 シーズンになるとお茶摘み体験ができる。

――外から来る人や地域の人にも良いツアーになったんですね。

八女茶ツアーを通してお茶農家さんや緑茶組合さんとのつながりもでき、お茶農家の人手不足の現実も知ることができました。

そこで、僕のところにふらっと来る人たちが僕の家に数ヶ月単で滞在して、人手不足の農家さんのところで働くという流れが生まれました。現在も、シーズン中はお茶摘み体験ができますし、農作業したい方の受け入れも行っています。

山奥の集落で名前がバズったことで巡り合えた一軒家

――一連の流れのなかで取り組みが生まれてきたんですね。

八女茶ツアーの取り組みを始めて「こんな田舎の茶畑に外国人をたくさん連れてくる坂本という人物がいるらしい」と山奥の集落で僕の名前がバズったそうです(笑)。たいしたことはしていませんが、山奥の集落ではかなりセンセーショナルだったと思います。

そんな折に、集落の中心的存在の人とお酒を飲む機会があり「坂本君、あんたあの家もらいなさい」と言われたんです。その家は集落の奥にある立派な一軒家ですが、家主さんの子どもさんたちも集落外に住んでいて跡取りがいない空き家でした。

取り壊されることが決まっていた家を有効活用してくれる人がいないかと探していたところに僕に白羽の矢が立ったんですね。あんたならいいと。その家が今の天空の茶屋敷です。

――坂本さんがいなかったらその家は取り壊されてたんですね。

そうだと思います。最初は迷いましたが、その家をもらう決心をしました。

10年間空き家でしたので、DIYで改修するにしてもお金が必要でした。この家をいかすためには事業などでお金を稼ぐ必要があること、地域の人がここを盛り上げてくれることを望んでいることからゲストハウスにしていく方向性を意識するようになりました。

画像4▲空き家改修の様子

――天空の茶屋敷設立に向けて動き出したんですね。

地域おこし協力隊の方からはアイデアや補助金の活用方法などを教えてもらったり、地域の大工さんなどさまざまな人に協力していただいたりして改修作業を終えることができました。

余計なものがないから仕事や読書に集中できる

画像5▲天空の茶屋敷(LAC八女)と周辺の景色

――天空の茶屋敷の特徴を教えていただけますか。

圧倒的に周辺に何もないところですね。周りに余計なものがないから仕事や読書に集中できると言われます。都会だったら何か生産しないといけないという気持ちになりますが、ここではニートでも大丈夫といった感覚をもつことができます。

また、天空の茶屋敷は集落の高い場所にあり見晴らしがとても良いので、里山の素晴らしい風景を見ることができます。

――天空の茶屋敷にはさまざまな人が訪れそうですね。

妻が外国人ということもありますし、2020年以降の渡航制限がかかる前は外国人がとても多かったです。ですので、こんな山奥なのに英語が飛び交っていました(笑)。

それから、お金がない人もヘルパーとして受け入れています。お客さんというよりも自分で自分の人生を生きようとしている人たちが集まる傾向があります。

画像6▲庭でのイベントの様子

――LACの拠点にもなったことでより多様性が広がりますね。

そうですね。ここは大きな家ですが拠点とよぶには小さいと思うんです。ほどよい距離感で一緒に夕食を囲んで食べるような感じですね。そういった適度なサイズ感なので交流が生まれやすいと思っています。地域の人もふらっと入ってきますしね。それからWWOOF(「農業労働を提供するウーファー」と「食事とベッドを提供するホスト」をつなぐ仕組み)などのサイトにも登録しているので、農家のお手伝いをする人たちも受け入れています。

――天空の茶屋敷とは別にシェアハウスもあるとお聞きしました。

はい。山奥の集落なので空き家がたくさんあるので、僕が空き家を借り上げてシェアハウスにしています。ここを気に入って長期滞在したい方にはシェアハウスに住んでもらっているんです。天空の茶屋敷を利用している方もふらっとシェアハウスに行ってそこの人たちと交流することもありますね。

ちなみに、山奥にあるこの集落だけ空き家ゼロなんです。天空の茶屋敷を利用している方やシェアハウスに住んでいる人たちが集落を散歩して地域の人と交流をしてるんですね。そんなふうに周りに人がいることによって、おじいちゃんおばあちゃんも安心して集落にいることができているのだと思います。

画像7▲天空の茶屋敷の近くにあるシェアハウス

にわとりの鳴き声で目が覚める朝

――天空の茶屋敷の魅力について教えてください。

朝はにわとりの鳴き声で目を覚ますことができますね(笑)。にわとりを放し飼いをしていますので、素朴な雰囲気を楽しめると思います。人なつっこい猫のコジローも人気ですね。それから、キッチンのかまどで炊くごはんはおいしいです。蛇口をひねれば天然水が出てくるのでおいしく料理もできます。

画像8▲かまどがあるキッチンスペース

――屋内空間はいかがでしょうか?

古民家ならではの雰囲気がある空間も魅力の1つですね。1階の庭に面したワークスペースは周辺の雰囲気も味わいながら仕事ができる場所になっています。屋根裏にもワークスペースがあり絶景のなかで仕事ができますね。

画像9▲屋根裏スペース

――利用者さんはどのような印象を持っているのでしょうか?

最近でいえば、庭でたき火ができることが喜ばれました。たき火は住宅地だと周りに迷惑がかかるのでできないですよね。ここでは家の前でたき火ができますし、庭からの景色も素晴らしいです。トランポリンやテントサウナもありさまざまな過ごし方ができるおもしろい場所になっていると思います。

画像10▲庭の様子

――魅力的ですね。

都会や観光地なら行く理由があると思うんですが、こんな田舎に来る理由はあまりないですよね。ここに来る人は天空の茶屋敷の雰囲気に関心があったり、山奥の日本の原風景を求めていたりする人が多いと思います。うまく言葉にできませんが、ここにはとても「いい人」がきますね(笑)。ここに来る人自体も天空の茶屋敷の魅力です。

チェックインはあとにして一緒にお茶を飲もう

画像11▲天空の茶屋敷(LAC八女)の玄関前

――天空の茶屋敷を運営するにあたり坂本さんが大切にされていることはありますか?

僕が海外放浪した時にいい宿だなと思った基準は「オーナー・スタッフが良い」ということです。多少施設が汚くても、ロケーションが悪くてもオーナーやスタッフがウェルカムな雰囲気であればいい宿だと感じました。そういう宿は交流が生まれやすい宿でもありました。僕は新しく泊まりに来る人を「新しく来た人だから仲良くしてね」と他の人に紹介するようにしています。

――その一言だけでも違いますね。

それから、チェックイン手続きはあとにして一緒にお茶を飲む。細かい気配りやいろいろなことよりも一緒にお茶を飲むことって大事だなと思っています。毎回できるわけではないですが、時間が許せばそうするようにしています。

――今後の展望を聞かせてください。

僕のスタンスとして、宿も子育ても旅もしながらいろいろなことにチャレンジして「おもしろおかしく生きたい」と思っています。

2022年9月からは八女茶を売りながら、北海道から九州まで歩いて旅をしたいと考えています。広報活動と遊びを兼ねてお茶を売ったお金だけで旅をする計画です。

その間、宿は誰かに任せたいと思っていて、2022年6月くらいから宿主を探そうかなと思っています。

――読者へのメッセージをお願いします。

「人生は1回きり、やりたいことはやらないともったいない!やりたいことはやろう!」ですね。TwitterやFacebookでメッセージをいただければ返しますし、気軽に声をかけてくれるとうれしいです。

自著『2000日の海外放浪の果てにたどり着いたのは山奥の集落の一番上だった』が2022年1月27日に発売されましたので、そちらもよろしくお願いします。

画像12▲坂本さんと猫のコジロー

<ライター:宮嵜浩>


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