英語語源辞典通読ノート A (accurate-act)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp10からp12までの単語あたり。前回に引き続きac-シリーズ。

accurate

「的確な、正確な」という形容詞。語源はラテン語 "accūrāre" (to take care of) の過去分詞形 "accūrātus"。"accūrāre" は 接頭辞 "ac-" と "cūrāre" に分解され、"cūrāre" の元になった "cūra" は英語 "care" の語源である。
おそらく「しっかりケアされた」というニュアンスから「的確な、正確な」という意味に転じたのだろう。"care" の影が見えるとわかりやすい単語だ。

accuse

「責める、非難する」という動詞。パッと見て "excuse" との関係は見える。語源的には中英語 "acuse"、フランス語 "acuser"と遡り、ラテン語 "accūsāre" に至る。接頭辞 "ac-" と"causāri" からなり、"causāri" は "causa" から派生している。言わずもがな英語 "cause" の語源だ。
原因に方向づけるようなニュアンス、その人に原因を求めるような感じから「非難」に通じるだろうか。

ace

カタカナ語の「エース」。今の形になったのは16世紀ごろらしい。中英語までは "as" と綴られていたようだが、これは例の「3文字規則」だろうか。

語源をさらに遡るとフランス語 "as"、ラテン語 "assem", "ās"に至るが、それより先は不明らしい。ギリシャ語 "héis" (one) とも関連する。そのまま「一」という意味で、フランス語から借りた外来語が定着した感じだろうか。

acerb, acid, acrid

"acerb" はあまり馴染みがないが、「酸っぱい、辛辣な」という意味の形容詞。「酸」といえばアルファベット的にも近くに "acid" がある。
"acerb" の語源はフランス語 "acerbe"、ラテン語 "acerbus" に遡り、これは "ācer" (sharp) から派生している。
また、英語 "acrid"(刺すような匂い/味)という似た単語は、同じラテン語 "ācer" から派生したラテン語 "ācris" に由来している。こちらはラテン語から直接英語に来たようだ。
しかし、英語 "acid" はこれらとルーツが違い、フランス語 "acide" またはラテン語 "acidus" (sour) が語源とされている。これはラテン語 "acēre" (to be sour) から派生しており、上述の "ācer" とは別の語である。
しかし、ラテン語からさらに遡ると "ācer" も "acēre" も同じ印欧語根 "*ak-" (sharp) に由来するらしく、一応同語源と言えなくはないようだ。

ache

「痛む」という動詞と「痛み」という名詞の両方の意味がある。語源を遡ると、中英語 "ake", "ache"、古英語 "acan"、ゲルマン祖語 "*akan" に由来する。"*akan" は先程出てきた印欧語根 "*ak-" に由来する。
この単語の面白いところは、中英語までは名詞と動詞で綴りも発音も分かれていたらしいことだ。元々は動詞は "ake" で名詞は "ache" だった。このような対応は "speak-speech"などにも見られるようで、現代英語に残っているものもあるが、"ache" については17世紀頃に混同され、綴りは名詞の "ache" なのに、発音は動詞の "ake" /éik/ のほうが一般化した。さらにDr Johnson(18世紀の英語辞書編纂者)はギリシャ語 "ákhos" が語源だと誤解し、その混同が正しいものとされた…ということで、英語史の不合理さがにじみ出ている単語だった。味わい深い。

acou-, acoustic

「聴覚」に関係する語につけられる接頭辞。「アコースティック」は馴染み深い。語源はフランス語 "acóu-"、ギリシャ語 "akoúein" (to hear)に遡る。そして "akoúein"は印欧語根 "*(ɘ)keu-" に由来する。この語根はゲルマン祖語では "*χauzjan" になり、これは英語 "hear" の語源である。元々はkだった音がゲルマン祖語ではhの音に推移するのはGrimmの法則である。

つまり、"acou-" と "hear" は印欧祖語のレベルでは同語源だと言える。ギリシャとゲルマンの経路の違いで見た目も発音もまったく変わってしまった生き別れの兄弟だが、英語で再会できたようでめでたい。

acrobat

カタカナでおなじみの「アクロバット、曲芸」という名詞。語源はフランス語 "acrobate"、ギリシャ語 "akrobátēs"、"akrobátos" に遡る。"akrobátos" は "ákros" と "batos" から成り、前半の "ákros" (edge) はまたもや印欧語根 "*ak-" に由来する。"batos" (going) は "bainein" (to go)に由来する。
合わせると「先端を歩く」という感じのニュアンスだろうか。

across

「横切って」という副詞。"a-"接頭辞と"cross"から成るというのは通俗語源らしい。『英語語源辞典』によると正しい語源は中英語 "acrois"、アングロフレンチ(アングロノルマン) "an croiz" (in cross) とのことで、アングロフレンチにおける成句が中英語に入るときに縮められて一語になったようだ。

act

英単語としては超重要だが、語源はそれほど面白みはなかった。遡ると中英語 "act(e)"、古フランス語 "acte"、ラテン語 "actum" (things done) に由来し、"actum" は "actus" (doing) から派生している。"actus" の原形は "agere" (to drive)で、印欧語根 "*ag-" に由来する。見た目通り、"agent" や "agile" といった英単語の語根でもある。


今回はここまで。 "ac-" シリーズは次で終わりそうだ。