英語語源辞典通読ノート A (Adam-adult)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp13からp17までの単語あたり。

Adam

人名の「アダム」。語源を遡るとヘブライ語 "Ādhám" が由来。語釈に小話として "Adam's apple" が「のどぼとけ」を意味する由来について書かれている。禁断の果実がリンゴであるのはラテン語において "malus" (evil) と "mālus" (apple) が同形であることから生まれた俗説だが、それに基づいてアダムがリンゴを喉につまらせたことでのどぼとけができたという二重の俗説が生まれたらしい。語源というより語釈がおもしろい単語だった。

address

カタカナ語の「アドレス」ではあるが、なかなかの多義語である。「住所」や「宛名」を指すかと思えば、「取り掛かる」という動詞にもなる。この謎は語源がわかるとけっこうすっきりする。
語源は中英語 "adresse"、古フランス語 "adresser"、俗ラテン語 "*addrictiāre" まで遡る。"addrictiāre" は "ad-" 接頭辞とラテン語 "drictus" から成る。"drictus" は「まっすぐ」という意味で、英語 "direct" の語源でもある。また、"dress" とも関連する。
つまり、「まっすぐにする」という原義から「進路を定める」という意味が生まれ、そこから「取り掛かる」や「身支度をさせる」「手紙を書く」という意味に転じた。そして「手紙を送ること」という意味から転じて「宛名」を意味するようにもなった。隠れた "direct" のニュアンスを感じ取れば意味のつながりが見えてくる。
ちなみに "dress" の原義も14世紀ごろは「まっすぐにする」であり、そこから「衣服を着せる」に特化した結果、いまの「衣服」という名詞の用法に転じたのは 1606-7年、シェイクスピアの用例が最初だという。また、おそらく "dress" に引っ張られて "address" も「衣服」を意味した時代があったようだ。中英語期の混乱を感じる。

adieu

別れの挨拶の「アドゥー」だが、あまり日本で聞くことはない。語源的にはラテン語 "deum" に遡る。つまりデウス(神)である。"goodbye" の語源が "God be with you" であるのと重なる。

ad-lib, ad libitum

「アドリブ」でおなじみ、"ad libitum" の短縮形である。語源的にはラテン語 "ad" (according to) と "libitum" で、"libitum" は "libēre" (to please) に由来する。これは英語 "love" の語源でもある。原義は「好きなようにやる」という感じだろうか。

admiral, admire

この2つの単語は形だけ見たら絶対に関連語だと思うが、語源的にはかすりもしていないまったくの無関係だった。
"admiral" は「海軍指揮者、提督、旗艦」というような意味の名詞。語源を遡ると中英語、古フランス語、中世ラテン語と遡って、アラビア語 "amír-al" (the commander of the) にたどり着く。つまり、 "admiral" の最後の "-al" はアラビア語の冠詞の "al" であって、英語の派生語を作る "-al" とはまったく関係ないのであった。
一方の "admire" のほうは「賞賛する」という動詞で、語源は中英語、フランス語と遡ってラテン語 "admīrārī" にたどり着く。これは "ad-" 接頭辞と "mīrārī" から成るが、"mīrārī" の元になった "mīrus" は英語 "miracle" の語源である。奇跡と賞賛は意味的なつながりもイメージしやすい。

adolescent, adult

カタカナ語でも「アドレッセンス」という形で見ることはたまにある、「青年」とか「青年期の」という意味の単語。語源は中英語、フランス語と遡ってラテン語 "adolēscentem" にたどり着く。これは "adolēscere" (to grow up) の現在分詞形で、"ad-"接頭辞と "olēscere" から成る。ちなみに、 "adolēscere" の過去分詞形 "adultus" から生まれたのが英語 "adult" である。「成長中」なのが青年で、「成長した」のが大人ということだろうか。
また、"olēscere" は印欧語根 "*al-" に由来するが、これは英語 "old" の語源でもある。"adult" と言われてみれば意味的にも繋がっているが、気づいていなかった。

adulterate

ところで、「偽造する、混ぜ物で品質を落とす」とか「姦通を犯す」という意味のこの単語、"adult" となんの関係もない。語源的には "ad-" 接頭辞と "ulterate" (alter) から成っており、"adult" が動詞形に派生したと言われても騙されそうな見た目をしていながら紛らわしいことこの上ない。


今回はここまで。 "ad-" の終わりが見えてきた。慣れてきたのでペースを上げていきたい。