英語語源辞典通読ノート A (ac-account)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp7からp9までの単語あたり。ac-シリーズがまだまだ長くて早くもひとつめの山場という感じがしている。

ac-

接頭辞の"ac-"。立項されている語義は2つあり、ひとつは"ad-"接頭辞(移動、方向、変化、強意など)が、続く文字の影響で「同化」してしまったもの。"accept" や "acquire" など多くがこれに該当する。
もうひとつの語義は、本来 "a-"接頭辞であるべきところで「誤用」によって"ac-"になってしまったもの。"acknowlegde"がこれに該当するらしい。acで始まる語はとても多いので発音から誤解されたんだろうか?古英語時代には "aknow" という単語もあったようだがすでに廃語で、いまでは"acknowledge"という形しか残っていない。

academy

プラトンのアカデメイア学園に由来しているというのはよく知られている。今の綴りはシンプルだが、中英語では "achadomye" となかなか複雑な綴りをしている。これが不思議なのは、輸入元のフランス語では "académie" だし、さらに戻ってラテン語でも "acadēmia"、ギリシャ語に遡っても "akadēmeia" なので、中英語での綴りのルーツがどこにも見当たらないことだ。いったい何がどうしてこうなって、しかし結局今の形になったのか、なかなか謎だ。

acarus

「ダニ」を意味する名詞。語源はギリシャ語 "akarēs" に遡れて、"a-"接頭辞と "keirein" (to cut)に分解される。この"a-"は否定を意味する接頭辞で、つまり「これ以上切れないほど小さい」という意味になる。"atom"に通じる語形成のルーツがあった。

accelerate

「加速させる」という動詞。語源はラテン語 "accelerāre" (to quicken)に遡る。この語は "ac-"接頭辞と"celerāre"部分に分解される。"celerāre" はラテン語 "celer" から派生しており、英語 "celerity"(敏捷)の語源でもある。さらに、"celer" は印欧語根 "kel-" (to drive)に遡る。これは英語 "celebrate", "celebrity" と共通する。「走らせる」と「(祝典などを)挙行する」という意味はそれほど遠くなさそうだ。

accept

「受け入れる」という意味の動詞。語源はラテン語 "accipere" に遡る。これは "ac-"接頭辞と"capere" (to take)部分に分けられて、"capere" は英語 "captive", "capture" の語源でもある。また、さらに遡った印欧語根 "kap-" は英語 "have" の語源でもある。

access

予想外に複雑だった。そもそも意味が難しい。立項されている中でもっとも古い語義はすでに廃語義になっているが1300年前後から1751年までの「間欠熱」で、2番目が「(感情の)激発」である。時代的にはそれほど離れていないが1380年前後にようやく「接近、出入り」という馴染みの意味がでてくる。この変遷はまったく意味がわからない。さらに、この単語は1962年に動詞としても初出しており、主にコンピュータ用語として「呼び出す、アクセスする」という使い方が生まれたらしい。なぜコンピュータ分野でこの単語を選ばれたのかは不思議だ。

語源的にはラテン語 "accēdere" に遡り、"ac-"接頭辞と"cēdere" (to go)部分に分けられる。"cēdere" は印欧語根 "ked-" に遡る。同じ "ked-" からは "exceed", "proceed", "succeed" など、"-ceed"系の英単語がたくさん生まれている。どれもなんとなく前進する感じがある。
ついでに、派生語に "accessory" といういわゆる「アクセサリー」を意味する名詞があるが、これの初出義はなんと「従犯」らしい。そこからどうやって今の装飾品の意味になったのかまったくわからない。

accident

「偶発事件、偶然、災難」といった意味の単語。ラテン語 "accidere" (to fall upon) の現在分詞 "accidēns" が語源。"accidere" は "ac-"接頭辞と"cidere"部分に分けられて、"cidere" はラテン語 "cadere"(to fall)からの派生。"cadere" はさらに印欧語根 "kad-" (to fall)に遡る。英語 "case" も同じ語根から生まれている。

語源的には原義は「降ってくるもの」だが、日本語でも「災難が降りかかる」と言うし、共通しているイメージがありそうだ。

accord

"according" のほうがよく見る形かもしれないが、「一致させる」「和解する」というような意味の単語。語源は俗ラテン語で "accordāre" という形が再建されるらしい。これは"ac-"接頭辞と"cordāre"部分に分けられるが、"cord-"という語根は印欧語根 "kerd-" に遡る。これは英語 "heart" の語源でもある。英語語源辞典の解説によれば、原義は「心を通わせる」であり、そこから「和解する、一致する」という意味に変化したようだ。"accord" に "heart" が隠れているとは思いもよらなかった。

account

いまではかなりいろんな意味で使われてそうだが、一番古い語義は1280年頃の「申し開きをする」という動詞らしい。1300年頃には「計算、会計、勘定口座」という今の一般的な使われ方に近い意味になっているが、この間の意味変化はよくわからない。しかし、この最初の語義が "accountable"(責任のある)という派生語の意味に通じていると思われる。なんで "accountable" が「責任」に通じるのか分からなかったが、原義がそうなのだとわかるとちょっと許せる気がする。

語源的には古フランス語 "aconter" に遡り、"a-"接頭辞 (to, at)と "conter" (to count) に分けられる。"conter"はラテン語 "comptāre" に遡り、これは英語 "compute" の語源でもある。関連して、堀田隆一先生のheldioでも "count"と"compute"が二重語であるということは過去に取り上げられているのでご紹介。


今回はここまで。まだまだ "ac-"シリーズは続く…