英語語源辞典通読ノート A (absolute-abuse)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp5からp7までのab-から始まる単語あたり。

absolute

「絶対の、絶対的な」という意味でよく使う単語。中英語の"absolut"の元になったのはラテン語の"absolvere"の過去分詞形である"absolūtus"である。"absolvere"は「(義務などから)解除する、放免する」という意味の英語"absolve"の語源でもある。
ラテン語"absolvere"は"ab-"接頭辞と"solvere"に分けられて、"solvere"はいわずもがな英語"solve"の語源でもある。"solvere"は元になった"*seluere"という語が再建されるらしく、これはさらに"se"部分と"luere"部分に分けられて、"se"部分は「離れて」というような意味で英語"separate"の接頭辞でもあり、"luere"部分は「ほどく、放つ」というような意味を持っている。
意味的に「絶対的な」とは遠いように感じたが、ラテン語"absolūtus"は"absolvere"の過去分詞形ということだから、「解放された」という意味で考えると「他のものとの関係がたれた、独立したもの」という感じはしてくる。そこから「絶対的な」という意味はそれほど遠くないかもしれない。

abstain

この単語を見たときの第一印象では、語源的には"ab-"と"stain"に分解されるのだろうと思ったら、"abs-"と"tain"だった。これに限らないが、"ab-"接頭辞はc, tの前では"abs-"に変形するらしい。なので意味的には"ab-"接頭辞と同じである。
これは「自制する」という意味の単語で、ラテン語"abstinēre"に由来する。後ろはラテン語"tenēre"から派生していて、これは英語の"hold"に相当する。また、英語"tenant"の語源でもある。
意味を合わせると、"ab-"+"tenēre"で「離して留める」という感じだろうか。自分から遠ざけておく、つまり自制するということのようだ。まあまあわかりやすい。

abstemious

「節度のある」という意味の単語で、これ自体はそれほど面白いわけではないが、17世紀頃には意味が近いことから"abstain"に引っ張られて"abstenious"(mがnになっている)と綴られていたこともあるらしいのは面白い。接頭辞は同じだが語源的に無関係である。

abstract

いわゆる「アブストラクト」。この単語も最初は構造的に"ab"+"stract"だと思いこんでいたが、例に漏れず"abs"+"tract"に分解されるパターンだった。
語源になっているのはラテン語"abstrahere"の過去分詞形である"abstractus"で「取り除かれた、引き抜かれた」のような意味になる。ラテン語 "trahere"は「引く(draw)」という意味で、英語 "tract" や "extract" の語源でもある。これがわかっていると"abstruct"と綴り間違えることはなさそうだ。
しかし、「取り除かれた、引き抜かれた」という意味からどうやったら「抽象的な」という意味に転じるのかはいまいちわからない。具体的な事物から取り出される概念的なものということなのだろうか?
よく考えると「象的」の「抽」の字も「出」のように「抜き取る」というような意味だ。調べてみるとどうやら英語からの翻訳語らしい。うまい漢字を当てたもんだなあ。


abuse

「濫用、悪用」という意味でそれなりによく使われる単語。これは直感通り語源的にも"ab"と"use"で構成されていて安心した。本来の用途から離れて使う、ということだろう。


今回はここまで。"ab-"で始まる語は読み終わったので、次から"ac-"に突入する。