英語語源辞典通読ノート A (alarm-alligator)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp27からp33までの単語あたり。

alarm, alert

この2つの単語はここまででは珍しくイタリア語からの借入語らしい。
"alarm" はもともと戦闘準備を呼びかける間投詞だった。中英語 "alarm" は古フランス語 "alarme" からの借入で、これはイタリア語 "all'arme!" からの借入である。 "all'" の部分は "to the" のような前置詞で、"arme"はそのまま武装を意味し、ラテン語 "arma" に由来する。見てわかる通り英語 "arm" の語源でもある。「武装せよ!」という呼びかけが原義ということらしい。
"alert"もほとんど同じくフランス語 "alerte" からの借入で、これはイタリア語 "all'erta" (to look-out) からの借入である。意味も近いし出身も近いが、語源は関係ないのがおもしろい。

alb, album

"alb"はカトリック教会の聖職者の白衣のことを指す。後期古英語 "albe" は中世ラテン語 "alba" からの借入で、ラテン語 "albus" (white) に由来する。
このラテン語 "albus" から派生して生まれたのがラテン語 "album" で、ドイツ語を経由してそのまま英語まで借入されている。原義は「何かを記すための白板」のことらしく、そこから意味が転じて今の「アルバム」になったようだ。どう転じたらそうなるのだろうか。

ale

お酒の「エール」は古英語 "alu" から続く本来語である。ちなみに、英語語源辞典によると、"ale" と "beer" は15世紀まで同義語だったらしい。意味が分化したのはイングランドにホップの栽培が導入されてからで、そこから16世紀まではホップが入るものが "beer"、入らないものが "ale" と区別したらしい。しかし今では "ale" は "beer" の一種ということになっているようで、この2つの単語の関係は時代とともに変わっているようだ。また、ゲルマン語派の中で "ale" と "beer" の両方が残っているのは英語・アイスランド語・フェロー語だけで、北欧では "ale" 系の語だけ、それ以外では "beer" 系の語だけが残っているらしい。麦酒に対する文化的なこだわりが関係するんだろうか?

algebra, algorism, algolithm

"algebra" は今では「代数学」の意味が主で、"algebraic"「代数的」という派生語もある。この単語の原義は「骨折、接骨」らしい。中世ラテン語 "algebra" からの借入で、これはさらにアラビア語 "al-jabr" からの借入である。なぜ意味が「代数学」になったかというと、ペルシアの数学者 al-Khwārizmí の著書のタイトルの中で「変形、移項」という意味で使われたことから転じたらしい。
で、この数学者の al-Khwārizmí という人名から転じたのが中世ラテン語 "algorismus"、そこから古フランス語、中英語に借入され、英語 "algorism" になった。しかしこれは「アルゴリズム」ではなく「アラビア数字算法」を指す単語らしい。
いわゆる「アルゴリズム」を指す英語は "algorithm" だ。これはもともと "algorism" だったのが、「数」を意味するギリシャ語 "arithmós" と混同することで、17世紀あたりから "algorithm" と綴られるようになり、いまではこちらが一般的になっているようだ。"arithmós" は 英語 "arithmetic" 「算術」の語源なので、意味的にも近くて紛らわしい気持ちはわかる。

alligator

「ワニ」を意味する単語。英語語源辞典にはそう書かれていないが、おそらくこの単語は "lizard" とほぼ二重語と言えるんじゃないかという気がする。
"alligator" はスペイン語 "el lagarto" からの借入語である。"el" は定冠詞で、 "lagarto" は「トカゲ」を意味するし、ラテン語 "lacertum" に由来する。
この "lacertum" は古フランス語 "lesard" に借入され、そこからさらに借入されて中英語 "lesard" から現代英語の "lizard"「トカゲ」になっている。
これはラテン語の "lacertum" がスペイン語経由と古フランス語経由で分かれて英語で合流した二重語だと言えないんだろうか?
ちなみに英語 "alligator" はフランス語 "alligator" として借入されているらしく、そうするとフランス語においても "alligator" とlézard" で二重語ということになりそうだ。


今回はここまで。ペースが上がっているのはおもしろさハードが上がっているのもあるが、"al-"シリーズはアラビア語由来のパターンが多くてけっこう単調というのもある。だいたい折り返しなので次で "al-" を終えたい。