英語語源辞典通読ノート A (ana-andro)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp42からp45、"an-"から始まる単語です。

ana-

"ana-" から始まる単語の多くがこの接頭辞を持っているが、とても同じ接頭辞とは思えない多義性がある。

本来ギリシア語系の語に付き次の意味を表す: 1「上方に」. 2「逆に」. 3「再び」. 4「全体に」. 5「…に従って」

p42 "ana-"

意味に一貫性がないように思えるが、語源は印欧語根 "*an" (on, above) に由来するらしいから、本来的には1番目の意味を与えるのが主なんだろう。しかし実際にこの接頭辞から成る単語を並べてみてもそういう感じはしてこない。
まずは "anachronism"(時代錯誤)。これはギリシャ語 "anakhronismós" に由来し、"ana-" + "khronizein" (to spend time)から成る。"khronizein" はもちろん "khrónos" (時間) から派生している。おそらくこれは "ana-" の2番目の「逆に」という意味で、否定の意味の接頭辞として機能していると思われる。
次は "anagram"  (アナグラム、綴り替え)。これもギリシャ語で "ana-" + "grámma" (文字) から成る。おそらくこれは綴られた文字を「再び」並べたものということだろう。
"analogue" (相似物)や "analogy" (相似、類推) もギリシャ語で "ana-" + "lógos" (比率、割合) から成る。これは「比例関係に従って」ということで5番目の意味だろうか。
"anatomy"(解剖学)は "ana-" + "témnein"(切る)に由来するが、これはどの意味だろうか…
面白かったのは "Anatolian"(アナトリア人の)という単語で、これは ギリシャ語 "anatole" に由来するが、語源的な原義は「日出ずる国」になるらしい。アナトリアは現在のトルコがあるあたりで、ヨーロッパから見て東に位置する。位置関係としては中国に対する日本と同じだ。

anarchy

「無政府状態、無秩序」を意味する。この語の接頭辞は "ana-" ではなく否定の意味を付与する "an-" の方である。英語に入ってきたのは古フランス語 "anarchie" からの借入で、大元はギリシャ語 "anarkhía" である。これは "an-"接頭辞 + "arkhós" から派生しており、"arkhós" は「頭領、支配者」を意味し、英語 "architect" の語源でもある。

ancient

古フランス語 "auncien" からの借入語で、俗ラテン語 "*antianu" に由来し、これはラテン語の "ante" + "-anus"(〜の)から成る。"advance" のときにも出てきたが、「前の (before)」を意味する語で、午前を意味する "a.m." (ante meridiem) と同じ "ante" である。前の時代のものということで原義からもわかりやすい。

andro-

この接頭辞は主に「男性の」という意味を付与する。語源はギリシャ語 "anér" (man, male)だ。
たとえば人名の "Andrew" はギリシャ語での人名 "Andréās" からラテン語、古フランス語などを経由して英語に入ってきたものだ。"Andréās" はギリシャ語 "andreîos"(男らしい)から派生していて、元は "anér" である。
また同じく人名 "Alexander" もギリシャ語 "Aléxandros" がラテン語経由で英語に借入されたものだが、これは "aléxein"(守る) + "andr" (←"anér") から成っている。
関連するおもしろい単語で、"androgyne" というものがある。これは「両性具有者、雌雄同花の植物」といった意味の単語だが、語源はギリシャ語 "androgunos" である。これは "andro-" 接頭辞と "gunē" から成るが、"gunē" は「女性」を意味する。印欧語根では "*gʷne-" に由来し、これは英語 "queen" の語源でもある。つまり、"androgunos" は "man-women" ということで、まさに文字通りの意味である。
また、ギリシャ神話の "Andromeda"(アンドロメダ、ペルセウスの妻)の "Andro" も同じ語源である。辞書によるとギリシャ語 "Andromédā" の原義は "mindful of her husband"、「夫(ペルセウス)を思う」という意味からつけられた名前のようだ。


今回はここまで。"an-" はまだまだ始まったばかり…