英語語源辞典通読ノート A (alt-amuse)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp34からp41、"al-"から"am-"までの単語あたり。

alt, alto

"alt" は音楽用語「アルトの」を指す形容詞。名詞「アルト、アルト歌手」は "alto" になる。イタリア語 "alto" (high)からの借入語で、ラテン語 "altum" に由来する。"altum" は「高い」という形容詞だが、原義は「栄養が与えられた」で、"alere"「栄養を与える」の過去分詞形である。印欧語根に遡ると "*al-" (to grow) に由来し、英語 "adult" や "old" と同語源となる。
栄養が与えられてすくすく育った植物みたいなイメージで高さの意味が強まったんだろうか。「高度」を意味する "altitude" の "alti-" も同じラテン語に由来する。

alum, aluminium

"alum" は「ミョウバン」で、"aluminium" はそのまま「アルミニウム」を指す。ミョウバンはアルミニウムを含む物質なので、名前の由来になっている。"alum" は古フランス語からの借入語で、これはさらにラテン語 "alūmen" からの借入語らしい。それより古い語源は諸説あるようだが、この辞典では印欧祖語 "*alu-" (bitter) に由来する説を載せている。ミョウバンは少し苦いらしいから、ありえそうな語源ではある。

amateur, amenity

"amateur"は「アマチュア、素人」を指す。フランス語からの借入語で、元はラテン語 "amātor"(愛好家)で、"amāre"(愛する)から派生している。
"amenity"はカタカナ語の「アメニティ」で馴染みがあるが、「快適さ」という名詞でもある。これはラテン語 "amoenus"(愛らしい、楽しい) に由来するが、そこから先の語源は不明らしい。"amāre" に由来するという説もあり、そうすると"amateur"と同語源になる可能性がある。

amb-

"amb-" 接頭辞は「周囲に、両側に」というような意味を持つ。ラテン語からの借入で、印欧語根では "*ambhi-" に由来する。この接頭辞を持つ関連語がおもしろかった。
まずは "ambassador"「大使」は、「周辺(の国)に送られる者」ということだろう。次に "ambient"、これはそのまま「周囲の」という形容詞でわかりやすい。また、"ambiguous"「あいまいな、多義の」もこの接頭辞を持つ。言葉が芯を捉えておらず指示対象の周囲をふわふわしている感じだろうか。
とりわけおもしろいのは "ambition"「大志、野心」だ。形容詞では "ambitious" となる。一見"ambi-"接頭辞とは意味が繋がらないように思えるが、語源であるラテン語 "ambitiōn" の原義は「歩き回る」だ。そして公職志願者が票集めのために歩き回ることから「名誉欲」や「野心」という意味に変わっていったとされる。これは英語語源鉄板ネタのようだ。
また、「救急車」を意味する "ambulance" も"amb-" 接頭辞に由来する。これはフランス語からの借入だが、もともとは "hôpital ambulant"「移動する病院」だったのが、「病院」の部分が省略されて "ambulant" だけで移動病院、救急車を指すようになったらしい。
ちなみに単語によっては"amphi-"という形になっていることもあり、"amphitheatre"「円形劇場、アンフィシアター」もその例である。"amb-" はなかなか応用力が高い。

ammonia, ammonite

それぞれ「アンモニア」と「アンモナイト」を指す。この2つに共通する "ammo-" の部分は同語源である。
"ammonia" はラテン語 "ammōniacus" に由来するが、これはリビアにある古代エジプトの "Ammon"(アメン神)にちなむ神殿の近くの地域で取れたことで名付けられている。この神はギリシャでは角の生えた雄羊の姿に象徴され、その角の形を連想させることから貝の化石に "ammonite" という名前がつけられた。
ちなみに、「弾薬」を意味する俗語の "ammo" は "ammunition" という単語が省略されたもので、Ammonとはまったく関係ない。

amoeba, ameba

生物の「アメーバ」を指す。語源はギリシャ語 "amoibē" で「変化、交換」などを意味する。印欧語根に遡ると "*mei-" となり、これは英語 "migrate" や "mutation", "mutant" などと共通する。「変化」つながりがわかりやすい関連語だ。

amuse

名詞 "amusement"「アミューズメント、娯楽」のほうが馴染みがあるが、動詞での古い意味は「だます、欺く、馬鹿にする」だ。しかし語源的な原義は「熟考する」であるという。今では「楽しませる」という意味に転じているので時代によってだいぶ意味が違うようだ。語源的には古フランス語 "amuser" に由来し、これは "a-" 接頭辞と "muser" から成る。"muser" はギリシャ神話の女神ムーサを指す "Muse"("music"の語源)とは語源的には関係ない。


今回はここまで。次は "an-" から始まる単語に突入する。