英語語源辞典通読ノート A (anniversary-antarctic)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp48からp49まで。

anniversary

意味は adj.「例年の」や n.「記念日」で、カタカナ語でもなじみがある。語源を遡ると、中英語 "anniversarie" がラテン語 "anniversārius" からの借入語である。この語は "annus" + "versus" + 形容詞化する "-ary" から成る。 "annus" は 英語 "annual" の語源でもあり、「1年」を意味するが、原義は「過ぎ去った期間 (the period gone through)」らしく、印欧語根の "*at-"(行く)に遡る。
また、同じラテン語 "annus" に由来する語として、 "Anno Domini"(西暦)がある。"Domini" は「支配者、主」といった意味で、英語 "dominion" や"domestic"、"dome" などと同語源である。
そんな感じで、英語で "ann-" を見かけたら「1年」に関係する意味だとヤマを張っていいものかと思いきや、p48を読むと全然そんなことはないことがわかる。

annotate

「注釈を加える」という動詞。「アノテーション」というカタカナ語でもなじみがある。この単語はラテン語 "annotāre" に由来し、"an-"接頭辞 + "notāre" から成る。この "an-" 接頭辞は "ad-" が "n" の音の前で変形したもので、強意や方向づけの役割である。"notāre" は見た目通り英語 "note" の語源である。
分解してみると大したことはないが、いままでは "note" が隠れていることに気づいていなかった。

annul, annular

この2語はこんなに似ているのに、意味も語源もまったく関係がない。
"annul" は「無効にする」という動詞で、後期ラテン語 "annullāre" に由来する。これは "an-" 接頭辞(強意、方向づけ) + "nullum"(無)から成る。つまり「nullにする」という語である。
一方 "annular" は「環状の」という形容詞で、ラテン語 "ānulāris" からの借入語である。この語はラテン語 "ānus"(輪)からの派生である。
ちなみに、"ānus" は英語 "anus"(肛門)の語源でもある。"anus" の項を読む限りでは、ラテン語まではただの「輪」の意味だった語が、古フランス語に借入されたタイミングで「肛門」の意味に変化し、そのまま中英語に入ってきたようだ。何が起こってそうなったのかまったくわからない。

anomalous, anomo-

"anomalous" は「矛盾した、変則の、変則的な」という意味の形容詞である。この語はラテン語からの借入語で、遡るとギリシャ語 "anōmalos" に行き着く。"anōmalos" は "an-" 接頭辞(否定の意) + "homalós" から成り、"homalós" は英語の "homo-" 接頭辞(同一の)と関係する。ホモ-ヘテロの "homo"である。同じものが揃った状態が打ち消されているということで、「変則的な」という意味になるのはわかりやすい。
ところで、辞書ではすぐ下に "anomo-" という接頭辞も立項されている。これは「変則の、不規則の」という意味を加える接頭辞で、植物の葉の並びが不規則であることを表す "anomophyllous" のように使われる。しかしこの "anomo-" の語源は "anomalous" とは関係ない。こちらはギリシャ語 "ánomos"(無法の)に由来し、否定の "an-" 接頭辞 + "nómos"(法)から成っている。"nómos" は "-nomy"(〜学、〜法)の語源である。
ちなみに、意味が対称的である "anomalous" と "normal"(正常な)も語源的にまったく関係ない。

antarctic

「南極の」という形容詞や「南極」を表す名詞である。中英語に入ってくるまでは古フランス語、中世ラテン語、ラテン語と遡り、ギリシャ語 "antarktikós" に行き着く。これは "ant-" 接頭辞 + "arktikós" から成る。"ant-" 接頭辞は "anti-" と同じで、「反対の、非〜」という意味を加える。"arktikós" は「北」を意味しており、つまり "antarktikós" は「北の反対」ということで「南極」を意味するようになった。
ところでギリシャ語 "arktikós" は英語 "arctic" の語源だが、元々の意味は「おおぐま座」である。星座がある方角から「北」の意味に転じたのだろう。"arktikós" の元になった "árktos" は「熊」を意味し、印欧語根 "*rtko-"(熊)に遡る。同じ "*rtko-" からラテン語で「熊」を表す語は "ursus" となり、英語 "Ursa"(おおぐま座)の語源となっている。こちらには「北」のニュアンスは乗らなかったようだ。


今回はここまで。"an-" シリーズが濃くてなかなかページが進まないが、そろそろ抜けられそうだ。