英語語源辞典通読ノート A (advance-afraid)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp18からp22までの単語あたり。

advance

「推進する」とか「前進する」という動詞。中英語までは "avaunce" というように "d" は入っていなかったが、"a-" 接頭辞がラテン語の "ad-" 由来だと誤解され、16世紀に "d" が挿入された形で一般化したとのこと。こういうのはよく出てくる。
また、語源を中英語から古フランス語、俗ラテン語、ラテン語まで遡ると、"abante" (in front) という語に由来する。これは "ab-" 接頭辞(away)と "ante"  (before) から成る。"ante" は「午前」を意味する "A.M." ("Ante Meridiem") の "A" だ。原義は「後ろから離れる(結果的に前に進む)」という感じだろうか?

advent

「アドベントカレンダー」でおなじみ。「キリスト降臨」や「出現」を意味する名詞。この単語は "advance" とは語源的に全く関係ない。
中英語 "advent" から語源を遡り、ラテン語 "adventus" にたどり着く。これは "advenīre" (to arrive) の過去分詞形だ。"advenīre" は "ad-" 接頭辞と "venīre" (to come) から成り、"venīre" は印欧語根 "*gʷā-", "*gʷem-" に由来する。これらは英語 "come" の語源でもある。音も綴りも全然違うが、意味的には「来たるもの」ということで繋がっている。

advice, advise

現代英語では、"c" のほうが「助言」という名詞で、"s" のほうが「助言する」という動詞で使われているが、これは16世紀以降のようだ。
中英語では "avis" という形で "d" も入っていなかったが、14-16世紀にフランス語で "advis" という形に書かれたことがあり、それを英語にも取り入れて同じく "advis" になった。その後、15世紀には i が長母音であることを示すために "-e" 語尾(いわゆるマジック e)が追加されて "advise" になった。そしてさらに16世紀には名詞の場合は s が無声音であることを示すために c で綴られるようになり、今の "advice" という形ができあがったらしい。
動詞の "advise" も大元の俗ラテン語 "advīsu" までは同じなので、名詞と動詞で c, s が分かれたのは語源的なものではなく、英語に入ってきてから発音と綴りを一致させるためになされた工夫みたいなもののようだ。

affair

「行為、仕事」というような名詞。文脈によっては「浮気」という意味でも使われるらしい。語源を遡ると中英語 "afere" から古フランス語 "afaire" に遡る。これは古フランス語 "á faire" (to do) が縮まったもので、 "faire" はラテン語 "facere" (to do) に由来する。これは英語 "fact" の語源でもある。つまり、"affair" は "fair" とは語源的に全く関係ない。

afraid

「…を恐れて」というよく出てくる形容詞。まずこの単語の語源は、中英語 "affraie" の過去分詞形 "affraid" である。現在形の "affraie" のほうは、英語の古い動詞 "affray"(おびえさせる)の語源になっている。つまり「おびえさせられた」というのが元々の意味のようだ。
"affray"の語源を遡ると、俗ラテン語 "*exfridāre" が元になっている。これは "ex-" 接頭辞 (〜から離れて)と "*fridu" から成る。"afraid" の "a-" は "ex-" が変化したものだった。
さらに "*fridu" はゲルマン祖語 "*friþuz" (peace) 、印欧語根までいくと "*pri-" に由来し、これは英語 "free" の語源でもある。ちなみに"*friþuz" は ドイツ語 "Frieden"(平和)の語源でもある。原義は「平和から離された」という感じだろうか。

ちなみに "afraid" の語釈には同じ意味の "afeard" という単語との関連も書かれている。シェイクスピアは "afeard" を多用したらしいが、欽定訳聖書で "afraid" が常用されたことから、時代の流れの中で淘汰されたらしい。


今回はここまで。 一気に "af-" シリーズを読み切ったので、次は "ag-" シリーズの始まり。