英語語源辞典通読ノート A (aptitude-argent) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp60からp64まで。

aptitude, attitude

"aptitude"「傾向、性向」 と "attitude" 「姿勢、態度」が二重語である。
中英語 "aptitude" は後期ラテン語 "aptitudō" からの借入語である。
一方の現代英語 "attitude" はフランス語 "attitude" からの借入語であり、さらにイタリア語 "attitudine" からの借入語である。これは後期ラテン語 "aptitūdinem" に由来する。この "aptitūdinem" は "aptitudō" の所有格であり、イタリア語を経由した二重語ということになる。綴りが似ているなとは思っていたが、もともと同じだった。

aqua

中英語 "aqua" はラテン語 "aqua" からの借入語である。これは印欧語根 "*akʷa-"「水」 に由来する。"*akʷa-" は "island"「島」の語源でもあり、語頭の "i" の部分に対応する。"aqua" と "island" が同語源というのは考えたことがなかった。

arc, arch, arcane

"arc"「弧」と "arch"「アーチ、丸天井、虹」は二重語である。
"arc" はアングロフレンチ語 "arc, ark, arch" からの借入語で、古フランス語 "arc" に対応する。これはラテン語 "arcum"「弧」、そして印欧語根 "*arku-" に由来する。
一方の "arch" は古フランス語 "arche" からの借入語で、俗ラテン語 "*arca(m)" から発達しており、これもラテン語 "arcum" から派生している。よって "arc" と "arch" は借入の経路が違う二重語となる。

ところで "arcane"「不可解な、秘儀的な」という語があるが、これは綴りのイメージに反して "arc" と全く関係がない。ラテン語 "arca"「チェスト、棺桶」に由来する "arcānus" からの借入語だが、これは "ark"「(ノアの)箱舟」の語源である。"ark" はラテン語までは c で綴られていたが、英語に入ったあとで k で綴られるようになったらしい。

archive

カタカナでも「アーカイブ」でお馴染みの語だが、語源のイメージとはかなりかけ離れた意味になっているように思う。
この語はフランス語 "archives" の借入語で、これはラテン語 "archī(v)um"の借入語であり、これもギリシャ語 "arkheíon" の借入語である。"arkheíon" の意味は「公共施設、首席裁判官の住居」で、ギリシャ語 "arkhé"「原初、統治」から派生している。これは "arch-" 接頭辞、 "architect" などの語源でもある。
つまり、元々は国家の重要施設や場所を指しており、そこには文書や記録が保管されていた。そこから場所の意味が薄れて文書や記録そのものを指すようになってきているのだろう。

are², area, arena

この "are" は "you are" の方ではなく、「ヘクタール」でお馴染みの面積単位「アール」を意味する方である。この語は "area"「敷地」と同語源である、というかKDEEには書かれていないが二重語である。
"are" はフランス語 "are" からの借入語で、これはラテン語 "ārea" からの借入語である。そして "ārea" が英語に直接借入されたのが "area" である。ちなみに "ārea" の語源は不詳らしい。KDEEではラテン語 "ārēre"(乾燥させる)と関連させ、原義を「乾燥した土地」とする説を紹介している。

ちなみに、綴りが似ていて場所を表す "arena"「闘技場、アリーナ」の語源もおもしろい。これは "area" とは全く関係なく、ラテン語 "(h)arēna"「砂」からの借入語である。古代ローマの闘技場の中央に砂を敷いたことからこのような意味になったらしい。よく考えると日本語の「土俵」も同じ構造かもしれない。

argent, argue, argument, argon

この語からの広がりがすごい。"argent"「銀、銀色の」という語はあまり馴染みがないが、銀の元素記号 "Ag" の由来である。
語源を遡ると、中英語 "argent" は古フランス語 "argent"「銀、銀貨」の借入語である。またこれはラテン語 "argentum"「銀」の借入語である。そして "argentum"は印欧語根 "*arg-"「輝く、白い」に由来する。銀白の色合いに由来しているということだ。同じ "*arg-" に由来して、"argil"「陶土、白粘土」という語もある。語源を遡るとギリシャ語 "argós"「輝いている」から派生している。

ここまでは物質的な白い輝きでイメージしやすいが、それだけではなくまだ広がりがある。実は "argue"「議論する、非難する」も語源を遡るとラテン語 "arguere"「明確にする、示す」にたどり着き、そして印欧語根 "*arg-" に由来する。日本語でも「潔白、明白」というように「白」が登場するが、英語においても "arg-" 部分でそうなっているのがおもしろい。もちろん "argue" と同語源の "argument"「議論、論拠」も同じである。

という流れで期待を裏切ってくるのが "argon"「アルゴン」である。この語の語源にもギリシャ語 "argós" が登場するがこれは同音異義語で「働かない、不活性の」を意味する。アルゴンが希ガスであり他の元素と反応しにくいことに由来しており、銀とは全く無関係である。


今回はここまで。"ar-" シリーズが始まった。