英語語源辞典通読ノート A (apperil-apron)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp57からp59まで。

apperil

「危険」という意味だが、この語はすでに廃語らしい。KDEEの語釈がちょっと冷たくて面白かった。この語の "a-" 接頭辞には意味がないらしい。

当時, とくにSpenserなど技巧派の擬古主義作家は, 語源的根拠も付加的意味もなく a- をつけることをよく行った.

p57 apperil

apple

なぜこの語が「りんご」を意味するようになったのか語源ははっきりしないらしい。KDEEではイタリアの Campania 地方の街 Abella を "mālifera"(りんごを産する)と呼んだことに由来する説、ヒッタイト語 "samaluyunga" (りんご)との関係を想定する説もあるらしい。
"apple" は中英語まで果実一般を意味する語だった。古英語では「(りんごのように)丸いもの、瞳」という意味もあったらしい。よりいっそう現代英語で「りんご」の意味に収束したのが不思議だ。

appoint

元々の意味は「決定する」だったが、「定める、指定する」というような意味に転じている。語源はアングロフレンチ語 "appointer" からの借入で、古フランス語 "apointer"(手配する、準備する)に由来する。これは "à point"(to the point)が縮まったものだ。
KDEEによると、日本語の「アポイント(会合の時間や場所の指定)」の意味は、シェイクスピアの "Titus Andronicus" が初例らしい。
ちなみにフランス語 "appointer" は17世紀ごろから「給料を定める」という意味に転じたらしく、英語とはまったく意味が違っている。

appraise, appreciate, appreciation, apprise

まず、"appraise", "appreciate", "apprise" の3語は三重語である。それぞれの意味は "appraise"(評価する)、"apprise"(高く評価する、見積もる)、"appreciate"(高く評価する、感謝する)である。意味も近いが、そもそも同じ語源から異なる経路で英語に取り入れられた。
"appraise" /əˈprāz/ と"apprise" /əˈpraɪz/ の関係は単純で、どちらも古フランス語 "aprisier" から中英語に借入されるときに異なる綴りがそれぞれ定着した異形である。"aprisier" はラテン語 "appretiāre" に由来し、これが英語 "appreciate" の語源になる。
また、"appreciate" は "appreciation" からの逆成である。"appreciation" は古フランス語 "appréciation" からの借入で、ラテン語 "appretiāre" の過去分詞形 "appretiātus" に由来する。"appretiāre" は "ap-" 接頭辞 + "pretium" から成り、"pretium" は英語 "price" の語源でもある。
これはKDEEには書かれていないが、価値・評価から感謝への意味変化は日本語の「有難い」と重なる部分がありそうだ。

appropriate

もともとは「固有の」という意味だが今では「適切な」という意味で使われることが多そうだ。
語源は後期ラテン語 "appropriāre" の過去分詞形 "appropriātus" の借入で、"ap-" 接頭辞と "propriāre" から成る。"propriāre" は "proprius"(自身)から派生した語で、英語 "proper" の語源でもある。「固有のものにする」という意味から「適切に割り当てる」という意味に転じているように思われる。
"proprius" は "proper" の他にも "private" や "property" といった所有に関わる多くの語の語源になっており、重要な語根だ。

approach, approximate

実はこの2語は兄弟のような語だった。どちらの語源もラテン語 "prope" (近い)を出発点にして、その比較級 "propius" から派生した後期ラテン語 "appropiāre" であり、それがアングロフレンチ語を経由して英語 "approach"になった。一方、 "probe" の最上級 "proximus" から派生したラテン語 "approximāre"から借入されたのが英語 "approximate" である。動詞と形容詞の違いはあるものの、語源的にはほぼ同じ作りをしている。

April

「4月」を意味する語。意外にも語源は不詳らしい。KDEEの記述によれば一説としてはラテン語 "aperīre"(open)に由来し、「大地が開き、やわらぐ月」を原義とするのではないかということらしい。もう一つ、愛の女神に捧げられる月であったことからアフロディテ "Aphroditē" の短縮形 "Aphró" を由来とするという説もあるらしい。個人的には "aperīre" はやや遠いような気がする。

apron

"apron" と "napkin" が同語源というのは語源クリシェ。中英語までは "napron" で、フランス語 "naperon"(ナプキン)の借入語である。今の形は "a napron" から "an apron" に異分析されたことによる。


今回はここまで。"app-" シリーズが終わったので "ap-" はもう一息。