踊るように暮らす

前に生徒さんと「ふと見た自分に驚く」という話でひとしきり盛り上がった。

歩いていて窓に映っている自分をふと見る
練習していてふと鏡に目をやって自分の顔を見る

「見よう」と思って見るのではなく、「うっかり見てしまった」に近い感じで自分の姿を見た時に「うわ!老けたな!」とびっくりする。それはシワとかシミとかの状態もあるが、どちらかというと猫背だったり顔に緊張感がなかったり等の姿勢の問題が大きい。

私はそれを先日の舞台の練習動画で何度も味わった。

自分の「踊っている姿」というのは普段見ている。
ライブの配信は必ず見てチェックするから、とりあえず月2回は自分の踊っている姿は見ている計算だ。
だが、「踊っていない時の姿」はあまり見ることがない。
「後ろでパルマを叩いている時の姿」を私は「踊ってない時の姿」と認識して「なんだかウザいバタバタした人だなあ」とか思っていたのだが、舞台上に上がっているという時点で広義の意味では踊っている状態だったのである。

ところが、先日の舞台の練習時に撮りっぱなしにしていたビデオにはしっかりと本当の私の素の姿が写っていたのだ。
踊っている時でもない、アツく指導をしている時でもない、気合を入れてパルマを叩いている時でもない、「ちょっと誰かと雑談をしている時」「次の展開を考えながら軽くパルマを叩いている時」の、隙だらけの私は、ほぼ「老婆」と表現していいような首の位置、背中の具合であった。
うわっ、なにこれ、なにこれ!やばっ!

それで反省して、踊ってない時も「正しい姿勢で暮らしてみよう」と思った。

ところがそうすると、すぐに疲れるのである。
お腹をしめ、背中を立たせ、首を上げる。
これを30秒くらい続けると「やだあ、疲れてきたあ、猫と一緒に横たわりたい」という気持ちになるのだ。

踊っている時には正しい姿勢をしているだけでは「疲れてきた」とか思わないのに、普段の自分だと30秒ももたないのである。

ん???
ということは??

ずーっと踊っている状態でいればいいんじゃね?


ということで、実験として一日ずーっと踊って暮らしてみた。
正確には「脳内で音楽やコンパス(リズム)を再生しながら暮らしていた」であって、本当にズンドコズンドコ踊っていたわけではない。

「脳内で音楽をリピート再生できる」という能力を持つ人種がどのくらいいるかは不明だが(そこそこ音楽っぽいことをしている人は皆そうだと思っているが、他人の頭の中の話なのでわからない)、私はそもそもそういう「脳内お花畑で暮らしている系」の人間なので、特にそれ自体は難しい作業ではない。ポイントは「一日中」というところである。

外を歩いている時は、手に持った冷房よけのシャツをブンブン振り回し気味なくらいで、いい感じだったと思う。「なんかゴキゲンなおばさんだな」くらいではあったかもしれないが、二度見されたりはしなかったから、それほど周りに危機感も与えてないと思う。
家にいて料理をしている時などは、もう素晴らしいの一言である。サクサク進む。愉快に進む。
猫と一緒に横たわっている時だけは、踊るのをやめた。

で、どうだったかというと疲れなかった。
むしろ、普段より疲れなかったと言ってもいい。
機嫌も良かったと思うし、間違いなく姿勢はピッとして若々しかったと思う。

うわ!これすごいじゃん!これ世界中の人がやったらいいじゃん!!

ということで3日くらい踊り続けてみた。

踊っていると生活に困ることがある

そしたら分かったことなのだが、踊っていると「思考ができない」ということを発見した。
買い物しようと思っていたものを買い忘れる等の「うっかりミス」の連発
長い文章が読めない・書けない(ラインのスタンプとかは押せる)。

帳簿付けや、スタジオ片付けなどの「そこそこルーティン化」している仕事はサクサク進んでいくのだが、「思考」「思索」のような「頭を使うこと」は一切できないのである。

あとレッスンで後でパルマ叩いている時も、自分が「踊るモード」になっているとクラスの運営的なことも考えられないことが分かった。生徒さんのどこをなおしたら踊りが上手になるか的なことではなくて「上手いとか下手とかどーでもいいじゃん!もう踊っているってだけで素晴らしいことです!ラブアンドピース!」みたいな感想しか浮かばなくなるのである。

そうか。
そうだったか。

「機嫌はいいが、何も生み出さない人」
という「踊り手」とかいうフワフワした職業の本質的な問題点を指摘されたような結果になってしまった。

頭を使う時間がどれだけあるのか

しかし、だからといって諦めてはいけない。

そもそも私が「思索」などと言っても、大したことを考えているわけではない。「年末におさらい会をしようかなあ〜」程度の話である。
要はメリハリである。

レッスン(前後含め)時は考えることが多いから、踊らない。
文章を読む時も、踊らない(が脳内再生ではなくて、本物の音楽をかけるといいかもしれない)
人と話している時も、踊らない。
買い物はメモしてから行く(メモ作成しているときは、踊らない)
横たわっている時も、踊らない。

で、これ以外の時間を全て踊っている時間にスイッチできれば、かなり完璧な状態になるのではないだろうか。

正しい姿勢が保て、結果筋肉が衰えないこと。
副産物として機嫌が良くなること

いい割合を探すべくしばらく実験を重ねたいと思う。

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