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Vol.27「組み上げる」「芽を出す」「走り続ける」「やり切る」「囚われる」

優秀なプレイヤーとして活躍した後、マネジメントの職位へ。任されたチームをどのように運営していくのか? と向き合い続ける、細野さんに今回はお話を伺いました。現場の中間管理職としての活躍と、経営層としての決断など、リーダーとしての嬉しさも苦さも、数多くご経験された細野さんにお話を伺いました。

自分も入って【組み上げる】チームは、数多くの実験を進めて【芽を出す】案件に投資
細野さんが管理職になったのは、社会人になって15年ほど経過してからだったと話されます。現場で高いパフォーマンスを維持し続け、満を持してマネージャーとしてチームを任されたのです。しかし、細野さんはそこでテーゼを唱えます。
「明確な目標に向かって成果を出す、それが会社の信念でしたし、企業文化でした」
もちろん、明確な目標を達成していくことの喜びも多いものですが、ご自身が取り組まれていた企画系の職種では、目標と成果に一直線なやり方は馴染まないのではないか? そう考えたのだそうです。
「企画業務って、小さく実験してみてピボットするようなやり方のはずですが、会社は、『決めてやりきれ』一辺倒でした。しかし、自分たちの企画が正しくなければ、売ってくれる営業マンにも甚大な影響が出る。時代の変化も激しいですから『決めてやりきれ』は難しい」

そこで細野さんは、新しい面白い企画を創出するため評価制度やマネジメントのあり方を、自分なりにゼロから「組み上げる」ことにします。

「スポーツでたとえるなら、サッカーチームです。1人1人がフィールドで判断し、自分から動いてゴールを決めるイメージです。自分自身も、マネージャー兼プレイヤーで、ボールを蹴りにいく。上も下もない感じで、常にコミュニケーションしていく」

細野さんは、事前に見立ててやり抜く会社のスタイルから一変、小さな実証を数多く実施し、実験結果を組み上げていくチーム運営に取り組み始め、1年間で100億円の売上という驚異的な数字を叩き出すことに成功します。

「チーム7名、話し合いながら、全員で小さく実験をして、うまくいったら大きくするというのを続けました。ものすごい実験の数を走らせて、うまくいったものだけを起案するというやり方です」
芽を出して育てられそうな案件に投資をし、大きくするという手法が実を結んだのです。

わからないからこそ、チームで実験し【走り続ける】ーそして「芽を出す」

会社の信念とは大きく違う手法で、企画の成果を出そうと奮闘する細野さん。評価も手法も思考も、会社の意向とは全く違うチーム運営の配下にいるメンバーは当初戸惑ったのではないでしょうか?

「メンバーは半信半疑でした。これまでのやり方を踏襲しようとするメンバーもいるし、本当にこの方法で成功するんでしょうか?と尋ねられたこともあります。本来のやり方で、決めてやりきらなくて、私達評価されるんですか本当に?といった声も。とにかく不安ですよね」

細野さんのチーム運営は、チームメンバーの皆さんも当初は不安だらけだったことが伺えます。

「僕も不安でした。今までやったことがないやり方をしている。しかし、どんなに考えても、直感的に今までのやり方では成果が出ない確信がある。成果が出るとしたら、このやり方だという確信はあった。これで駄目だったら、もう全部駄目だと思っていました。僕は迷わずやれたし、メンバーも半信半疑ながらついてきてくれたっていう時期が、最初の半年間ぐらいでした」
もちろん、これでやるという強い思いで推進されている細野さんでしたが、会社の方針とは、ほぼ真逆の方針を突き進めるには、ご本人の並々ならぬ想いがあってのことだったことが伺えます。

ところで、半信半疑のチームメンバーを率い、新しい取り組みを進められる中で、細野さんが気をつけたことはあったのでしょうか?

「気をつけたことは、『細野さん、これでよろしいですか?』って聞いてくるんですよ、みんな。不安だから。そこで、『僕は分からない』ってずっと言い続けました。実験結果を持ってきて、とだけ伝え続けました。判断をするとしたら、その結果で判断するしかないのだから、と」

実験する前に、上長に確認したいメンバーの方も多くいた中で、始める前からいいかどうかは分からない、というメッセージを貫いたそうです。すると、メンバーにも変化が出始めたと話されます。

「だんだんとみんなも、聞いてもわからないと言われてしまったので、分からないからやるしかないか・・みたいな感じです。みんなが実験をし、その結果に対して、本当に素直にすっげえなとか、全然うまくいかないなとか言って笑ったり、すごくうまくいったねって喜んだり。本当に何の演技なく、フィールドの上で、みんなの実験と実験結果を共有し、いいねいいねってものにリソースを寄せていくことを続けました」

管理職である以上、上司からのプレッシャーもあったはずですが、細野さんはそこでも信念を貫きます。
「中長期にどうありたいか、どうあるべきかの姿を描いて提出せよって言われるんですが、ずっと断っていました。今、実験してるんで、実験結果が出たら必ず行きますから、ちょっと待っていてくださいと言い続ける。ついつい、パワーポイントでかっこつけて、我々の中長期計画はこんな感じで、数字はこのぐらいと出したくなるのを諦めて、本当にいろいろと、今、実験をやっているから、待っていてくださいって。半年間、本当に息を止めて走る感じでした」

息を止めて走った結果は素晴らしいものでした。成果が100億円単位で出始め、1回に30億円くらいの売上が連続で上がる。そんなことが起きたそうです。メンバーも自信をつけ、社内で奇跡のチームと呼ばれるまでに成長されたそうです。

「1人1人はね、実験して駄目だったら、残念ながら駄目なんです。ですが、チームでみんながたくさんの実験をやることによって、1個でも当たりが出たら、チームとしての成果になる。その考え方が、もうチームの文化としても根付いている状態でした。もちろん、1人1人は自分が成果を出したいはずです。負けず嫌いな気持ちも持ちながら、その自分のエゴより、チーム全体で成果が出ることを優先するといった空気も生まれました。チーム発足から1年後の姿としては、すごく嬉しい状態でした。頑張って戦ったかいもあります」

本当に嬉しそうに細野さんがお話しされていたのが印象的でした。しかし、大きな会社への貢献を認められ、細野さんは同社で短期間で役員・経営層へ。マネジメントする対象が株主や事業自体になり、実験をしていた現場とは違うことが求められ続けることに違和感を覚え、長年勤めた会社を退社されました。

細野さんは、ご自身が発明した、小さな実験を繰り返すマネジメントが活かせる場を求め、ベンチャー企業の経営に飛び込みます。

COOとして入ったベンチャーで【やり切る】と再び対峙して見えたこと

ご自身がサービスのヘビーユーザーであったベンチャー企業の株式会社nana musicに、ユーザー代表ともいえる形でCOOとして入社された細野さん。ところが、入社直後から、苦難が待ち受けていました。
「自分としては、前職で発明したマネジメントがやれるっていう自信もあって。いよいよその形でやるぞと思って入社したら、まさかのめちゃくちゃ赤字企業でした。とにかく、早急に黒字化しない限り、この事業自体がなくなってしまう。あれ、あと数ヶ月で、消えるってこと・・・という状態の会社でした」
満を持して、ご自身の発明した実験型のマネジメントを実施しようにも、会社が瀕死の状態だったのです。

細野さんは、苦渋の決断を強いられます。
「実験なんかしている暇はない」
これが、細野さんが出した結論でした。眼前に広がる経営状態と対峙し、ご自身が前職で嫌っていた、やり切るマネジメントをせざるを得ないと判断し、問答無用でやり切らせるマネジメントに舵を切ります。
「やりきらないと死んじゃうから、みたいなことをやり出すわけですよ。でも、やっぱり当たらないわけですよ、そんな簡単に。難しいですよね。自分が発明し、成功した、実験的なマネジメントであれば、10個ぐらい実験が走っていて、10個中、1個でもうまくいった案件を伸ばすやり方でした。一方、瀕死のベンチャーでは、一発かつ百発百中しないともう無理というくらい余裕がありませんでした」

このような状況で、できることを片っ端から進めていくうちに、社内の雰囲気もみるみる悪くなっていく。鳴物入りで入社し、自身の真骨頂である実験型のマネジメントを封印し、会社を救うために奔走し続けました。

「メンバーからの信頼も落ち、株主からも白い目でみられ、立場的にも苦しくなりました。メンバーにも強権的に、いいから言うこと聞け、やれ、という状態です。メンバーの自主性とか創造性を全然生かすことができず、やらざるを得なかった、そんな経験です」

圧倒的なマネジメントの成功体験を持っていたにも関わらず、会社を救うためには強権を発動せざるを得ず、やりたくないマネジメントのスタイルを通し続ける。マネジメントのジレンマに苦しまれ、会社も大混乱の数年だったそうです。

しかし、経営をしていれば、このような瀕死の事態を切り抜けねばならないのも事実です。

「もう1度、あのベンチャーの状態に戻ったら、多分同じことをします。いやぁ、当時の状況を考えたら、強権発動をせざるを得なかったと思います。ふわふわやっていたら、多分、会社が潰れていました。事業を、会社を残すという意味では正しかった気がします」

細野さんの奮闘もあり、このベンチャーは黒字化、経営再建がなされました。経営層として、本当にやらねばならない時に、どのような対応をするのか? 自分が本来したいことと、会社のために経営判断として実践することは、時として異なるかもしれません。それでも、経営を続けるために何をすべきか? この問いかけの大切さを、改めて感じるお話しでした。

組織・事業運営のあり方について【囚われ】てはいないだろうか?

さて、実験型も強権型のマネジメントも経験された細野さんですが、最後にこのような問いをくださいました。細野さんが入社された株式会社nana musicは、コミュニティ的なサービスを提供される会社だったそうです。細野さんは、会社が提供するサービスと会社のあり方について、思い込みがあった、と振り返ってくださいました。
「コミュニティ的なサービスを扱う会社は、コミュニティ的に運営しなきゃいけないという思い込みがあったんです。だって、コミュニティ的なサービスを提供しているのに、自分たちがトップダウンで運営するなんて、美学に反すると感じました。しかし、一連の経営立て直しの経験を通じ、そんな(サービスと会社のあり方のリンク)のは、関係がないと思い直しました。会社のフェーズに応じ、どういうマネジメントでやらなきゃいけないかが決まるんだと」

コミュニティのサービスなのだから、自分たちもそんなコミュニティを意識した運営をするべきだ。そう思い込んでしまうこともあるでしょう。それに、そのほうが美しく見える。しかし、このお話は、そのようなコミュニティを運営するために、会社として何をするのかは問い続けていかねばならない、という視点ですね。コミュニティがなくならないために、より素敵なコミュニティになるために、会社の経営層が本来の目的を見据えた上で、マネジメントのスタイルに囚われすぎないことが大事、という大変考えさせられる視点をいただきました。

今回は、組織を成長させる経験と、組織を立て直すご経験をされる中で、全く異なるマネジメントをされてきた細野さんにお話を伺いました。
経営に近くなればなるほど、どのように状況に対して舵を切るのか。という問いと向き合う必要があるのだな、と改めて考えさせられますね。
私たちが日々対峙するチーム運営は、事業の状態や出したい成果によって、その手法も向き合い方も変わるということを、しっかりと胸に刻んだお話しを伺うことができました。

【取材協力】
一般社団法人Fukusen 代表理事
細野 真悟様
https://fukusen.org/

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