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GID(性同一性障害)学会 第24回研究大会で感じたXジェンダー向けのジェンダーアイデンティティ医療のこれから

現在、自分のジェンダーアイデンティティに関する困難を感じて医療へアクセスする際には、その分野に詳しい精神科医のいる医療機関、いわゆるジェンダークリニックを訪問するケースが多いです。
このようにジェンダークリニックを訪問する人々としては、いわゆるFtMやMtFといったバイナリーなトランスジェンダーだけでなく、非二元的なジェンダーアイデンティティをもつXジェンダーやノンバイナリージェンダーの人々も含まれます。

ジェンダークリニックで医師の診療を受け、例えば何かしらの身体的治療を受けるためには、現在では「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」(以下"ガイドライン")に従って診断と治療を受けることになるケースが考えられます。
このガイドラインは元々、上述したバイナリーなトランスジェンダー(FtMやMtF)を想定して作られたものです。
従ってこのガイドラインには「反対の性別に対する強く持続的な同一感」という記載があるのですが、この記載はXジェンダーには当てはまらないものです。
それでは、ジェンダークリニックではXジェンダーはどのように診療を受けることになるのでしょうか?
その実情が今回のGID学会で垣間見ることができたので、本記事にて皆さまに共有したいと思います。

ジェンダークリニックでのXジェンダーへの対応

結論として、今回のGID学会にて演題を聞いている限りでは、「反対の性別に対する強く持続的な同一感」を持つわけではないXジェンダーの苦しみを、医師たちは真摯に聞き取り、患者の要望に応える形で現場は対応してくれているようです。
演題では多くのXジェンダーがジェンダークリニックを訪れているデータが提示されていました。
「Xジェンダーに対してどのような対応をとっているのか?」といった質疑応答においても「Xジェンダーかもしれないという主張に対しては精神科医として否定することはなく、理解するために話を聞く」といったやり取りがありました。

筆者のジェンダークリニックおける経験も同様で、Xジェンダーとして診療を受けることができました。
もちろん何事にも例外はありますが、現状においては比較的広くXジェンダーの性別違和に寄り添うような対応がとられている可能性が高い傾向がありそうです。

Xジェンダーがジェンダークリニックで受け入れられにくかったこれまで

これまでXジェンダーがジェンダークリニックを受診しても、バイナリーなトランスジェンダーではないため診療を受けられなかったり、バイナリーなトランスジェンダーのフリをして診療を受けざるを得なかったことがありました。

また医師からの理解が得られないことによって、Xジェンダーだったかもしれないにも関わらず、バイナリーなトランスジェンダーとして性別移行してしまうリスクも考えられます。
その原因はジェンダークリニックを受診するXジェンダーが少なかったことや、ガイドラインがXジェンダーを想定して作られていなかったことが考えられます。

XジェンダーがXジェンダーとして診療を受けらることになった背景

XジェンダーがXジェンダーとしてジェンダークリニックで診療を受けられるようになった背景はどのようなものがあるでしょうか。
1つは、ジェンダークリニックを受診する人々にXジェンダーが増えている面があると考えられます。
他には、海外での同様の状況を踏まえ、WHOが作成したICD-11(国際疾病分類 第11版)や、アメリカでつくられたDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)の影響が考えられます。

ICD-11は2022年から運用開始され、その中でGender Identity DisorderすなわちGID(性同一性障害)は、Gender Incongruence(性別不合)という名称に変わり(仮訳)、分類も「精神疾患」から「性の健康に関する状態群」へと変わりました。
「性の健康に関する状態群」とはもう少し具体的には「妊娠」といった、病気ではないが医療の助けが必要な状態の分類という考え方であると言われています。
さて、性同一性障害の診断基準では「反対の性別に対する強く持続的な同一感」が含まれていました。
ICD-11において、この点はどのように記述されているのでしょうか。

性別不合での該当する記述としては「体験されたジェンダーの人として扱われたい(生きたい、受け入れられたい)という強い欲求」という旨の内容があり、性同一性障害と違い「反対の性別」という記述はありません。
「体験されたジェンダー」とはexperienced genderの日本語訳です。
これは、しっくりくる性と理解してもいいかもしれません。
つまりICD-11に基づいたジェンダーアイデンティティ医療(以下"GI医療")は、性別二元的および性別非二元的なジェンダーアイデンティティを持つ両方の人々へ対応できるものであるということになります。
現在でも性同一性障害という言葉が正式に使われている日本のGI医療において、ジェンダークリニックの現場ではXジェンダーが受け入れられているのは、このICD-11の影響が一定程度あるのではないかと考えられます。
(しかしながら、このexperienced genderという言葉では、ジェンダーをアイデンティティとしていない人が含まれる「無性(agender)」が説明できていないため、まだ課題の残る言葉かもしれません。)

日本におけるGI医療の診断基準のこれから

今回のGID学会においては、現在のGI医療の基準となっている「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」は今後、WHOが作成したICD-11(国際疾病分類第11版)に準じて改定される様子が感じられました。

ICD-11の日本語訳は2023年中に発刊される予定とのことなので、ようやく日本からもバイナリーな性同一性障害という言葉の役目が終えられることとなりそうです。
そして名実ともにXジェンダーやノンバイナリーも想定された医療体制ができあがるとことになると考えられます。
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https://ftxmtx-x-gender.com/

文責:Kazuki Fujiwara

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