見出し画像

性の多様性の可視化@東京トランスマーチ2022

2022/11/12、Transgender Japann主催の東京トランスマーチ2022が新宿中央公園で開催された。Xジェンダーの当事者団体であるlabel Xはそこでブースを出展し、アンケートを通して多様な性の可視化に取り組んだので、その内容を紹介する。

現在の日本においては、人間が男性か女性の2つの性のいずれかに区分され、それ以外はないという考え方、いわゆる男女二元論が一般的な考え方として受け入れられている。

しかし、Xジェンダーの人々は男性、女性のいずれの枠にもしっくりおさまらないことから、様々な葛藤を抱えて生きている人が多い。そもそも男女二元論ではない視点を周囲の人に理解してもらうことが一苦労なのだ。

そこで今回label Xのブースでは、男女二元論よりも広くて多様な実際の性の在り方を多くの方々と共有するため、性の多様性の可視化に取り組むことにした。

シール式ジェンダーアイデンティティアンケート

様々な性のうち、Xジェンダーが重視するジェンダーアイデンティティについて、シール式アンケートを行った。用意したのは下のホワイトボードと丸シールである。

シール式ジェンダーアイデンティティアンケート(最初の状態)

中央の横軸は、「男(male)」と「女(female)」を両極に置き、それらを結んだ軸上に「中性」などが存在するという考え方を表している。また、縦軸としてジェンダー有無の軸があり、下端に「無(agender)」を置いている。参加者には、自分のジェンダーアイデンティティの位置づけとして相応しいと感じる位置に、好きな色のシールを貼ってもらった。

このアンケートは朝から夕方まで計351人もの方に参加して頂き、最後にはこのような状態になった。

シール式ジェンダーアイデンティティアンケート(最後の状態)

当初は「男」「女」の両極に比較的多くのシールが貼られることを予想していた。しかし結果としては「男」「女」だけでなく「無」を含めて全体的にシールが貼られ、ジェンダーアイデンティティの多様性を端的に示す結果となった。

中には自分のジェンダーアイデンティティが枠の中に位置づけられないという意思表示のために上部の枠外に貼る例や、1枚のシールを半分に割って別々の位置に貼る例もあった。

面白かったのは、何人もの人がこのボードの前で立ち止まり、興味深く観察していたことだ。写真を撮影する人もたくさんいた。普段は概念としてしか語られない「多様性」が、ライブ感覚でこれほどリアルに可視化され、また多くの人とその感触を共有できたことは非常に意味があることだと思う。

なお、今回は男女軸の上側に余白があり、その領域の意味付けができていなかったことが反省点である。「男」「女」「無」の三角形がホワイトボードの中央に来る形がより適切だと思われるので、次回はそのあたりを工夫したい。

記入式SOGIESCアンケート

SOGIESCという言葉を御存知だろうか。これはSexual Orientation(性的指向)、Gender Identity(性自認)、Gender Expression(性表現)、Sex Characteristics(身体的性)の頭文字を組合せた言葉で、これら4つの視点から包括的に性をとらえた言葉である。

label Xでは以下のSOGIESCアンケートを用意し、当日計72人に回答して頂いた。

記入式SOGIESCアンケート用紙

このアンケートの最大の目的は、それぞれの人に自分自身の性について改めて考えてもらうことである。従って記入したアンケート用紙は回答者に持ち帰ってもらったが、同意の上で回答内容を撮影して画像データとして保存したので、回答結果をご紹介したい。

身体の性別は?

これはSex Characteristics、つまり身体的特徴としての性別の質問である。全回答結果をトレースしたものを以下に示す。点や小さな丸で回答した人は濃いめの半透明の小さな丸として表現し、領域で回答した人は薄めの半透明の領域として表現している。

「身体の性別は?」の回答結果

男性あるいは女性の両極に印をつけた人が多かったが、男女軸の中間領域に印をつけた人も予想以上にいた。また、軸から外れたところに印をつける人や広い領域で表現する人もいた。

なお、この質問に関して一部不愉快に感じた方もいたようである。身体的性を質問されることそのものに抵抗を感じる方への配慮が足りなかったことについて、この場でお詫び申し上げたい。

ジェンダー・アイデンティティは?

これはそのままGender Identity、つまり自分の性別の認識についての質問である。当然身体的性に一致する場合もあれば一致しない場合もある。結果は以下のようになった。

「ジェンダー・アイデンティティは?」の回答結果

身体的性と比較すると、男女両極に印をつけた人が減り、より広範囲に分布が広がっていることがわかる。領域で表現する人も増え、中にはジェンダーが流動的であることをうねった線で表現する人もいた。男女軸から離れた上部に印をつけた人は、ジェンダーという枠組みの中に自分を位置づけることが難しいと感じているのかもしれない。

全体としてはシール式アンケートと同様の結果であったが、シール式よりは重複が多い。シール式アンケートでは、他のシールを隠してしまうのは良くないから少しずらして貼ろうという心理が働いたものと思われる。

性表現は?

これはGender Expression、つまり外観や言葉遣い等による表現スタイルについての質問である。ジェンダーアイデンティティは自分の意志によって変えられないが、性表現は自分の意志で決めることができる。結果は以下のようになった。

「性表現は?」の回答結果

男女軸の中間領域に印をつけた人が、ジェンダーアイデンティティの回答結果よりもさらに多くなった。いわゆるユニセックスなファッションが世の中に浸透し、言葉遣いの性差も時代とともに小さくなっていっていることが大いに影響していると思われる。

個人的には身体的性やジェンダーに関係なく、誰でも自分の好きな性表現をしていいと思う。それが自然に受け入れられる世の中であってほしい。

恋愛対象は?

これはSexual Orientation、つまりどのような対象に恋愛(や性愛)を感じるかという性的指向についての質問である。性的指向はジェンダーアイデンティティによって決まるわけではなく、両者は別物である。結果は以下のようになった。

「恋愛対象は?」の回答結果

全体が濃い。広い領域で表現した人が多いのだ。つまり恋愛対象の性別にはあまりこだわりがないという人が多かったと言える。もしくは本当に好きになったら性別など関係ない、ということなのかもしれない。

一方でピンポイントで「無」の位置に印をつける人も多かった。そもそも恋愛感情を感じないという層が一定数いることがうかがえる。

終わりに

label Xは東京トランスマーチ2022において、シール式アンケートによりジェンダーアイデンティティの可視化を試みた。またそれ以外の性についても記入式SOGIESCアンケートを行い、集計結果を本記事上で公開した。いずれのアンケートでも予想を上回る性の多様性が示された。

label Xでは今回のようなアンケートを今後も行い、男女二元論では説明のつかないその結果を、たくさんの人に素直に見てもらいたいと考えている。
そこにある驚きが、きっと少しずつでも世の中の認識を変えていくことになるだろうから。


記事が気に入ったら、下部のハートマーク(スキ)を押して頂けると執筆の励みになります!

記事執筆者:やすよ

この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?