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「社会が変わっていくきっかけを作っていくこと」 萩谷海さんの目指す働き方

外出自粛によるリモートワークや在宅ワークが浸透してきている中で、あなたはこれからどんな働き方をしていきたいですか。

コロナウィルスの影響で不要不急の外出が自粛され、企業は在宅での仕事を推奨したり自営業の方はオンラインでもできることを考えたりと、今まで予想さえできなかったことが立て続いておきています。

今後の働き方に対して私たちはどう捉えるべきかを掘り下げて考えてもらうために、Lancersが企画する「新しい働き方」をテーマにした取材をしてきました。

海外での長期滞在の経験があり、社会問題に対してさまざまな取り組みをされてきた萩谷海さんに、自身の目指す働き方についての取材をさせてもらいました。

萩谷さんの働き方や仕事に対する価値観を紹介させていただきます。

【 萩谷海さんのプロフィール 】
・東京生まれ横浜育ち
・11年間アメリカで滞在する中で社会学や女性ジェンダー学を学ぶ
・現地では、官公庁やNPO法人の職員、大学生が米国のワークショップに参加し
・ホームレスや貧困問題などの社会的なプログラムに携わる。
・帰国後に北海道で、通訳アテンドや翻訳者、障がい者介助者として働きつつ
・アートシーンを活性化させる組織の運営など幅広く携わっている

【 日本から東南アジアへ、アートシーンの活性化 】

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ーー 現在活動中のアーティスト・イン・レジデンスに関わったきっかけは?

今住んでいる北海道の伝統的な文化だけでなく、繋がりのある東南アジアのアートシーンや現地のコミュニティを活性化させたい。地方のアーティストにもチャンスを与えたいという思いがあったので参加しました。

ーー どんな思いを持って活動していますか?

現地のアートシーンがより発展するために何ができるかを考えています。

個人のアーティストの募集はしていないので、現地に根付いている団体と話し合って滞在制作を企画しています。プログラムに参加することでその人の作品に新しい展開があるかに着目しています。

この現代を生きている私たちが実際に何をしているのか、それをどう発信したいか北海道に住んでいる人たちにも各々の物語があるので、「私たちが今生きている経験をどう活かしていくか」が大事だと考え活動しています。

【ヘルパーという働き方 「介助」とは】

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ーー 障がい者介助という働き方をはじめようとしたきっかけは何ですか

幼少期から身体が不自由な人に触れ合う機会があり、社会に出た後に障がい者介助について考えるきっかけをもらう人と出会ったことです。

私の叔母が小児マヒ、おばがダウン症であり、小さい頃から共に過ごしてきたので、障がい者の方には○○をすべきという概念はなく、その頃から社会変革に興味を持つようになりました。

生活の中で叔母と触れ合ってきたので、その人のニーズも肌で感じていました。それは生活の不便や免疫力の問題だけでなく、ベートヴェンの曲をずっと聞いていたいなどの感情的な部分などさまざまありました。

そういう経験があった中で、アメリカから帰国した後、今働いている自立センターの代表と出会いました。

その方も同じく脳性マヒを持ちながらも、障がい者当事者運動を続けてきた方です。事業活動の話を聞く中で、障がい者介助のヘルパーの仕事に就くためには、3週間の実地研修を受ける必要があり、介護職員初任者研修の資格を取りました。資格を取るための知識と、実際の現場での体験では違いがありました。 

コロナウィルスが蔓延する中で、職場で感染が重症化すると危険です。一人の介助者に対して複数人がつく現場なので、札幌市役所にかけあってどうすれば自宅で安全に介助できるかなどの要望書をこの2カ月は作成していました。

私たちの生活ですら答えがない中で、仕事は時に手探りで進めることもあります。日常生活の延長線上にある仕事なので、解決に時間はかかることもありますが、私は新しい働き方だなと思えます。

ーー 人の命を預かる仕事をする中で、抱える問題は何ですか

「自分ではない他人のことを、自分ごとのように考えることができるか」です。

自分一人で生活することが困難である人に対してその人がしたいことを、言葉やコミュニケーションをとり意見を汲み取ることができるか。身の回りのことだけでなく、相手の気持ちも含めて。

外出が自粛されている今でも、人それぞれの自粛の意味合いが違うように、相手の立場に立って、その時々でどう考えるかを意識しています。

今の課題は、自分の働き方・社会の働き方を考えたときに隣にいる人や、自分の欲求を見つめて働きかけることができるか、自分を大切にできるか。それについて考えながら過ごしています。

【翻訳・通訳者としての働き方】

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ーー 翻訳について意識していることは何ですか?

「相手の意図を汲み取って再現する」ことに重きを置いています。

仮にTOEIC満点を持っていても、正確にはそれは英語力ではないと思っています。翻訳や通訳をなぜするのか。それは「受取手の行動を促す」ためのツールです。

近年出てきた機械翻訳の精度は、とても素晴らしいです。文の一つ一つや、文法も忠実な再現が安価に可能になりました。

年々精度が上がるので「仕事がなくならないかな?」という不安は常に隣り合わせです。ただ生身の人間が機械より勝っているのは、文章をまるごと読んで理解している点です。

例えば、洋画の字幕では、いつも8秒程度で読ませるために意訳がされています。視聴者が感じたい体験やアドベンチャーを理解した上の工夫です。

翻訳者の中には、時には訳す文章の意味を読み込めていなかったりその事柄に対して情熱がない人もいます。それも仕方のないことで、その人に合った仕事をすることが良いのかなと思います。

英語は今やありふれた言語で、私よりできる人はごまんといます。ある同業者に「語学力が十分の一しかない人からも、通訳や翻訳の間違いは見えてしまう」と教わりました。

実際に、英語が全く話せない読み手や聴衆から、間違いを指摘されたりすることもあります。その指摘を真摯に受け止めるということはもちろんですが、自分の強さも同時に知らなければいけません。自分には英語を使ってリサーチや推敲ができ、クライアントと走り回る体力もあります。

国際大会でバイアスロン競技の通訳をしました。冬限定の競技ですので、強豪国の多くにとって、母語が英語ではありませんでした。

各国の監督がスマートフォンで自分の言いたいことを言えるまで待っていては、競技ができないので、身振り手振りも使って会議を進行させていきました。スポーツには疎くても、銃社会や多民族国家のアメリカに暮らした経験は、コミュニケーションの上で役に立ったと思います。

日本では競技人口の少ないスポーツですから、監督たちと道具を担いで雪の中を走り回って、観覧者に見やすいように工夫したりしました。大会が終わる頃には、バイアスロンを大好きになりました。

大切なことは、クライアントの掲げたゴールに向かって通訳・翻訳していくことです。

その中で、何を訳せば良いかのアイデアを生み出せたり、人の役に立ちそうな部分はどこなのかの「目利き」であることが、質の高い翻訳者・通訳者だと思っています。

ーー 最後にこの記事を見ている人にメッセージをお願いします

「好きなことを仕事にするには、自分のしてきた体験をいかに大事にできるか」が重要。

あなた自身がクライアントから感謝され、お金をいただける人になるために
暇な時間や退屈な時間の過ごし方などにも着目してみることも必要。自分の生活の中のあらゆる体験が仕事に活かすことができます。

コロナで通訳の仕事は大幅に減ってしまいました。その中で、自分が昔不登校をしていて、沢山時間ができたときに何をしていたのかを思い出しました。

今の子どもたちに、インターネットがなかったら?もしお金が沢山あってビジネスも成功していた人がすべてを失ったら?

これからの世界を少しでも想像するために、自分のなかに眠って体験を掘り起こしながら、誰かに頼まれたわけでもないのに、調べたものを翻訳しています。

障がい者介助であれ、翻訳・通訳であれ、手数を増やしながら、少しでも「社会が変わっていくきっかけ」を作りたいなと考えています。

さまざまな職種や案件があるクラウドソーシングの中で、取り組みたい仕事がすぐに自分の案件に繋がらなかったとしても、情報収集をし続けることでチャンスを掴んでいくことができるので、自身の経験を強みに「行動に移していくこと」が大切だと思います。

【まとめ】

自分が携わりたい社会問題に対して、自身の経験を活かして、新しい働き方を見出している萩谷さん。

自分がやっていきたいことを深掘りし、社会が求めていることに対しての深掘りをし続け、幅広く活躍されています。

社会問題や海外の記事を翻訳されているnoteも公開されているので、どんな活動をされているのかも含め、ぜひご覧ください。

<萩谷海さん note>

<記事1:コロナ禍のNYで、高級レストラン料理長は、自分の店を閉じ、看護師や警官向けのコミュニティ・キッチンに変えた。>

<記事2:私はインターネットの届かないアメリカの田舎に住んでいる。パンデミックは私をかつてないほど孤立させた。>

<執筆:檜原 大河>

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