「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第26話〜Z様宅〜
本日のお客様はZ様。
Z様のご依頼内容は……
関わったお仕事の中で、一番重たいと思った内容でした。
「死の準備をしたい」
お電話いただいた時のZ様のお声はガサガサで。
大病を患い、家で在宅看護を受けているとのことでした。
「呼吸補助器を使っていて、喋るのもキツイ」
そうおっしゃるので、直接伺ってお話を伺うことに。
Z様のご自宅は、とある駅前のビルの最上階。
ご自分の持ちビルらしく、他の階は店舗や事務所に貸し出していらっしゃいました。
ビルの入り口でZ様のお部屋を呼び出すと、秘書の方が出て3つの秘密の番号を教えてくださいました。
1つ目は、マンションのオートロック解除番号。
2つ目は、エレベーターの番号。
エレベーターに乗り、秘密の番号を押さないと最上階に上がらない仕組みになっていました。
そして3つ目が、Z様のお宅に入る前の、アイアン扉の解除番号でした。
(セキリュティがスゴイ!)
そう思いつつインターフォンを鳴らすと、秘書の方が出ていらして名刺交換。
Z様は休まれているそうで、看護師さんや介護の方にご挨拶をした後、秘書の方より今回のご依頼内容をお聞きしました。
「実は、普段クリーニングを依頼しているお掃除業者はいるのですが、S様から『生前整理をするなら最適な方がいる』とご紹介を受けまして」
「S様のご紹介だったのですね!お呼びいただきありがとうございます。」
「それで、整理と言っても…Zのお子さん達に関しての整理もしていただきたくて……」
秘書の方によると、Z様は2人のお子さんがいらっしゃって、財産分けや事業の後継者について迷われているそうです。
(お金を持っている方に多い悩みね)
「Zは…自宅の整理だけではなく、事業の整理というかお子さん達に何を継がせばいいのか?なども相談したいそうです」
「私に…ですか?そういうのは士業の専門家の方がいいのでは?」
「S様より、あなたは分け隔てなく接する、見る目のある方だと伺いました。最終的に決定するのはZですが、お子さん達の適正を見てほしいそうです」
「それは…思ってもみなかったことなので、正直、私が引き受けて良いのかどうかわかりません。Z様に直接お話を伺ってもよろしいですか?」
「かしこまりました」
Z様が目を覚ました時に、ベットのそばでお話をさせていただきました。
声を出すのが厳しいZ様は、タブレット入力の筆談でやりとり。
その内容はプライベートなことなので伏せますが、
繰り返しておっしゃるのは、私に「お子さん2人の適正を見てほしい」とのこと。
(こんなにお願いされたら、引き受けるしかないよね)
「承知しました。それではお子さんそれぞれとお会いする機会を作っていただけますか?私にできる最善を尽くします」
こうして私は家の中だけでなく、Z様の事業や財産の整理にも関わることになりました。実際の手続きなど実務的なものは専門家の方に依頼をするので、メインはお子さん達のこと。
一人はZ様の会社で役員を務めるZ-1さん。
もう一人は、自分で起業しているZ-2さん。
忙しいお子さん達と何度もお会いして、お話を重ねました。
Z-1さんは事業を海外にも拡大する方向で考える、野心家の印象を受けました。
それに対してZ-2さんは、事業規模は小さくても、お客様とのやりとりをしっかりしていきたいとのお考え。
対照的なお二人のお話を伺って、Z様に事業の割り振りをご提案したら……
「私と同意見だ。その通りにしよう」
とのお返事をいただき、弁護士に依頼して遺言書を作成していらっしゃいました。
「これで心置きなく逝ける」
そうおっしゃって声なく笑うZ様。
その姿が、私が生きているZ様にお会いした最後となりました。
Z様の社葬には、私もS様と一緒に参列しました。
「あなたに依頼して良かったと、Zさんからお礼のメールを受け取ったよ。大変だと思ったけど、引き受けてくれてありがとう」
「最初にお話を伺った時は驚きましたが、Z様とS様のご期待に添えることができたようで安心しました」
会場で喪主としてご挨拶するZ-1さんと、受付で参列者にご挨拶しているZ-2さんにも会釈をして、会場を後にしました。
ご自宅の生前整理のご依頼はこれまでもありましたが、事業の整理は初めての経験でした。
重大なことを任されてドキドキしましたが、今でもお二人それぞれの分野で、Z様の事業や思いを引き継いでご活躍されている姿を見ると、あの時の判断は良かったのだなぁと思います。
お掃除は、家の内外だけでなく心の中やいろいろな整理に通じます。
汚れが溜まってから大変な思いをするのではなく、いつもキレイな状態をキープすることをオススメしますが……
自分だけで解決が難しい時は、どうぞお掃除屋さんをご利用ください。
あなた様のご依頼、楽しみにお待ちしております。
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