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娘たち。

はい、いらっしゃーい。
あら、はじめましてかな。
女の子二人?
よく似てると思ったら姉妹なんだね。
一緒に買い物?あら素敵ねー。

二人は笑顔がよく似てる。
小さな頃は本当に良く喧嘩をしていて
お互いが大嫌いだったらしい。
うんうん、よくある話。

本当のお父さんが亡くなったらしいんですよと言った。
あら、そうなの。
お葬式で見送ってきた?

いや、呼ばれてないし。
もしかしたらもっと前から私らの存在は居ないかもねと
二人でキャッキャ笑ってた。
笑ってはいるが、どこか寂しそうで。



捨てられたんだよね、私たち。
でも、居たころの方が酷かった。
妹は平手打ちされて吹っ飛んだよ。
ママは胸ぐら掴まれたり、蹴り回されてた。
何でスイッチが入るかわからない。

私はーー何もされなかったけど
途中で養育費が途絶えてね、携帯も繋がらない。
高校受験の私学受験のお金もなくて、
パパの実家に今パパはどこに居ますか、て掛けたの。
「私たちも分からないんですよー」てお爺ちゃんが話したよ。
最初の御節句に日本人形をバイクで届けてくれた人とは思えないくらい冷たい言い方だったよ。
元気かとも聞かれなかった。
私たちは途方に暮れたんだ。

新しいお父さんには言えなかったし、
先ず家に居ない。
新しい彼女と九州に行っちゃってさ。
家賃と学費と食費を稼ぐだけでママは必死だから、どう頼んでも無理だった。
結局、ママが自分の両親に頭下げて頼んで出してもらったんだけど、ママと両親はその頃折り合いが悪くてね。申し訳なかったよ。

でさ、そこからがビックリなんだけどね。
ねー、と妹も苦笑した。
パパは本当に何処にいるかと戸籍の付票を取り寄せたんだ。
関東にいて、綺麗なマンションに住んでいて
もう結婚してたんだ。
子供はいないみたいだけど、とても若い人。

あ、そういうことなんだ、と察したよ。
養育費も連絡先も全てシャットダウンした理由。
私たちは居なかったことにされてるんだ。
どんな理由を向こうでつけているかは知らない。
ママは高校や大学を卒業したりする節目には写真と近況を送り続けてはいたみたいだけど、
私たちは、父親側からはもう要らないんだと思ったよ。
滞納分請求の内容証明郵便も無視されたし。
カシスオレンジを傾けながら姉はそう言った。

そこからは、バイトを掛け持ちして予備校代と大学の学費を捻出してきたよ。
高校時代はミスドと料亭の裏方、
大学時代は大手の本屋と夜は料亭。
終電逃したらママが迎えにきてくれたかな。
どうしても具合の悪い日は大学まで送ってももらった。

妹もそう。高校時代はコンビニとパン屋でバイト、画塾に行きながら美大受験したんだ。
絵を描くのは大体夜中。ヘトヘトだったよ。
京都の美大だったから、交通費稼ぐのに必死で
大学時代は駅ナカの店舗に毎日バイトだよ。
さすがに具合が悪くなっても大学までは迎えにこれなかったらしいけど(笑)
私たちは必死で大学を出たよ。

弟がいて、その弟が私学だったから、
ママはその学費に必死で働いてたしで
私たちはこれ以上迷惑をかけたくなかったのもある。
パパ?連絡はないよ。
仕事はしてるみたいだけど。

妹が続けた。
お姉ちゃんは遠くの街で公務員になったんだ。
私も大手百貨店の広報として迎えてもらった、んやけどその百貨店が潰れてさー

お前、ホンマに運ないよなー

キャッキャと二人は笑った。
で、お互い良い縁が合ったので
昨年二人ともお嫁に行ったんだー!
めっちゃ優しい人ーー!!

それは良かったね。
幸せになるんやで。

で、最後にオマケがあってさ。

え、まだあるの?

先週、ウチら姉妹に父親方弁護士からレターパックが届いてね。

遺言書で財産は全て後妻に相続させると。
遺留分は発生するけどそれも放棄しろ、だって。

は?ええええ?

何年も養育費バックレて所在隠して音信不通にして、
更に遺留分放棄まで遺言書で迫る父親サイド⁉️
あり得ない…

姉妹はケラケラと笑った。
ねー、どこまで私ら嫌われてるねん‼️
葬式にも呼ばれてないし。
まあ、行く義理も無いから行かんけどさ。
人として、は問えない人やったわ。
せやね、縁の薄い人やった。

何処か知らないところで
皆んな幸せになればいいと思うよ。
血は繋がっていても私たちには関係ない人や。
私らを強く鍛えてくれて寧ろありがとうやな。
不幸を願う時間があれば、
スタバで美味しいもん口に入れた方が良きよ。

妹が言った。

ママには感謝や。
私を暴力から救い出してくれたこと、
私らを離さないでいてくれたこと。
どれだけ貧乏でも、さあ頑張るぞ!て
自分後回しで私たちにお金を用意してくれたこと。
嫁に行ってから、ママに話したら泣いてた。

そら泣くわ。
一生懸命に生きてたんちゃうかな。
環境変われど、一番大切なものは子供やから。

だからウチらは相続放棄したよ。
目録すらないからどの程度かも知らないけど
それがなきゃそんなに大変なら
後妻さんがこれからの人生に使えばいい。

私らは自分で稼げるし、
自分の責任は自分で取れるからさ。
ママも大賛成やった。よく言った!て。

ごちそうさまぁ。

そう言って二人はドアを開けた。

わー、さぶっ‼️
もう秋無くて冬やん!

また来るねー!

空のグラスが二つ、寄り添うように。
幸せ色した口紅の跡を残して。

(この話はフィクションです)