【FF14】特別でない存在【創作】

「がッ――」

 完全に油断していた。
 今日は相棒のロスガル・ニグラスとは完全に別行動で、鍛錬の日だった。調子に乗っていたわけではないが、慣れない土地で奥まったところまで入ってしまい、振り返ると猛獣に囲まれてしまっていた。1対1では絶対に負けない相手だが、3匹もいるとなると話は変わる。走って逃げ切ることができればなんとかなる。しかし――。

「……参ったな…」

 右足首に痛みを感じる。捻ったか、地面を踏みしめるとズクンと痺れる感覚がある。

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 私は死ぬのか?
 死ぬことそのものは怖くない。どうせ私が死んでも世界は回り続ける。明日も、来年も、この星が滅びるまでそれは変わらない。しかし、私のことを気にかけてくれているヒトがいる。それは私が絶対に悲しませたくない大切なヒトだ。

「ニグ、ラス」

 無意識に声に出ていた。死にたくない。奥歯を噛み締める。歯が擦れる音が体内を通じて内側から聴こえる。握りしめた拳が強すぎて、自分の爪で手のひらが裂ける。
 死にたくない。

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 刹那、何かが爆発する。一瞬すぎて何が起きたのかわからない。砂埃が高く舞い、顔を腕で覆う。不自然に静かになったので恐る恐る腕をどかせて目を開けると、自身を囲んでいた猛獣はエーテルへ還っていた。

「大丈夫?」

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 後方から女の声がし、振り返る。黒いローブに身を包む、モノクルをかけたエレゼン族の女性だった。炎と氷を纏った杖をくるくると回しながら、こちらへ歩み寄ってくる。
 助かったようだ。

「ああ……助かった、本当に」

 緊張がとけ、一気に身体の力が抜ける。その場に尻もちをつき、大きく息を吐いた。

「この辺のやつは好戦的だからね〜」

 エレゼン族の女性は杖を背中に背負い直すと、懐から小さなクリスタルを取り出して握りしめた。少ししか見えなかったが、あれはソウルクリスタルだろう。私も、モンクのソウルクリスタルを扱う者なのでわかる。
 エレゼン族の女性が一瞬光ったと思えば、服装が白いローブ姿に変わる。先程とは違う杖を握り直して、その先を私に向ける。白い光に包まれ、身体の痛みが引いていく。

「ありがとう」
「いえいえ。冒険者たるもの、助け合いっしょ」

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 エレゼン族の女性は、私の顔を見てにっこりと微笑んだ。深い赤色の瞳と、黒い短髪にこちらも赤のメッシュを入れている。相当の実力者であることがわかる。それとは別に、ニグラスに似た雰囲気を感じた。
 そうか、これが"超える力"を持つヒトの雰囲気なのか。私にはない、特別な力。

「うん、もう大丈夫だね。あとは自分で帰れるかな?」
「あっ、」

 もう少しこの人と話したいと感じた。ニグラスと同じ力を持つかもしれないこの人のことを、もう少し知りたい。

「急ぎでないなら、少し話せないか? 礼もしたい」
「お礼はいらないけど、お話は全然いいよ。どこにいく?」

 彼女は快諾してくれた。ゆっくりと話せるところといえば、ウルダハのクイックサンドくらいしか知らないが、提案するとにっこり笑って賛成してくれた。

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 クイックサンドにつくなり、エレゼン族の女性はクイックサンドの女将・モモディに挨拶をしていた。どうやら顔見知りだったようで、とても仲良さげに話している。

「モモディと知り合いだったのか」

 そう聞いてみると彼女はまたにっこり笑って答えた。

「ウルダハ出身の冒険者だからね。モモディ女史には頭上がんないよ~」

 モモディは口に手を当ててくすくすと笑うと、こちらにも話しかけてきた。

「ブランカスがカオリと知り合いだったことのほうが驚きよ。世間は狭いものね」
「知り合いといっても、先ほど会ったばかりだけどな。助けてもらったお礼をしたいんだ。なにか食べるものを用意してあげてほしい」
「わかったわ。そっちに持っていくから、適当に座ってて頂戴」
「ありがとう」

 空いているテーブル席に腰かけると、向かい合うようにエレゼン族の女性も座った。自身の獲物をテーブルに立てかけ、一息つく。モモディが冷たいドリンクを早速持ってきてくれたので、飲みながら会話を始める。

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 彼女は、カオリ・フィルというそうだ。冒険者として活動歴も長く、それなりの修羅場をくぐってきたとのこと。本人はあっけらかんと話すが、瞳の奥に感じる強さは本物だと思う。

「冒険者として活動してる中で、自分の特別な能力に頼られたことはあるだろうか」

 率直に、聞きたかったことを質問してみた。唐突すぎたのか、彼女はその赤い瞳をぱちぱちと開け閉めし、こちらを見つめる。すると、彼女の顔が一瞬歪み、額を押さえてうつむいた。これはまさか――。

 無言の時間が数秒続いただろうか。モモディがサンドイッチをテーブルに配膳してくれたときに鳴った食器の音で、カオリはハッと顔を上げた。

「あー……、なるほどね?」

 カオリはニヤッと笑い、腕を組んだ。

「"超える力"のことだね。申し訳ないんだけど、私もキチンと制御できるわけじゃなくて、ふとしたときにその人の過去が垣間視えちゃうんだよね。で、」
「私の過去を視た、んだな?」
「せーかい。ごめんね、勝手に視ちゃって」

 カオリは申し訳なさそうな顔で目をそらして、サンドイッチを手に取る。

「構わない。特に視られて困ることはない」

 安心したように微笑み、サンドイッチを一口かじってから、話を戻す。

「それで、"彼"も同じ力を持ってるんだね」

 ニグラスのことだ。

「ああ。その能力から頼られることも多く、私にはない力故にその苦しみがわからない。ニグラスはどういうことに悩んでいるのか……」
「う~ん」

 カオリは顎に手を当てて考え込む。

「多分キミは、漠然と"彼"の苦しみを知りたいんじゃなくて、"彼"の助けになりたいんだよね」
「む。そう、なのか」
「そうだとして、きっとキミは今のままで大丈夫だと思うよ。"彼"は、きっとキミにたくさん助けられてると思うな」

 カオリはニッと笑う。

「むしろ、"彼"がキミを助けたいって思ってるんじゃないかな」
「え?」

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 聞き返したタイミングで、モモディの元気な声がクイックサンドに響く。

「ニグラス!おかえりなさい。お腹空いてない? 何か用意しましょうか?」

 蛮族との交流を継続しているニグラスが、クイックサンドに帰ってきたらしい。

「おっ、噂の"彼"だね。悪いこと言わないから、そういうのは直接聞くのが一番だよ。ごちそうさま、またどこかで」

 遠目にニグラスの姿を見て、カオリはそそくさと立ち上がって入口へ歩いて行った。クイックサンドに入ったばかりのニグラスがこちらに気付き、少し怪訝な顔でカオリを目で追う。カオリはそれに気付いて、優しい顔つきで会釈し、外へ出た。ニグラスは、カオリの顔をはっきり見たときに何かに気付いた様子だったが、特に引き留めたりせずにこちらに歩いてきた。

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「……知り合いか?」
「助けてもらったんだ。礼がてら食事を」
「なるほどな。あいつ、俺も知ってる。ウルダハに来たばかりのときに話したことがある」
「そうなのか?」
「名前も知らん程度しか話してないがな」

 ニグラスが、私のすぐそばまで来て、私を見下ろす。またアマルジャ族のところへ行っていたのか、ローブの隙間に砂が入り込んでいるのが見える。

「何を話していたんだ?」

 話したことを報告するか悩んだが、"今は"やめておこうと思った。

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「ガールズトーク、というやつだ」
「はぁ?」

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