【FF14】命の行き着く果て【創作】

「弔いの文化とは、いつどこで始まったものなんだろうな」

 冷たく、動かなくなった見知らぬ人の背中を見つめながら、ニグラスは無機質に口を開いた。
 ブランカスはザナラーンの乾いた大地で素性も知らぬ遺体を運んでおり、ニグラスはその隣にいる。冒険者として受けた依頼とはいえ、見知らぬ人の埋葬を任されるとは思ってもいなかった。

「む。ニグラスなら知っていると思っていた」

 ブランカスは遺体を背負い直して、ニグラスの方を見る。自分より体格の良い男性を運んでいるとは思えないほど涼しい顔をしている。日頃から鍛えていることもあり、力が入っている筋肉がはっきりと浮いて見える。
 ニグラスよりもブランカスのほうが力仕事は得意なため、重たいものの運搬は専らブランカスの担当である。

「弔いや埋葬に関わることは土地によってかなり違いがある。地域によっては、死体には触れず自然に還るままを良しとしている部族もあれば、死体が腐らないように保存することを美徳としている連中もいると聞く。文化によって違いはあれど、そもそも"埋葬"という考え方はどこがルーツなのかと思ってな」

 ブランカスは視線を進行方向に戻し、歩きながら考え込む。少なくともブランカスの物心がつく頃には、すでに埋葬という概念や文化は存在していたわけで、ルーツと言われると全く見当もつかない。

「落ち着いて時間がとれたタイミングで、各都市の文化を年代ごとに調べてみてもいいかもな。この世で初めて"埋葬"という行為をしたやつの感性が気になる」

 一旦会話はそこで途切れた。

 小高い丘の上で、見ず知らずの男の遺体を埋める。教会で会ったマルケズという男いわく、土は心を込めてかけるそうだ。

「心を込めて……」

 ブランカスは無意識に声に出していた。

「心ねぇ……そんなもの、死んだ者に届くとは思えんが。込めようと込めまいと、結果は変わらない」

 ニグラスのことをよく知らない人には冷たく聞こえるだろう。だが、ニグラスとはそういう男だ。論理的といえば聞こえが良いが、理解者は多くない。

「そうだな。あいにく、私も今は特になにも考えていない」

遺体に土をかけながら、ブランカスが返事をする。その手は機械的な動きだ。

「だが――」

 土をかけ終わり、上に石を積んでから手を払い、立ち上がる。丘から眺めるザナラーンの景色は、どこか哀しげだ。
ブランカスは遠くを見つめながら、いつもより強い声色で言った。

「もし"これ"がニグラスだったらと思うと、私はどうなってしまうのだろうな」

 乾いた風が、ふたりの間を吹き抜けていく。ニグラスも"これ"がブランカスだったらと、想像してしまう。想像に過ぎないが、多少の動揺は否めないだろう。人類で初めて"埋葬"という行為を試みたヒトは、一体"誰"をそうしたのだろう。

 願わくば、動かなくなったお互いに土をかけることのないようーー口にはしなかったが、思うところは同じであったと、確信した。

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