【FF14】"彼女"との会話【創作】
「ねえねえ、今日はなにしてんの~?」
そいつはどこからともなくやってくる。どうして私が活動している時間がわかるのか……これも「超える力」なる異能の力なのか? だとしたら使い方を間違えている。
「また貴女か……。どうしてそう私につきまとう?」
いつも通り上から声が聞こえるので、空を見上げるとなんと空飛ぶ椅子に優雅に腰かけていた。黒い短髪に入っている赤いメッシュが潮風に揺られている。いったいどういう仕組みで浮いているのか、まるでわからない。
私は定期的に”蛮族”と呼ばれる獣人の手伝いをして、彼らとの相互理解を目指している。文化と言葉を持つ生き物なのだから、きっと分かり合えるのではないかと思っているからだ。
それをどこから知ったのか、このエレゼンの女性—―カオリ・フィルは度々私を探し、見つけてはついてくる。質が悪いのが、本当に”ついてくる”だけなのだ。こっちが魔物に追われていようがお構いなしだ。ある時は、完全に戦闘中だというのに空から舞い降りて挨拶をかましてきた。意味不明だ。
「ん~、やっぱ新人さんだしね。最強の先輩が見守ってあげたいわけ」
左目につけているドラゴンを模したモノクルを上げながら、へらへらと笑う。
「頼んだ覚えはない。貴女ほどではないとは思うが、私ももうそれなりの経験を積んだ冒険者だ。心配されなくともひとりで問題ない」
「つれないなぁ~」
空飛ぶ椅子でぐるりと回りこむように、こちらの視界に無理やり入ってくる。
「邪魔はしないからさ、ね?」
こちらに向けてあざとくウィンクをする。下手に突き放す方が面倒か……。
「わかった……」
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今日分の手伝いを全て終わらせて一息ついたところを見ていたのか、カオリさんは降りてくる。
「おっつかれ~! 今日も頑張ってたね~!」
この人のテンション感は本当にわからない。
「どうも」
「ところで、少し時間ある?」
有無を言わさず、彼女は高らかに指笛を吹く。すると天から立派な翼を持つ馬—―ペガサス、だろうか――が現れ、カオリさんのすぐ横に凛と立つ。彼女はそれに飛び乗り手綱を掴むと、私を見下ろして言った。
「見せたい景色があるんだ」
立派な天馬に目を奪われ、思考がまとまらない。と言っても、断る理由もないので、ここは素直に誘いに乗っておくか。
彼女が手を差し出してくれたので、それを掴んで勢いよく後ろ側へ乗る。思っているより座面が広く、安定感がある。
「ちゃんと捕まってね」
そう言われても、捕まっていられるところが見当たらないが……と探しているうちに、天馬は空を駆けはじめる。慌てて捕まったのがカオリさんの肩だったが、彼女は一切驚かず真っ直ぐ前を見ていた。仮にも自分より体格の良い生き物にいきなり掴まれているというのに、なんて肝の座った人なのだろうと、少し感心してしまった。
天馬はぐんぐんと高度を上げ、気付けば西ラノシアを一望できる高さまで来ていた。時間は夜、星空は果てまで続いている。
「どう? きれいでしょー?」
そう声をかけられて、呆然としていた意識が引き留められる。
「……ああ、そうだな」
ある程度ぐるりと回った後、小高い丘の上にある灯台に着地し、カオリさんは降りた。私も降りると、天馬は天高く飛び立ち、どこかに消えていった。
カオリさんは灯台のふちに座ると、私にも座るよう手でポンポンと促す。
目の前には偏属性クリスタルに浸食されているように見える巨大な灯台がある。行ったことはない。
「冒険者業、楽しい?」
小さいが、確かな声でそう聞かれた。
「ん…? まあ、そうだな。悪くはない」
歯切れが悪くなってしまったが、楽しいことばかりではなかったな、と感じてしまったのでこのような返しになってしまった。
「そっかそっか」
カオリさんは満足げだった。
「キミには、もっといろんな景色を見てほしいよ」
そう言った彼女の顔は微笑んでいたが、少し愁いを帯びているようにも感じた。慈しむような、大切なものをいとおしげに抱きしめるような。なぜそのような表情になったのかは伺い知れないが、きっと私が経験していない何かがあるのだろう。
私も冒険者を続けていれば、彼女のような視点で世界を見ることができるのだろうか。
今はまだ、先のことは考えられそうにない。
「あっ! 今日のこと、ブランカスちゃんには内緒にしたほうがいい?」
「好きにしろ」
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