【FF14】お互いを知るということ【創作】

 帝国軍との戦いが本格化するであろうというとき、作戦開始までの間で少しだけ余暇が発生した。私はこれから起こる激しい戦闘に備えて鍛錬に励むつもりだ。
 相棒の黒い鬣のロスガル・ニグラスに声をかけると、彼は蛮族と呼ばれている部族たちにコンタクトを試みるとのことだった。

「これから帝国と戦おうってときだからこそ、現状敵と見なされている彼らとの相互理解が必要だと思う」

 ニグラスは昔から異文化への興味が強く、特にウルダハに来て最初に目にしたアマルジャ族には特別な想いがあるように見える。異文化を理解することは、その生命を理解すること。常々、そう語っていた。私個人としてはそこまで興味があるわけでもないが、ニグラスにもしものことがあっては心配なので、ついていくことにした。

 まずは南ザナラーンへ出向き、アマルジャ族の拠点へと足を運ぶ。最初は信用されていない雰囲気ではあったものの、ニグラスのコミュニケーション術によってある拠点に出入りすることは認められた。
 ニグラスの邪魔はしたくない為、安全であることがわかった時点で拠点の一角を借り、その場に座ってニグラスが受けた依頼が終わるのを待つことにした。本当はふたりで終わらせた方が早いが、こういうときのニグラスは効率を求めない。逆に「少し苦労するぐらいが丁度いい」なんて言い出す。私は見ているだけで十分だ。何かあれば自分から手伝ってほしいと声をかけるはず。

 ふと、焚火に薪をくべるアマルジャ族が気になり、近くまで寄って対面に座る。軽く睨まれはしたものの、敵意がないことを態度で示せばそれ以上強くは出てこなかった。

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 こうやって火を熾し、モノをつくり、生活をしている様子を見ていると、私たちヒトとなんら変わりないように感じる。彼らも、思いをもって生きている生命なのだと。

「お待たせ。移動しよう」

 ニグラスに声をかけられ、目線を焚火から彼の双眸へ移す。月のような、淡い白い瞳だ。

「お疲れ様。問題なさそうか?」

 立ち上がって、尻を払う。砂埃がザナラーンの乾いた空気に乗って散る。

「ああ。彼らの手伝いを任せてもらえることになった」
「よかったじゃないか」
「次はコボルド族へ干渉してみようと思う」

 アマルジャ族の拠点から少し離れたところまで移動し、軽く荷物の整理をする。ニグラスはノートにメモを取りながら思考を整理しているようだった。

「思っていた通り彼らは文明を持つ立派な知的生命体だ。蛮族などと表しているが、その呼称は適切でないように思えるな……ヒトとの対立のきっかけを顧みても、卵が先か鶏が先かわかったもんじゃない」

 ニグラスは顎に手を当ててぶつぶつと喋る。相当楽しかったのだなと思う。

「……そもそも、俺が"ヒト"として定義されているにもかかわらず、彼らアマルジャ族が"蛮族"として定義されているのには違和感を覚える。外見に限って言えば、俺とブランカより、俺とアマルジャ族のほうが近い生物とすら思うよ」

 ニグラスが、自身の手のひらを眺める。彼は黒い毛並みを持つロスガルだ。獣人ではあるが、基本的にはヒューランやエレゼンなどと比べても社会的扱いに差はない。私はヒューランで、彼はロスガルであるから、身体のつくりが全く異なるところもある。それでも、同じ"ヒト"として扱われる。

「もしかしたら、俺も――」

 ニグラスが見つめいた手のひらを握りしめる。その横顔はどこか寂しげだ。なにかを憂いているのだろうか。

「彼らアマルジャ族が、私達となんら変わりないことの何よりの証明なんじゃないか?」

 私がそう言うと、ニグラスはハッと顔を上げて私を見る。白いふたつの月が、いつもより大きく見えている気がする。少し考えた素振りを見せて、ニグラスは表情を柔らかくした。

「やれやれ、君は俺の中の不安をいともたやすく蹴散らすときがあるな」

 そう言って、ニグラスは肩をすくめる。よくわからないが、何かが腑に落ちたらしい。

「ニグラスが納得したならよかった」
「そういうことじゃないんだよ」

 やれやれ、といった仕草でノートを閉じ、転送魔法の準備を始めるニグラス。

「行くぞ」
「ああ」

 ニグラスに手を差し出され、それを掴む。ニグラスのふかふかとした体毛が気持ちいい。私がしっかりと手を掴むと、ニグラスが強く握り返してくる。それがなんだか心地よくて、色々耽っている間に身体が浮く。次に目を開けたときには、もうラノシア地方にいた。

 コボルド族との接触で、次はどんな話を私にしてくれるのだろう。楽しみに待つことにする。

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