【FF14】その男、トラッハトゥーム【創作】

「おっれさーま はたらく ようへいさーん♪でもふうしゃの げんりは しらないぜー♪らんららーるるる、ららららーん♪」

 コボルド族が蛮神タイタンをすでに召喚していると聞き、取り急ぎタイタンに関する情報を集めている最中、この男—―トラッハトゥームに辿り着いた。トラッハトゥームはかつて海雄旅団に所属していたと言い、タイタン……もとい、"タコタン"を討伐したことがあると主張している。

「絶対ホラ吹きだ。奴には知性のかけらも感じられない。無意味すぎる」

 トラッハトゥームから情報提供の交換条件として、近郊の"ラット"退治を依頼された。漆黒のたてがみを持つロスガル・ニグラスは完全に脱力しながらラットを探している。

「まずはあいつが持つ情報を聞いてからでもいいんじゃないのか?嘘かどうかは出揃ってからでも遅くない。今は、なんでもいいからタコタンの情報がほしい状況のはずだ」

 ニグラスの相棒として共に依頼を受けている白髪のヒューラン・ブランカスが、草むらから飛び出したラットを手掴みで捕まえながら返した。ニグラスは大きなため息をつきながら「タイタン、な……」と訂正する。ブランカスが捕まえたラットをニグラスの方に放り投げると、ニグラスは指先から火の玉を出し、それをラットに向かって放つ。ラットは短くギャッと鳴くと、一瞬でエーテルに霧散した。

「そもそも知性無き生命体と会話するのは得意じゃないんだ。あんなの、シルフ族のほうがまだ知的だ」
「あははっ」

 ブランカスが珍しくけらけらと笑う。ニグラスのため息は止まらない。

 その後もグゥーブー退治を押し付けられ、ニグラスの苛立ちは積もっていく。
 依頼された仕事を終えて、トラッハトゥームに報告がてら文句のひとつでも言ってやろう……と戻ったとき、合流するような形で風車小屋の管理人と思しきヒューランが入ってきた。どうやら依頼されたラットやグゥーブーの退治は本来トラッハトゥームの傭兵としての仕事だったようで、トラッハトゥーム自身は呆けるためにこちらに交換条件としてちらつかせ、やらせたようだった。

「……おい」

 ニグラスからどすのきいた声が漏れた。ロスガル特有なのか、獣の唸り声のようなものも聞こえる。

「まぁまぁ、トラッハトゥームの言い分も聞こうじゃないか」

 ニグラスがここまで苛立つのは滅多に見れるものではなく、ブランカスは少し楽しくなってしまう。
 トラッハトゥームの主張は変わらず、自分は"タコタン"ことタイタンを討伐した元海雄旅団員だと曲げなかった。すると風車小屋の管理人は、その場にいた冒険者であるニグラスとブランカスを指して「このふたりは実力があるように見える。この人たちに仕事を押し付けたのではないか?」と指摘する。ニグラスは腕を組んでそっぽを向いている。ブランカスはどこか楽しそうだ。
 詰められたトラッハトゥームは慌てた素振りだが、管理人が畳み掛けるように「そこまでの実力者なら、この人たちを負かしてみろ」と続けた。トラッハトゥームは慌てふためくも、一見華奢に見えなくもないブランカスと目が合い、持ち直した様子だった。

「わ、わかった!俺と勝負するのはそこの姉さんでいいな!?そうだよな!?」

 ニグラスは全てを悟る。

「……ああ、構わない」

 ブランカスは特に反応もせず、流れを受け入れているように見える。
 かくして、ルガディン男性であるトラッハトゥームとヒューラン女性であるブランカスの決闘が始まろうとしていた。

 風車小屋の外に出るなり、トラッハトゥームは汗だくになりながら岩を転がしてきた。てっきり直接拳を交えるものだと思っていたブランカスは、ぱちぱちと瞬きをする。ニグラスは風車小屋の前に座り込んで、遠巻きに様子を眺めていた。

「勝負は、岩を壊すんだ!おっ、俺を殴ったらルール違反で負けだからな!?絶対俺を殴るなよ!!」
「む……喧嘩をするわけではないんだな?」
「当たり前だっ!!そんなことしたら死んじゃ……いや、殺してしまうかもしれないからな!!!」
「なるほど、それもそうだな」

 岩が小屋の前の開けた場所に並べられる。かなり大きさに差があるようにも見え、トラッハトゥームの浅はかさにニグラスはただただ呆れていた。知性が低いことの恥を噛み締めている。

「私の岩は、お前のと比べてずいぶん大きいな」

 ブランカスの前に転がされてきた岩は、ブランカスの胸の高さほどある巨大なものだった。対し、トラッハトゥームの前にある岩はせいぜい膝くらいの高さだ。

「そッ…そうか!?俺には同じくらいに見える!さぁ始めるぞ!!!」

 トラッハトゥームは早口で捲し立て、背中に携えた斧を前に構え、そそくさと振り始める。あたりには金属音が響くものの、トラッハトゥームの岩は小さく欠けるばかりで一向に割れない。

 ブランカスは、すうっと息を吸い込み、後ろで座っているニグラスの顔を見る。
 彼の顔にはもう"飽き"が見え隠れし、この場を離れたくて仕方ないといった空気を察する。

「わかった」

 ブランカスは独り言のようにぽつりと言い、右拳を握って姿勢を落とす。目をかっと開き、口から鋭く息を吐くと、刹那。

 爆発ともとれる轟音が響き、砂や埃が舞い上がる。ラノシアの潮風に吹かれ視界が開けたとき、ブランカスの前の岩は大きく凹み、割れていた。
 前に突き出した右拳をゆっくりと下ろし、トラッハトゥームに向き直す。トラッハトゥームは眼前の状況を飲み込めず、滝のような汗をだらだらと流し、瞬きを忘れ硬直していた。

「私の勝ちだ」

 ブランカスは小さくVサインをしてみせた。後ろでニグラスが声を上げてゲラゲラと笑っている。

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「すすす、すいませんっしたー!俺、実は"海雄旅団員"じゃないっす!ただの、ケチで名もない傭兵くずれなんす!」

 やれやれ、といった空気が周辺を支配する。無様に土下座して見せたトラッハトゥームをそれ以上責める気にはなれなかったニグラスとブランカスだった。トラッハトゥームから詫びとしてタイタン討伐の関係者である海雄旅団の元副団長を尋ねるよう提案を受ける。
 引き続き蛮神タイタンの情報を集めるために、ふたりはコスタ・デル・ソルに向かうのだった。

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「あの程度の岩、ニグラスがやってもよかったじゃないか。なぜ私に押し付けた?」

 コスタ・デル・ソルに向かう道中、チョコボの上でブランカスはニグラスに話しかける。

「俺は肉体労働は好かん」

 ふん、と鼻を鳴らし、鞄から本を取り出して器用に開くニグラス。彼は、チョコボでの移動のとき、そのほとんどの時間を読書に費やしている。パラパラとページをめくり、栞のある場所を探す。

「そうだったな」

 ブランカスはふわりと微笑み、コスタ・デル・ソルへ続く道を見つめていた。

 タイタンの脅威は、まだ続いている。

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