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【泣けよ洗濯機】七草にちか 感想【シャニマス】

※本記事はpSR【泣けよ洗濯機】七草にちかのネタバレが多分に含まれます。閲覧の際はご注意ください。

はじめに


 こんにちは。こちらは先日実装された【泣けよ洗濯機】七草にちかがあまりに良かったために書かれた感想記事となります。拙い文章や至らぬ読解が散見されるかと思いますが、皆さまの考えの整理やコミュの評価に少しでも役立てて頂ければ幸いです。
 また本コミュは前回pSSRの【夜よこノ窓は塗らないデ】七草にちかとの関わりが強く、そちらも併せて読むとより楽しめるかと思います。以前に同コミュの感想記事も書いておりますので良ければそちらもよろしくお願いいたします(宣伝)。


イラストなど雑感


 イラストは自宅で洗濯機に寄りかかるにちか。バスチェアや洗面台のブラシが映り込み生活感に溢れています。タイトルやイラストに出てくる洗濯機を見て、【ROUNDLY】緋田美琴を思い出した方もいるかもしれません。

 コインランドリーを使う美琴と家で洗濯機を使うにちかは何となく対照的な構図にも見えます(美琴は「家のこと」にあまり興味がなく内と外、家と外の境界があいまいで、そういった点でもにちかとは対照的かもしれません)。コミュ内容が対比的な訳ではないのであくまで余談ですが、同じユニットでそれぞれの洗濯機が出てくるのはなんだか面白いですね。
 いずれにせよ今回のイラストからは「家の中」が描かれることが明確で、どこか物憂げな表情をみせるにちかと併せて期待と不安が膨らみます。以下コミュの内容を見ていきます。

第1話「電話が勝手に」


 コミュはまず(意味深な導入を経て)久しぶりのオフを与えられたにちかの話から始まります。オフといっても家の仕事がたくさんあると愚痴るにちか。実際彼女は姉はづきとの二人暮らしで共に忙しく働いているので、家の仕事は溜まっていく一方でしょう。


 そんなにちかの力になりたいシャニPは家のゴミ出しの仕事を買って出ます。「ゴミ出し」というのは象徴的で、これは家から出たゴミを外に持っていく「外回り」の仕事です。【夜よこノ窓は塗らないデ】に引き続き、家の外に居ながらにちかに寄り添おうとしているシャニPの姿勢を表しています。一方、家の中で洗濯機の音を聞きうたた寝していたにちかはシャニPの干渉を煩わしく思い、扉の前に立ちゴミ出しの報告をするシャニPを返事もなく帰してしまいます。
 恐らく最初のゴミの受け渡しも玄関前で行われたのでしょう。ここでは「家」と「外」の境界が明確に引かれ、シャニPは家に入ることはありません。


 帰路に着くシャニPは自分に何ができるのかという葛藤を独白します。彼の「にちかを幸せにする」という決意は固いですが、自分の行動が果たして本当に彼女のためになっているのかという迷いがあるようです。そもそもゴミ出しにしても確かに「家の外」の仕事ではありますが、プロデューサーの仕事としては既に大きく逸脱しています。「自分のいるべき場所(立ち位置)」や「やるべきこと」が分からず、にちかの反応も得られず空回りしている感覚があるのでしょう。

 そんな折に突然にちかから着信が来ます。応答するもにちかの声はなく、何かあったのではないかとシャニPは七草家に急行します。玄関前でも返事はなく、扉はゴミ出しの時のまま鍵がかけられていません。シャニPは意を決して「家の中」に入ります。
 まどろむにちかに自分の名前を呼ぶ懐かしい声が聞こえてきます。その声に答えようとした時に彼女はシャニPの呼びかけで目を覚まします。


 イベントコミュ『明るい部屋』などにちかの実装前から、七草父とシャニPに似たところがあることは度々触れられています。信頼度セリフなどにもあるように、にちかがシャニPに父親を重ねていることが改めて分かるシーンです。しかし、重ねているが同一ではない故の葛藤がそこにはあります。

 結果としてにちかは再度うたた寝してしまっていただけで、電話は間違って発信されたものでした。安堵するシャニPに、にちかから「なんで入ってきたんです」という言葉が投げかけられます。


 これは互いにとって核心となるテーマです。意図せぬ発言などではなく、にちかもその意味を理解しています。「何ができるんです」というにちかの独白が続きます。
 これも以前の繰り返しになってしまいますが、他人は他人であって家族にはなれないという線引きはにちかの側にも提示されています。しかしシャニPというどこか父親の面影を感じる他人は、(アクシデントとはいえ)ついに「家の中」に入ってきてしまいました。【夜よこノ窓は塗らないデ】でも他人のくせに寄り添おうとするシャニPの「アピール」ににちかは困惑していましたが、今回はそれ以上の踏み込みです。シャニPが踏み込んできたこと自体への動揺もあるでしょうが、その想いにどうしたらいいか分からないという困惑もあります。他人のシャニPはにちかに「何ができる」のでしょうか。

第2話「食べたいやつ」


 収録が早く終わって待ち時間ができるにちか。一方そのころシャニPはにちかを迎えに行く途中でスーパーに寄っています。彼は会計途中に購入品の追加を思い立ち、行動に移します。それはにちかに差し入れるためのスムージー、サラダ、パンでした。W.I.N.G.編と異なりにちかの好みを理解しているシャニPに関係性の変遷を感じますね。


 しかし同時ににちかの現場でも人気店のスムージーやサラダが差し入れられていました。とはいえ彼女にとっては少し量が足りなかったようで、パッケージがお洒落なだけの差し入れに文句を言い「パンが食べたい」と独り言ちます。


 そして二人は合流します。にちかが移動中の車内で食事できるよう差し入れをもってきたシャニP。しかしにちかは空き時間に食事を既にとっており、そんなことする時間があったら早く迎えに来てほしかったと言います。おまけに彼女の食事は人気店のスムージーやサラダでした。対してスーパーで買ってきたスムージーやサラダは正直見劣りするものでしょう。

 シャニPはまた自分が空回りしてしまったと感じます。しかし、両者を俯瞰している我々からは彼の厚意はまったく空回りしていないことが分かります。にちかは見た目だけ良くても量の少ないスムージーやサラダに不満を抱いており、パンを食べたいと言っていました。シャニPの差し入れは空回りどころか完璧に彼女のことを理解しているとも言えます。そしてそのことは我々だけでなく、にちかの視点からも分かることです。
 にちかは差し入れの中に自分の食べたかったパンを見つけます。しかし空回りを後悔するシャニPは差し入れを撤回し、にちかに謝罪します。悲しいすれ違いです。にちかもパンは嬉しかったはずなのに、謝罪するシャニPを前に「本当はパンが欲しかった」とは言えずにいます。

 にちかの望む差し入れをするシャニPからは彼のにちかを想う気持ちが本物であることが分かります。それなのにすれ違ってしまうのは、にちかが彼の想いを受け止めきれないでいるからです。

True End「入口までです」


 シャニPは再び七草家のゴミ出しを手伝っています。先日のすれ違いのこともあり、にちかはシャニPになにか声をかけたいようですが言葉が見つからず、つい「(手伝いに)来なきゃいけないなんて言ってない」などと言ってしまいます。
 帰り道、水溜まりを踏み靴下を濡らしてしまうシャニP。再び「何ならできるんだろう」という自問が重なります。自分の空回り感や無力さに打ちひしがれているシャニPですが、そこに後から追いかけてきたにちかが現れ、彼に呼びかけます。


 不器用ながらも確かな歩み寄りです。シャニPは喜んで一緒にスーパーに行くことを提案します。さらにそれだけでなく、にちかは水溜まりで濡れてしまった靴下を洗濯機で洗うと言い、玄関に上がるようシャニPに言います。


 一度は「家の中」に入ってきたことを咎められたシャニPですが、玄関に上がることを許されます。「プロデューサー」でも「父親」でもない自分の「いるべき場所」や「できること」が分からず、葛藤していたシャニPですが、このにちかの歩み寄りを受けて迷いを捨て去ります。「にちかが入ることを許してくれる場所でできることは全部やる」というのが彼の答えであり、新たな決意です。


 【夜よこノ窓は塗らないデ】では窓を隔てて家の外からにちかに寄り添うシャニPが描かれましたが【泣けよ洗濯機】では(意図せぬ理由とはいえ)その境界が崩され、最終的にはにちかが一部受け入れる形で二人の距離は近づきます。扉の前にいた男が玄関まで上がることを許されたという数歩の進展ではありますが、「家の中」に入ったという点で大きな変化です。
 このコミュも含め幾度となく強調されてきた二人の境界線が、ここにきて曖昧になります。家の中に入ったシャニPは、いずれ彼女の父親になるのでしょうか。シャニP自身はもう他人とか父親とかいう枠には囚われていないようにも見えます。彼はにちかの望む場所が自分の居場所だと言い、そこで何でもやると誓います。彼がどこに立つのか、何ができるのか、問いかけへの答えはすべてにちかの受容に委ねられているとも言えるでしょう。

 シャニPの「相手の望む場所でできることを全部やる」というのはまさに献身であり無償の愛です。献身的に愛を捧げる姿はイベントコミュ『アイムベリーベリーソーリー』のテーマを想起させます。同コミュでは主人公がカモメの餌に全ての「あい」を捧げ、そして寡婦自身がカモメから「あい」を受け取り自らを大切にすることが、彼女が幸福になるための正解とされました。にちかの幸せもシャニPの「あい」を受け取った先にあるのかも知れませんね。

 今回のコミュではにちかの受容の一端がみられ、二人の関係が変わり、また変わっていくことが示唆されました。これから二人がどうなっていくのかは分かりません。受容の過程でにちかにとっての父とシャニPとの重なる部分、あるいは異なる部分が改めて課題になってくるのかも知れません。しかしいずれにせよ、にちかがシャニPの愛を受け入れた先には彼女の幸福が待っているということを信じてやみません。

おわりに


 最後にタイトルの【泣けよ洗濯機】について考えてみたいと思います。
 洗濯機が泣くというのは「水が流れる」「音を立てて泣く」ということで、洗濯機が稼働するさまを指すのでしょう。どこか感傷的な表現でもあります。
 今回のコミュで洗濯機は生活音の象徴として扱われています。洗濯機の音を聞きながら、にちかはまどろみ父の夢を見ます。にちかにとって「家の中を象徴する音」とも言えます。
 そしてコミュの最後で、洗濯機はシャニPの「靴下だけ」受け入れることになります。これはシャニPを「入口まで」受け入れたにちかと相似する構図です。
 シャニPの靴下を入れた洗濯機が音を立てて稼働します。その音は、中々素直になれず声を上げられないでいるにちかに代わって「あなたを受け入れる」というメッセージを伝えているのかも知れません。


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