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朝を溶かして

朝が大嫌いです。
昼はもちろん嫌い、夜も特段好きなわけではないけれど、朝は群を抜いてすこぶる嫌いです。
大抵私はまだ一睡もできていないのに世界は起き出して、深夜と1人で対峙していた私に唐突に大量の情報を浴びせてきます。


世界が起きるとまず鳥が鳴きます。部屋の窓からは近隣の家の屋根が見えるのですが、その三角屋根のいちばん高くてとまりやすそうなところ、お立ち台に見えなくもない頂点の位置で毎日一定回数鳴く鳥がいます。これがまあ大変にうるさい。小ぶりの鳥で等間隔のタイミングで鳴いてみせてくれます。種類を特定してやろうと見た時に限って毎回必ず種類が変わります。毎日同じ子が来る訳ではないようです。一度鳴き声を思い出して検索をかけたところ、住んでいる地域にはいるはずも無い種類がヒットしてしまい、調べるのをやめました。
小鳥からすれば立派な朝活、今日一日の気分を左右するであろう大切な儀式なのでしょう。ただ本当に、本当にうるさいのです。片方からは小鳥のさえずりと屋根の上を走り回る足音、もう片方からはカラスの威嚇。ねがえりを打った際の布の擦れた音でさえ、爆発音に聞こえるような深夜を乗り越えてきた私には刺激が強すぎます。
しかしやっぱり世界は朝になるんだもん、きちんと太陽と共に生活している生物を相手に、寝れないまま夜を引っ張り回している私が堂々と文句を言える資格はありません。


以前住んでいた部屋は朝日がよく見えるド東向きでした。夏は朝4時を迎えた頃から水色のカーテンがどんどんオレンジ色に染まりだします。4時なんてまだ深夜の民のための時間です。太陽がしゃしゃり出ていい時間ではないと考えます。
でももしかすると夜中の3時からはもう朝なのでしょうか。ラジオだとこんばんはとおはようございますが混在し始める3時。元気な朝のご挨拶を真っ暗闇で聞くのはなかなか不思議なもので、しかしその挨拶を心待ちにしている人がきっとこの世にはいるのだろうなと思います。オールナイトニッポンは5時までこんばんはでいてくれるのでありがたいです。
ついでになぜか太陽光があたると窓ガラスがびくとも動かなくなり(太陽の熱があたらず冷えた状態だとすんなり開く)、エアコンの効きも悪くなるので、一日のうちで朝一番が最も部屋が暑かった。そんな部屋ではますます眠ることなどできません。
みるみるうちに部屋の中の輪郭が浮き彫りになっていく様子を夏でも毛布を被ったまま睨みつけるのが意図せず日課となっていました。
幹線道路のすぐ近くだったので、夜中のうちは大型のトラックや、一日に一度は必ず聞く救急車とパトカーのサイレン、デカい音を自慢させたいバイクの音がたまに聞こえます。雨が降っていれば濡れた路面の上をタイヤが滑っていく音に変わるので何となく天気が分かりました。
それが朝になると一気に音の数が増えるのです。自動車の交通量が格段に増えるし、まず人が歩きだします。通学路もあるため子供たちの声も聞こえます。
そしてなにより4時半を過ぎると電車が走り始める音が微かに聞こえだします。これには救われる日と絶望を突きつけられる日が二極化していました。
長すぎる夜を強制的に終わらせてくれた上に、この世でこの時間に起きているのが絶対に自分だけではないことを狭いワンルームに一人きりの私に伝えてくれる。もしくは朝が来て常人なら新しい一日を迎えていることを突きつけてくる。日々移り変わりの激しい愛憎の波で大変です。


冬は幾分か太陽が来るのも遅いし、暗いままでいてくれる時間も長いし、空気もシンとして息がしやすいし、もうずっと冬ならいいのに


朝についてこんなに考えたのは、姉が私の名前を「朝」と私の命名選手権にエントリーしていたエピソードを思い出したからです。私の名はそれには似ても似つかないものに着地しました。自分の名前が特段お気に入り!という訳では無いけれど、私に朝が似合わないことに生まれる前になんとなく気づいてくれて助かったなと思います。


朝7時をお知らせする時計の針は悪魔のしっぽに見える

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