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良く生き良く働くためのアドラー心理学とドラッカー

0. はじめに

国連の関連組織SDSNが発表した世界幸福度ランキング2019において日本の順位は58位であった。アメリカ(19位)やイギリス(15位)、ドイツ(17位)をはじめとするいわゆる先進国の中でも特に低い順位となっている。53位だった2016年では健康寿命の高さは3位だったが、「寛容さ」においては136位(ワースト21位)となっていた。日本人の「寛容さが低い」ことに関しては実感が湧く結果である。昨今「他人のことを考えられない人」が話題によく上がるのがこの表れだと感じている。

また、厚労省によると、2013年時点でうつ病の有病率は6.7%であり、15人に1人は生涯に一度はうつ病にかかる可能性があるとの報告が上がっている。事実、私の身の回りにも精神を病んだ人間、病みそうな人間は少なくない。何よりも私自身がうつになっていた。2019年の7月初旬の1週間と8,9月の2カ月間、「心の底から面白いと思えない」表情は笑えていても、思考では本当にこれは面白いのか? 面白いと思って良いのだろうか? と思ってしまっていた。また、何をやっても無駄、成果にならない、外が怖くて部屋から出られない、などの感情も生まれた。

しかし、2019年12月現在、私はすっかり回復したものと思っている。病院にかかったわけではないため、本当にうつだったのか、本当に治ったのかは不明だが、体感としては治っている。さて、病院にかかっていない私がいかにしてうつを克服したか。その答えこそがアドラー心理学ドラッカーである。

今回はアドラー心理学とドラッカーの考え方のこれだけは知っておいてほしいという内容をかいつまんでなるべく短い紹介が目的となる。

1. アドラー心理学

「嫌われる勇気」という本のタイトルをご存知だろうか。2013年に出版され2年連続でベストセラー1位を獲得、ドラマにもなったタイトルである。この本で扱われているのがアドラー心理学である。実はアドラー心理学というのは正しくない。正式には「個人心理学」である。オーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラー(1870-1937)の教えを体系化した学問を指す。アドラー心理学で基本になる言葉がいくつかある。

1.1. 目的論

「何が目的でその人はその行動をしたのか」「何を達成したくて、その行為に出たのか」という視点でのとらえ方。「どうしてその行動をしたのか」という「原因」の追究ではなく、「目的」を追求する。

1.2. 全体論

心(意志)と体(行動)は別のもの、意識と無意識は別のもの、なのではなく「心と体は同じもの」として人全体を一つの統合された単位としてとらえる。

ここまでの目的論と全体論を踏まえると「本当は〇〇したかったのに(心では〇〇なのに)、できなかった(体が動かなかった)。なぜなのか?」というのは「本当は〇〇したくない、けど正直に認めたくない。ではこれからどうしたいのか」ということになる。「これからどうしたいのか」「どうなりたいのか」と正しい、よりよい方向に向かうために過去にとらわれず有用な目的を設定する(勇気づけ)。

1.3. 対人関係論

人生のあらゆる問題は対人関係によってもたらされる。その問題や課題を解決するために人は行動している。もっとも望ましい関係は、縦の関係ではない横の関係で広がる「友達の関係」。「褒める」行為は、上の者が下の者に評価を与える行為であり、縦の関係を示すことになる。また、褒められた側は「褒めてくれた人間からまた褒められるために」行動してしまい、自立ができず、「褒めてくれた人間」に依存してしまう。付け加えて、「褒めてくれた人間が褒めてくれる」かどうかは他人である「褒めてくれた人間」次第、その人の問題となる。このように「その課題について最終的な結論を出すのは誰か」「その課題について最終的な責任を負うのは誰か」などを考えることを課題の分離と呼ぶ。こうして分離した課題に対し、他者の課題には踏み込まないようにすると同時に他者にも自分の課題に踏み込ませないようにする。

1.4. 共同体感覚

「自分は共同体全体の一部であり、共同体とともに生きていく」と自然に感じられる感覚。これが未成熟だと自己中心的な存在となり、他者との関係を築くことが難しい。「勇気づけ(行為や喜びの感情を伝えること)(本来その人の中にある良い部分を引き出すこと)」の言葉によって身につけることができる。「○○できてすごい!」ではなく「○○してもらって助かったor嬉しい!」等。これらの他者に認められた、役に立ったという経験(主観的な感想)が薄いと自己肯定感(自分はここにいていい、自分はありのままの自分でいいと思えること)が育たない。

1.5. 認知論

人は物事をとらえるとき、自分なりの解釈をしてとらえる。すべて主観的な体験になる。この解釈の仕方は認知バイアスと呼ばれ、この解釈が極端だと精神疾患や犯罪に発展する。誰かを理解したいならば、その人と同じようなものの見方、感じ方ができるようその人に共感しなければならない。

1.6. ライフスタイル

人生の目的や目標に向かう人それぞれの固有のパターン。考え方、感情、信念、認知バイアスなどが反映された、いわばその人の性格のすべてに当たる。誕生直後から6歳くらいまでの生育環境や心身状態に影響を受けて形成され、一度身につくと簡単には変えられない。特に、先天的な障害や機能の発達が抑制された器官の存在(器官劣等性)や甘やかされて育つ、親に無視されて育つ、出生順位(長男、次女、一人っ子等)等に影響される。

1.7. 劣等感

自分ができないことを「できない」「劣っている」と認識する感情。この感情があることで人は「劣っている部分を補おう」という優越性を求めて能力を磨き進化していく。劣等感を解消、克服する勇気がない、あるいは自己肯定感が低いと、劣等コンプレックス(引っ込み思案になる、気にしていないそぶりをする等)や優越コンプレックス(自分は優れた存在だとふるまう、いわゆるマウントをとる等)となる。

1.8. まとめ

以上の見出しの単語と、各紹介文の太字の部分が覚えていただきたい部分である。人によって「心当たりがある」「自分じゃん」「そんなはずないでしょ」など様々な感想を抱いたことと思う。私がこうして示した入り口から先に進むか、その場にとどまるか、来た道を引き返すかは読者諸君の自由である。先へ進もうとする人たちへおすすめの本を2冊紹介し、アドラー心理学の紹介は終わりにする。この本以外にも「生きるために大切なこと」等のアドラー著の書籍をおすすめしたい。

1冊目はほとんどの引用元となった星一郎監修「面白くてよくわかる! アドラー心理学 よりよく生きるための大人の教科書」である。アドラーの人生の紹介(フロイトと袂を分かった話含む)から始まり、アドラー心理学の考えが絵と図、具体的な話を混ぜながら非常にわかりやすくまとめられている。(補足:課題の分離の言及がないが、引用元は以下『【アドラー心理学】課題の分離をもっと分かりやすく!|ライフハックアニメーション』

2冊目は最初に話題に出した「嫌われる勇気」の続編となる「幸せになる勇気」である。ただし、これについてはアドラー心理学についての知識を十分に蓄えてから読んでいただきたい。一言で言えば、この本はアドラー心理学の実践編となる本だが、アドラー心理学の深いところ、応用的なところを引き合いにしており基本的な知識をあらかじめ持っていた方がよりわかる内容となっている。

2. ドラッカー

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は2009年に出版されその年のベストセラー1位となった。今回紹介するのはそのドラッカーの考え方である。ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(1909-2005)はオーストリア出身の経営学者で「マネジメントの父」と呼ばれる。「マネジメント」と聞くと「上流の人間がすることで下流の人間には関係ない」という印象を持つかもしれないが、マネジメントの対象は組織だけではなく自己も含まれる。ドラッカーの考え方は一企業の経営方法から一個人の働き方まで大変多岐にわたるため、今回はある程度小さい規模での単語の説明でとどまることとする。

2.1. マネジメント

マネジメントには「事業」「管理者」「人と仕事」の3つがある。どれにおいても活動の結果は、次の活動のために「何が良かったか」「何が悪かったか」「では、今後どうするか」を検証しなければならない。本記事では、「人と仕事のマネジメント」関連の話を進めていく。これは仕事を設計し、人の特性に配慮し、最大限に貢献できるように採用、配置、教育、異動することを指す。

2.2. 知識

成果をあげるためのノウハウ。適正や才能などの「資質」と対象を科学する「学習」、そして積まれる「経験」が含まれる。

2.3. 組織

戦略を実行するには、さまざまな部門の、様々な担当者が、それぞれの責任をもって担当する必要がある。組織とは、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の分配の仕組み。事業部制や機能別組織、チーム制などの基本的な形態がある。構造は戦略に従って変化するものであり、自社の優位性を打ち出すためにどのような業務が必要になるかを体系的に知らなければならない(基幹活動分析)。強みを伸ばして致命的な欠陥を排除、克服すべきである。「何を実現しようとしているのか」「それは顧客が満足することか」「社員はどうか」など、自社の価値観を自問し続ける必要がある。以下10個の「病症」があると健全ではない。(1)管理階層の肥大化。(2)目標の貧困や混乱。(3)権限の過度の集中。(4)無能な者の放置。(5)部門間問題の頻発。(6)多すぎる会議。(7)他人への気の遣いすぎ。(8)職責を持たない人への依存。(9)度重なる組織変更。(10)経営層や管理層の年齢の偏り、

2.4. 意思決定

複数のやるべきことから「やるべきこと」と「やらないこと」を決め、やるべきことを「やるか、やらないか」を決めること。やむをえず妥協しなければならないとき、最初にすべきなのは正しい質問。手順は(1)問題の分類、(2)意思決定の目的を確認、(3)複数の解決策、(4)実行手段への落とし込み、(5)徹底的に実行、(6)結果を評価。

2.5. 人材の配置

弱みには目をつぶり、強みを生かす。万能な人などいない。(1)、良くやった仕事は何か、(2)良くやれそうな仕事は何か、(3)より良い仕事をするために何を身につけなければならないか、を問う。

2.6. コミュニケーション

成立条件:(1)受け手の認識、受け手のわかる言葉で話す。(2)受け手の期待、ヒトは期待することしか受け入れない。(3)受け手への要求、「わかってくれるだろう」などのあいまいさを排除。(4)コミュニケーションと情報、コミュニケーションは主観的なもの、情報は客観的であるほど有効。前提となる情報を共有できなければコミュニケーションは成立しない。そして、仕事に必要な情報を常に発信し続ける必要がある。

2.7. リーダーシップ

成果を上げるリーダーは皆共通して「やるべきことをやっている」。「資質」「体系的な学習」「経験」によってリーダーは構成される

2.8. モチベーション

口先や満足(精神論)ではなく「仕事への責任」。(1)人の正しい配置、好きな仕事か、貢献できる仕事をしている。(2)高い水準の仕事、チャレンジ性のある仕事。(3)自己管理に必要な情報、進捗や評価、取り組み度合いなどの情報。(4)決定への参画。納得して取り組める。

2.9. 会議

(1)会議の目的を明確にする。(2)司会をしながら意見を述べない。(3)最初から貢献に焦点を合わせる。必要な人だけで会議を行う、発言しない人間を会議に参加させる必要はない、無駄。結果は決定事項の決定に関係する人全てに報告する。

2.10. 成果を上げる能力

(1)貢献への決意、「誰に」「どのような貢献をするか」を自問する。(2)必要とする3つの成果、a.売上、利益への直接的な成果 b.経営理念や経営方針など価値観への忠誠 c. 明日や次世代のための人材育成。(3)外部への貢献に焦点を当てる。(4)強みを基準にする。(5)成果をあげる領域に力を集中する。(6)成果を上げるよう意思決定する。そして(1)わかるまで考える。(2)できるまでやり抜く。(3)さらに創意工夫する。

2.11. 強みを活かす

(1)強みを知る、自分の強み=これまで上手にやってきたこと。「やると決めたこと」の「期限」「期待値」を書きその結果を検証。(2)仕事の仕方、一人でやったか集団か、リーダーとしてか、フォロアーとしてかで成果が変わる。成果を上げたかどうかが判定基準。(3)学び方、聞くのか読むのか、自分に合った学習方法を見つける。(4)価値観を優先する、価値観の合わない仕事は避けるべき。毎朝見る鏡の中の自分は輝いてますか? 強みを知るためには全ての活動を記録する。

2.12. 時間管理

(1)時間は何に使われているか、とにかく記録に残す。(2)浪費の原因を整理する、本当に「自分がしないといけない仕事」は? 他人の時間も活用する(3)時間をひとまとめにする、分断された6つの15分よりまとまった1時間。(4)非生産的なものを捨てる、優先順位の低い仕事は体系的に廃棄。

2.13. 優先順位

(1)過去ではなく未来を。(2)問題ではなくチャンスを。(3)横並びではなく独自性を。(4)変革をもたらすものに照準を。(5)廃棄すべきものの決定と順守。「あると便利」はやらない。

2.14. 健全な人間関係の構築

(1)コミュニケーション、貢献という共通言語を持つ。(2)チームワーク、それぞれのメンバーが「負かされた責任を果たす」。(3)自己啓発、チームの目標を高く設定し、その達成に向かって自分の能力を高める。(4)人材育成。ドラッカーの人間関係は、社会への貢献に基準を置いている。

2.15. まとめ

今回もほとんどの引用元となる本を紹介する。藤屋伸二著「図解で学ぶドラッカー入門」。タイトルの通り、図解を含めた説明が豊富でわかりやすいのはもちろんのこと、巻末のドラッカーの本をどの順で読めばよいのかの解説も載っている。もちろん、ドラッカーについても「マネジメント」「プロフェッショナルの条件」等ドラッカー著の本を読んでいただきたい。

3. おわりに

アドラー心理学とドラッカーに共通している考え方として「社会への貢献」が上げられる。人間一人ではできないことを、別のできる人間と協力してなしとげていく。それは人類が古くから繰り返してきた言ってしまえば「当たり前」のことに他ならない。それなのに「生きづらさを感じる」「これでいいのか」等の気持ちを抱いてしまうのは、そういった「当たり前を知る機会」が希薄になってきたからではないか。

どうなるかわからない未来に向かって今を生きる読者諸君の一助になれば幸いである。

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