いっぱい食べる君が好き_参考画像

いっぱい食べる君が好き 前編

 ここはリビング。華やかな夕食を囲む二人。 
僕は赤のワインボトルを持ち、ウェイターのように手首をひねって彼女のグラスに注ぐ。
「召し上がれ」
「ありがと」

 

 広々とした空間に質素な木のテーブルとイス、飾り気のない白いテーブルクロスが豪華な食事をキュッと見立てる。部屋の隅に対角に置かれているオレンジの間接照明が光と影のあたたかな雰囲気を醸し出す。

「いただきます」

ハナはナイフとフォークを手に取り、微笑みながらステーキを切る。

「何?」

見つめているのがバレた。

「いいやなんでも」

ソースが滴る肉を口に運び、舌で頬張る。
一口噛むと肉汁とソースが絡み合い口の中が幸せでいっぱい、という顔をし
ている。

「どう?」

ハナは飲み込んでから、

「さすがのお手前で」

と冗談めかして頭を下げる。

「はは。良かった」

人間の魅力は「食事」に出ると思っている。
美味しそうに食べる人はとても魅力的で楽しい。
彼女はとても上品で、素直で、ステキな女性だ。
また肉を切り分け、食べる。
こんな時間がずっと続けばいいのに。

「食べてる時が一番可愛らしいよ」
「あいあお」

もぐもぐしながら喋るところなんかも。

「ハナ。今日は聴いてほしいことがあるんだけど」

ハナは動きを止め、口元を丁寧に拭いてから姿勢を正してくれた。

「なぁに?」
「あのさ」
「うん」

あぁ、口の中がカラカラだ。
無性にワインが飲みたい気分。

「僕と」

ピンポーン。

僕とハナはリビングの先の玄関に目を向ける。

「あれ?」

僕は時計を確認する。

「どうしたの」
「ちょっと待ってて」

僕は席を立ち、リビングのドアを開け、玄関に向かう。
ドアスコープを覗く。

「誰かいた?」

ハナが後ろから抱き着いてきた。
僕の身体は一瞬で硬直した。

「いいや、何でもないよ」
「そう」
「さァさ、ご馳走が冷めちゃうよ」

僕は抱き着いたままの彼女を引きずりながらリビングに入る。
ワインは飲み干されていた。

「お代わりちょうだい?」

ハナは椅子に座り直してワイングラスをよこした。
改めてワインを注ぐ。

「サトルは?」
「もちろん」

自分のグラスを用意し、改めて向き直る。
無言で見つめ合い、

「乾杯」
「乾杯」

綺麗な音色が響き、先にグラスを傾け、飲み干す。
乾いた体にアルコールが沁みた。

「で、サトルと、何?」

携帯電話が鳴りだした。

いただいたものはすべて創作活動にあて、全国各地を回って作品をつくったり、地域に向けた演劇活動の資金にします。「たった一人でもいいから、人生を動かす」活動をより大きく、豊かに頑張ります。恩返しはいつになるか分かりませんが、必ず、させてください。よろしくお願いします。