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氷…必要?

~運動家_ヤスタの運動簿vol.1~

 
 スポーツ現場で、また日常の生活に於いて、外傷・障害に対する処置として一般に普及している「アイシング」について記していきます。
(※現場から遠ざかって1年以上経っておりますため、現況は判りかねますが…おそらく変わってはいないと思われます。)

 トレーナーの専門学校の授業で、まず最初に習うのが「アイシング」です。

 アイシングというのはそもそも、応急処置「RICE」のうちの1つで患部を「冷却」することであります。


使用していたテキストから、



RICE処置とは…

RICE処置とは…rest、ice、compression、elevationの4手技の頭文字を用いた外傷の代表的な応急処置である

:rest(安静)
:ice(冷却)
:compression(圧迫)
:elevation(拳上)

公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト8巻「救急処置」p13~14



冷却の目的は?

炎症の抑制

なぜ炎症を抑制する必要があるの?
炎症が大きくなると2次的低酸素症のリスクがあるため


2次的低酸素症とは?

損傷した組織の周辺細胞が酸欠状態になり壊死する現象



【組織損傷の流れ】

外傷

炎症

代謝レベル↑

酸素・栄養素需要↑

酸素・栄養素など供給↓
(組織の損傷により)

2次的低酸素症(2次的外傷性損傷)→酸欠→壊死

組織の損傷の経過
公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト8巻「救急処置」p13図Ⅷ-c-1



再び使用していたテキストから、

炎症とは…

炎症とは…刺激に対する身体の局所的な組織レベル反応
①異物に対する生体反応
②修復開始のために壊死した、または壊死しつつある組織の排除
③正常な組織の再生促進

【5大徴候】
①発赤
②熱感
③腫脹
④疼痛
⑤機能障害
「炎症は組織の修復にとって不可欠な反応であるため、応急処置は、炎症させないのではなく、過剰な炎症反応により組織の損傷が拡大しないように制御することを目的とする」

公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト8巻「救急処置」p12


なぜ炎症が起きるのか?

を理解した場合、当時は氣付けなかった矛盾にぶつかります。

炎症の5大徴候

 
必要だから…赤くなる(血液が集まるため)
必要だから…患部の温度が高く(血液は熱源)なる
必要だから…腫れる(血液の漏出や細胞液の漏出が集まってくるため)



 
 テキストの引用、炎症の項に戻って…

「炎症は組織の修復にとって不可欠な反応」


 であるならば…「過剰な炎症反応により組織の損傷が拡大しないように制御」するために冷却するのは矛盾していないか?

 炎症を抑える→血流抑制→組織の修復遅延
 という流れになるのでは?
 痛みを緩和(感覚麻痺)させるメリットはあるものの…

 血液の流れを阻害することは多くのデメリットが考えられます。このあたりに関しては、栄養とセットであると考えるため何時かの機会に…。

 学校の授業、実習先の現場、卒業後のスポーツ現場でもなにも疑うことなく、とにかく現場の処置として「冷やす」という行為、または急性期の選手には「今日から3日間は冷やして!」という指導を闇雲に行っていた思考停止状態であったと自覚しております。特にトレーナー業界で名を馳せているわけでもない私だからこそ、西洋医学(整形外科領域)を盲信することなくこのような氣付きに至ったのでは?と思っております。



~氷が回復を遅らせる理由~


1978年に「RICE」を提唱したDr.Gabe Mirkin自身が「氷が回復を遅らせる理由」というタイトルで疑問を投げかけている記事


【記事の要約】

『氷+圧迫が治癒を早めるという証拠はほとんど見られない』
冷却+圧迫(併用)≧圧迫のみ?
※氷+運動は足首の捻挫の治癒にわずかに役立つ可能性がある (The American Journal of Sports Medicine  2004年1月 )

『治癒には炎症が必要』
細菌が体内に入る

細胞とタンパク質を感染領域に送り込む(免疫)

細菌を殺す

筋肉や他の組織が損傷を受ける

同じ炎症細胞(マクロファージ)を損傷した組織に送る
↓(IGF-1を放出)
治癒を促進
※感染と組織損傷の両方に対する反応は同じ
IGF-1(インスリン様成長因子)とは…タンパク質の成長のための必要なホルモン
※ホルモンは視床下部から血液とともに組織に分配される

生理学的なメカニズム

IGF-1(インスリン様成長因子)とは…タンパク質の成長のための必要なホルモン  ※ホルモンは視床下部から血液とともに組織に分配される


『2つのグループのマウスを使用した実験』

グループ1:正常(遺伝子操作なし)
グループ2:炎症反応を形成できないように遺伝子操作
塩化バリウムを注射して筋肉を損傷させた
グループ1:すぐに治癒
グループ2:治癒しなかった
※治癒したマウスは、損傷した筋肉に大量のIGF-1を持っていたが、治癒しなかったマウスにはIGF-1がほとんどなかった(米国実験生物学会連合 2010年11月)

損傷した組織に…
氷を適用

血管収縮(損傷近くの)
↓(※血管は何時間も開いていない)
血流遮断
※血流の減少により組織が死に至る可能性と、永続的な神経損傷を引き起こす可能性あり

『炎症を抑えるものはすべて治癒を遅らせる』
【治癒を遅らせるもの】
・コルチゾンタイプの薬
・イブプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬など、ほぼすべての鎮痛薬
・よく使用される免疫抑制剤関節炎
・保冷剤または氷の適用
・損傷に対する免疫反応を遮断するその他のあらゆるもの
※免疫反応をを低下させるものはすべて筋肉の治癒を遅らせる

『氷は強さ、スピード、持久力、および協調性を低下させる』
冷却は痛みを軽減するのに役立つかもしれないが、アスリートの強さ、スピード、持久力、協調性を妨げる
冷却直後に筋力速度パワー敏捷性に基づくランニングが低下したと報告されている
※短期間の再加温により、強さ、スピード、協調性が回復
( Sports Med、2011年11月28日)



トレーナー界隈ではない人體研究家の方の考察


このような見解も↓


【ヤスタの見解】

・炎症は體(からだ)の治癒のための必要な反応
・炎症抑制は予後のためによくない
・温める>冷やす


 学生時代から違和感を感じていたのは感覚的・直観的なもので、現在ではそれが確信へと変わっている。
 トレーナー界隈と西洋医学嫌悪界隈で見解が別れることは、各々の立場があるため仕方のないこと。


【処方】

・基本冷却不可
(※明らかに骨折が疑われるような内出血(腫脹)が視られる場合は冷却可)
・可能な範囲の運動+栄養摂取指導(血流促進して炎症物質・老廃物を流をすため)
・症状は治癒のための正常な反応であることを教育する


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