備忘録:精神医科学基礎 e-learning Vol.1

精神医科学基礎 e-learning Vol.1視聴後、テキストを読みながらまとめた。

1. 精神医学の知識の重要性

心理カウンセリングは準医療行為(パラメディカル)に位置付けられていて、クライアントの支援・援助のための医者との連携は必須である。医者は、心理カウンセラーなどには認められていない、処方・診断を行うことができる。情報共有と意思伝達、リファーのために、他の専門家が持つ知識についての基礎的な知識は求められるし、そもそも精神状態の正確な見立てができないと有意義なカウンセリングを実施することはできない。

ここで、改めて心理カウンセラーがしてはいけないことについてまとめよう。「〇〇さんは◇◇障害である」と当事者に伝えることは、診断に類する行為であり、決してしてはいけないことである。また、正式な医療記録への記入も許されない行為である。そして、心理カウンセリングは、あくまでも心理的な治療や支援に関する正式な契約を結んだ人との間でのみ実施することが許されている。契約無しに勝手にカウンセリングを実施することは御法度だ。

2. 精神医学の歴史

精神医学の歴史には、3つの大きな転換点、革命と呼ばれているものが有る。第1の革命は、フランスの精神科医、フィリップ・ピネルが、精神疾患患者を鎖から解放して適切な治療および支援を開始したことである。第2の革命は、1900年代初頭、フロイトが、精神分析を創始しこれを応用した精神分析療法を確立したことであり、精神分析療法は現在の対話形式の心理カウンセリングのスタイルの基盤になっている。第3の革命は、1960年代後半に、医療関係者が地域社会に介入して精神疾患患者の支援を行なったり精神疾患の予防をしたりするコミュニティ心理学が確立された。コミュニティ心理学は、精神疾患患者と健康な人の境界に関しての啓蒙に大いに有用であろう。

肉体に働きかけるアプローチも試行錯誤されてきた。1930年代後半に、精神科医であるモニスが、ロボトミーなる手法で精神疾患患者の脳の前頭葉をアルコールにより焼却切断またはメスにより切除するという精神外科を開発した。ロボトミー手術を受けた患者は、「意志」の部分が破壊されることにより、おとなしく従順な性格になるものの術前とは別の行動・感情の障害が生じやすく、「計画を立てられなくなること」「自分で考えられなくなること」が生じることが報告されていた。非侵襲性の治療方法である薬物療法が発展したこともあって、1970年代までにはロボトミー手術は行われなくなった。

精神疾患がどのように研究・症状の体系化が行われたのかということを辿るために統合失調症に焦点を当ててみよう。エミール・クレペリンは明確な区別がされていなかった精神疾患を分類し、早発性痴呆なる状態と双極性障害は別の病気であると見抜いた。これが統合失調症の症状の体系化の始まりである。

フロイトとともに精神分析学療法を確立したユングの師匠であるオイゲン・ブロイラーは、早発性痴呆だと考えられていた状態に対し、「精神の機能の統合が失われている状態である」との見立てを行い、Schizophrenia(和訳:精神分裂病(→統合失調症に2002年に訳を変更))という語を創設した。ブロイラーはSchizophreniaについて
( 1 ) 基本症状は連合弛緩・感情障害・自閉・両価性である
( 2 ) 思考異常と自我障害が見られる
( 3 ) 陽性症状と陰性症状に症状が大別される
( 4 ) 緊張病症候群という病態がある
ということを示した。これらの症状については別エントリに書いた。

クルト・シュナイダーは、基本症状を定義するとともに、自覚症状により統合失調症の症状を一級症状と二級症状に区別して示した。基本症状は連合弛緩・感情障害・自閉・両価性であるとし、一級症状には思考化声・話しかけの応答と対話形式の幻聴・身体への影響体験・思考奪取・思考伝搬・妄想知覚・作為体験が含まれるとし、二級症状には一級症状以外の幻覚や錯乱・知覚する対象が無く突然ひらめく妄想着想・抑うつ性及び上機嫌性気分変調・感情貧困化が含まれるとした。シュナイダーの一級症状については別エントリを参照されたい。

また、シュナイダーはDSMが作られる以前に、10種類の精神病質についての研究も進めた。この精神病質という概念は、パーソナリティ障害の概念に似通ったものである。(統合失調症でないが性格に著しく偏りが有るために、他者とのコミュニケーションや学校生活・仕事などの社会的場面において問題が有る状態をパーソナリティ障害という。)

シュナイダーとブロイラーによる統合失調症の洞察を比較しよう。まず、統合失調症は連合弛緩・感情障害・自閉・両価性が中核になる基本症状であることが一致している。また、シュナイダーの一級症状はブロイラーの報告した思考異常と自我障害に含まれ、シュナイダーの二級症状:感情貧困化はブロイラーの陰性症状との類似性が高そうだ。身体的な表出に関しては、シュナイダーは一級症状に身体への影響体験を含めていて、ブロイラーは思考異常・自我障害のくくりとはおそらく別の緊張病症候群なる状態も有るとしている。

3. DSM「精神疾患の診断・統計マニュアル」

精神科医は診断を行い、治療するが、1900年代初頭までは精神科医によって診断が異なるケースが多く見受けられた。そこで、精神疾患に関する科学的で客観的な指標に基づいた診断マニュアルが作成された。この診断マニュアルがDSMである(DSM-Ⅰが1952年に出版された)。DSMは何度か改訂されていて、最新版はDSM-5である。

精神疾患は、病因により外因性・内因性・心因性に3分類されている。外因性精神障害とは、感染・薬物の効果・脳の外的損傷などによるものだ。内因性精神障害とは、神経伝達経路の異常など脳の機能障害や遺伝などの要因によるものだ。心因性精神障害とは、社会環境が心理に影響を及ぼしているせいであるものだ。

診断を行う際、外因性であるか否かを直ちに見極める必要が有る。例えば、脳腫瘍により抑うつ状態が生じているのならば、精神科医による薬物治療でなく、脳神経外科などでの治療が必要である。外因性でなければ、精神科や心療内科での治療を進めることになる。

ところで、精神疾患の診断基準において、
「その状態によって、本人が苦痛を感じていたり(他者に苦痛・困惑を与えていたり)、各種症状が原因で日常生活や主業(学業・仕事)に支障が出ている」
かどうかが肝要である。いくらおかしかろうとも、誰も困っていないのなら治療する必要は無い。

ある疾患に対しての分類は、病型分類またはスペクトラムによる分類によって行われる。病型分類がされるとき、病型の型の重複は許されないので通院ごとに変わることが有る。また同じ病気に対して〇〇を伴うか否かで分類することも有る。DSM-5からはスペクトラム概念が取り入れられ、病気の傾向の強弱のグラデーションで考えられるようになった。つまり、異常な傾向が非常に薄い状態(健常)、何らかの異常な傾向が認められる状態(xx傾向)、異常が顕著で生活に支障が出る状態(xx症)、著しい異常が常態的に認められ生活全般に生活をきたす状態(xx障害)が1つの連続した枠組みで捉えられるようになったのだ。スペクトラム分類を用いることで、病院ごとに診断名が変わることを防げるほか、健常からxx障害まで地続きとすることで精神障碍者への差別や偏見の軽減も期待される。

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