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清楚系の友人が運転してケツでイった話

初心運転者。冬に免許を取った砂利達がこぞって公道に溢れ出すタイミングで見られる、春の風物詩である。かくいう自分も、その砂利の一人なんですが。

友人のAも、例に漏れず運転歴0年の運転赤ちゃんであった。おまけに片側一車線しかない片田舎から三車線の街に越してきたばかりのお登りさんときた。こいつは是非とも乗ってみたいよな?

越してきてすぐの頃、家に遊びに行くと言ったら駅まで迎えに来てくれた。駅のロータリーで待っていると、ヨロヨロとやってくるグレーの軽自動車。

なんと彼女はマニュアル運転者であった。

タクシー乗り場に止まる。そこでいいのか。急いで乗り込んでドアを閉めた。

満面の笑みのA。「ヤーベェ。足震える」

自分はAT限定だが、本能的にわかる。この人にマニュアルは絶望的にあっていない。焦ると無になるって前言ってたじゃん。

元気に出発。ガッコン。「はい、エンストしました。」
なるほど、これがエンストか。初めての感覚。今日中に死なないことを祈ろう。

「ここをまっすぐ...」アクセルを踏み込む。しかしここは左折専用レーンである。「あっ」

出発30秒で既に目的地が遠のいていく。さらば夜明け。

雑談しながらヨロヨロと進み、倍ほどの時間をかけてなんとか家へと戻ってきた。

そしてもうなんとなくわかっていたが、彼女は駐車が苦手であった。

窓を全開にして外を覗き込むA。ギリギリ前向き駐車はできなそうである。「うまく止められない....!」

「後ろから入れればいいから」というと、Aは力強く頷いた。

「っしゃあ!ケツでイくぜぇ!」

全開の窓からセンシティブな言葉が真昼の住宅街に響いた。

声が、すごく、でかい。笑い声だけはまったく声が出ていなかったことだけが救いであった。

震える声で言い直す。「バックで...入れます...」もはやまったく直っている気がしない。

駐車は思いの外上手く行き、その後15時から2人でビールを開けた。

近所の人にケツでイった娘だと思われていたとしても、ビールとこの友情さえあればいい。
そう思える時間だった。

これが新社会人になる二日前の話。

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