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数学的帰納法は帰納法?

論理推論の本を読んでいて、気になったので調べてみました。
数学的帰納法は演繹法だ、というのはよく言われますが、なんでそんなややこしい言葉が使われるようになったのか?の起源にフォーカスしてみています。

前提:帰納法と演繹法

ロジカルシンキングなどで一般的に言われる論理構成(推論法)の中に、帰納法と演繹法があります。
どちらも根拠となる情報をもとに結論を導く(推論する)方法ですが、その論理構造に違いがあります。

帰納法

帰納法は、特定の事例や観察から一般的な法則や結論を導き出す推論方法です。このプロセスでは、個別の観測結果から出発し、それらの観測を基にして一般的な原則やパターンを推測します。帰納法は科学的研究でよく用いられ、観察や実験を通じて得られたデータから理論を構築する際に役立ちます。

帰納法の特徴:

  • 観察や実験からスタートする。

  • 特定の例から一般的な結論を導く。

  • 結論は、提供された証拠を超えて拡張する可能性があるため、常に100%の確実性を持つわけではない。

  • 新しい証拠が現れると、以前の結論を再評価する必要がある場合がある。

演繹法

演繹法は、一般的な前提から特定の事実や結論を導き出す論理的推論のプロセスです。この方法では、一般的な原則や法則を出発点として、それらを特定の状況に適用することで具体的な結論を導き出します。演繹法は数学や論理学で頻繁に使用され、正しい前提から論理的に導かれた結論は必ず真となります。

演繹法の特徴:

  • 一般的な前提から出発する。

  • 論理的なステップを経て特定の結論に至る。

  • 前提が真であれば、結論も必然的に真となる(論理が正しければ)。

  • 結論は前提に完全に依存しており、新しい証拠が出ても結論の妥当性は変わらない。

数学的帰納法は帰納法か?

数学的帰納法は一般的に以下のプロセスで行われる証明法です。

自然数 𝑛 に関する命題 𝑃 がすべての自然数 𝑛 について成り立つことを証明したいときに
[基底ステップ]𝑛=1 のとき 𝑃 が成り立つ。
[帰納ステップ]𝑛=𝑘 のとき 𝑃 が成り立つと仮定すると,𝑛=𝑘+1 のときにも 𝑃 が成り立つ。

論理的に、基底ステップが真であれば帰納ステップも必ず真である、という構造になっているので、演繹法的な論理構造に近い(一般化された推論ではなく、基底の情報に反例がある可能性は排除される)証明手順になっています。

なので、よく言われるように、数学的帰納法というのは演繹的な論証である、と言って問題ないでしょう。

疑問:日本語訳の問題?

誤訳によって異なる概念に「帰納法」という同じ言葉がついてしまったのか?というのが気になったので英語でのそれぞれの用語について調べてみました。

「数学的帰納法」は "Mathematial induction"

Mathematical induction - Wikipediaen.wikipedia.org

論理推論の帰納法は "Inductive reasoning"、ちなみに演繹法は "Deductive reasoning"

Inductive reasoning - Wikipediaen.wikipedia.org

と言うわけで誤訳ではなさそうです。

ちなみにWikipediaにも混同しないようにと記載されているので、この言葉の混同は国際的に発生しているらしいですね。

"Inductive inference" redirects here. Not to be confused with mathematical induction, which is actually a form of deductive rather than inductive reasoning.

https://en.wikipedia.org/wiki/Inductive_reasoning

疑問:数学的帰納法の言葉の由来は?

探していると、以下の論文で「数学的帰納法」という言葉の語源について研究されているのを見つけました。

1600年代、ある自然数𝑛に対する法則を導くのに、𝑛=1, 𝑛=2, ..., 𝑛=6までの例を計算して、𝑛一般について成り立つはずである、という所謂一般的な帰納法に基づく論証が行われたことが起源で、𝑛に対して漸次的に値を代入して論証していく方法を数学的に「Induction(帰納)」と呼ぶようになった、とのことらしいです。

本筋とは関係ないですが、ベルヌーイとかド・モルガンとか大物数学者もこの語源に関わってたんだなと思うとなんか面白いですね。

結論

数学的帰納法は、演繹的な証明であると言うことは疑義がなさそうです。

そして、その語源は、過去に数学的な論証を帰納法的に行なったことから発展し、自然数𝑛を漸次的代入していく証明方法に「Induction(帰納)」が使われるようになった、ということらしいです。



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