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2023年に読んだ本

78冊を読みました。100冊に届かず。電車に乗って読むことが多いけど昨年はあまり乗らなかったかも。

では星4つ以上の本13冊を紹介します。残念ながら星5つはありませんでした。(詳細はbooklogを見てください)


三体III 死神永生 (劉慈欣)

あまりにスケールの大きな内容に拡大。
宇宙そのものの存在意義、時空を超えたストーリー。
一体この作者に限界はあるのか?

高瀬庄左衛門御留書(砂原 浩太朗)

今年読んだ時代小説では一番良かった。
特に名声もなく剣に優れているわけでもない老齢の武士。
家督を継いだ息子を失い、その妻とその弟に絵を教えながら暮らしている。
昔の稽古仲間たちとの再会がありながら、それは良くも悪くのあり庄左衛門の生活に暗い影を落とす。
そのうちの一人は息子の事故死に関わったことがわかり思わず剣に力が入る。そして自分を陥れる罠。
若い侍との出会いがあり、老齢の庄左衛門は希望を持ちながら絵を描きながら余生を過ごすのか。
江戸時代の頃のこの老齢の主人公は時代は違うけど自分と同じような年齢なのだろう。老齢ながら仕事をこなしながらも絵を描くことで生活のバランスを保ち、身近な仲間たちに支えられて生きている。若い世代からも尊敬を受けながら。
何かを成し遂げるわけでもないのだけど、自分が共感をできる内容だった。

名もなき毒(宮部みゆき)

杉村三郎シリーズ第2作目。
1作目よりも登場人物の描き方が緻密で丁寧であった。
2つの事件がパラレルに進みながら、最後はほんの少しだけ関わりが出るが、これが絶妙だった。
義父の役割が素晴らしく、そのように年を取りたいなぁと思う。

上海灯蛾(上田早夕里)

開戦前の上海。日本軍、青幇(中国の秘密結社)、アヘンの栽培と取引に関わる中国人になりすました日本人の生き様。
開戦前の上海をきっちりと表現し、中国人として暗躍する次郎の活動と心の内側をうまく描き出している。
当時の中国人から見た日本軍への思いや、逆に日本軍が資金調達をするためにアヘンをどう扱ったかがわかる。
さらに青幇が日本軍から隠れてアヘン栽培をするためにミャンマーに畑を作ったのだが、それが現代のゴールデントライアングル(一時ヘロインの世界で60%以上の生産)を作ったという仮説(真実っぽい気もする)に基づいている。SF作家でもある著者の思い切った洞察の面白さを感じる。

時を追う者(佐々木譲)

過去に戻って太平洋戦争を阻止する。奇想天外な題材。
しかも現代からではなく、戦後まもなくのチャレンジ。
3名のチームは山奥の洞窟を辿って戦前に戻る。しかもいつに戻るかはわからない。想定よりも戻った時間が遅かったために予定外の活動をしないと戦争は止められない。
満州に渡った彼らには様々な想定外の問題が起きるが、逆に彼らを信用する組織も現れ、果たしてそのチャレンジは想定通りになるのか?
普通に映画にでもしてもらうと面白そうだ。中国での関東軍の行いや中心人物をしっかり調べないと描けない小説。もう少し中国側のリーダークラスが表に出てくるとスリルもあって面白かったかも。でも十分に楽しめる内容でした。

南風に乗る(柳広司)

題名から沖縄をベースとした推理小説かと思い。全く違います。ほぼフィクションでしょう。
沖縄が戦後に被った様々な障害。それを真っ向から日米を相手に戦った瀬長亀次郎とその周辺の方達の生き様。
ここまで沖縄がアメリカにいいように扱われていたとは正直驚いた。
先日も沖縄に仕事で行ったが、あの素敵な島にこんな過去があり、そして現在も続いていることに憤りを感じる。
沖縄の過去と現在を知らずして単にリゾートとして行くことはとても残念だと思う。この歴史を知っていることで、沖縄の皆様の心の奥底に触れることもできるし、島を占領している米軍を見る目も変わってくるでしょう。その上で沖縄を目一杯楽しみ、お金を落としていくことの価値を感じながら伺いたい。

黄色い家 (川上未映子)

文章力が素晴らしい。
閉塞感の中にも生きるモチベーションを持って頑張っていたら、実は他人に操られていたのではないかと過去を思い起こす。
お金のこと、バカラのことを登場人物に語らせているが、これがとても深い。
ストーリーとしてはなんの解決もなく重たく終わったしまうが、一人の登場人物の心を描き切っているところが小説として素晴らしいと感じた。

異常【アノマリー】(エルヴェル・テリエ)

これは面白い。
冒頭は殺人を仕事とするブレイクの話から。これ自体がストーリの基軸になるほどの立ち上がりなのだけどそうではなかった。
パリ発ニューヨーク行きの飛行機に異常が起こる。それがとんでもないのだ。
SF的でありながら、結局人の心に触れる内容。
もし、自分と同じ記憶とDNAを持った人間がいきなり現れたがあなたはどうする?あるいはそんな人が自分の知り合いに現れたらあなたはどうする?
と問いかけている。
平野啓一郎の「空白を満たしなさい」からインスパイヤーされたのではないか、と思ってしまった。あちらは死んだはずの「僕」がなぜかこの世に現れる。こちらはいつもの日常の中に自分が現れるのだ。
残念ながらフランス文化を知らないと理解できない部分があり、注釈はあるものの…フランスで大ベストセラーになったというのはよく理解できる。

寿命が尽きる2年前 (久坂部羊)

いろんな意味で参考になった。
2年前とは?つまり今。わかりにくいだろうけど、自分のように還暦を過ぎた人間には「いつ死んでもおかしくない」わけだから(事故もあるし)それは2年後と仮定して、悔いのない生き方を今しなさい、という意味です。
老齢になって「なんかあったら」とか「子供のために」とか考えてお金を使わずに人生を楽しまないのは勿体無い。自分のお金を感動や素晴らしい体験のために使って満足して死ぬべきだ。
人間ドックに行って不安になって医者にかかりっきりになったり、死ぬのが怖くて病院で一生を送るのは勿体無い。
うーん。その通りです。医者であり小説家でもある著者が語る内容には説得力があります。

砂の宮殿(久坂部羊)

題材的にとても面白い。
医療は国民に公平にあるべきだ、というマスコミの主張に対して、医療だってビジネスと捉えれば投資をして利益を出すというモデルも全く違反でもなくあっても良いのではないか?ということ。
惜しげもなく設備投資をして、お金持ちの命を救ってしっかりと儲ける。それ自体はおかしくもなく、マスコミと対決をしながらもストーリーは進んでいくのだが。
我が身を守るために実は…ということが後半になって少しずつベールが剥がされていく。
途中までは主人公に感情移入しているのだがあれよあれよという間に展開が変わっていき、金儲けもたいがいにしろ、とう気持ちになってしまう。
お金がかかる最新医療とさらに進んでまだ完成されていない医療技術をどう使うか、問題提起だ。

忘れる読書 (落合陽一)

表題に意外性があるのとメディアで取り上げられているので購入した。
要するに落合氏は多読だけど読むことが目的ではなく、アウトプットこそが重要だということ。
「何か一つの価値をインストールして一発で解決しようとするのではなく価値と価値との間を動き回ってそれをやり続けるという生き方」によってレッドオーシャンで食い合うという世界とは真逆で勝負できる。
著者の考える「Work “as” life」という考え方は趣味と仕事の間の境目はなくて、いつも「全力」でやっている「日常」というもの。
何でもいい、自分が価値があるというものにこだわって人生を楽しんでいればいい。でもその価値に気づくためにはたくさん本を読んでそれに気づくことが大切なのではないか、と私は読みました。だからそこ内容にこだわることも必要だけど自分に取って価値のある部分を理解してあとは忘れてしまって良い、という意味ではないかな。

ジヴェルニーの食卓 (原田マハ)

積読をしてもう数年。
同じく積読していたモダンを読んですぐに読みたくなった。
モダンを読んでからなのでなんとなく繋がりを感じながら原田マハの描く美術の世界に入り込むことが出来た。
特にマティス。
著者の豊富な知識とそれをこのように小説にまとめる力には脱帽する。ぜひ海外でも広めて欲しい。英語やフランス語に翻訳はされているのでしょうか?

拳の先(角田光代)

長いが飽きずに読み切れる。
すでにボクシングをやめて記者として仕事をしている主人公はボクシング雑誌から他のジャンルに替わる。
しかしむしろ前作のような濃い関係より、第三者としての視点がまたボクシング関係者の思いをうまく浮き彫りにしている。
アジアの国で一人自分を磨くボクサー。でもものすごく努力をしても、全てがうまく行くわけでもない現実との葛藤。
スポーツマンとして淡々と受けて一つの人生の経験として流せていく潔さ。ここにいじめを受けている前向きな少年の姿が重なり…。

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